1話:「俺の」異世界転生



「ようこそ、狭間の世界へ!!」

「……?」


俺は、確かいつも通り駅にいたはずだ。

なのになぜか、今はサイバーチックな空間の中に、可愛い少女と二人きり。

これは夢なのか?


「聞こえませんでしたかねー、ようこそ!狭間の世界へ!」

「あ、あのー」

「あ、聞こえてましたね!!私はパルミー!狭間の世界の守護天使なのです!」


金髪のボブカットをふわふわとたなびかせて、くるりと一回転したその少女は、どうやらパルミーというらしい。

外国人か…。

というか、天使?

よくわからない。


「あの、俺、どうしてこんなところにいるんですかね。確か、いつも通り駅に…」

「うんうん、混乱するのもムリないです!でもでも、だいじょーぶ!カンタンに説明してあげますね!!」

「あ、ありがとうございます…?」


パルミーは、どこから出したのか、簡易白板を出すと、さらさらと何かを書き始めた。


「えー、まずアナタ!名前は言えますか!」

「えっと…由良坂 雷斗です」

「せーかい!記憶に異常はありません!ではでは、雷斗クンは今朝、何かおかしなことにあいませんでしたか?」

「おかしなこと…?特になにも。…いや、待てよ」


ふと、脳裏に変なことが浮かぶ。

そういえば俺は、駅に来てからこの謎空間の夢に至るまでの記憶がない。

つまり、駅のホームで気を失うだとか、何かやらかしているはずだ。

そうしたらすごく恥ずかしい。


「ふっふっふ、思い出しましたか?そうです、雷斗クンは、駅で…」

「ぶっ倒れたんですかね?」

「んーんー、おしいおしいです!!正解は、ぽっくり逝っちゃったのであります!」

「…え?」

「だから、ぽっくり!逝っちゃったのであります!つまり、今の雷斗クンはユーレイ!ひゅ〜どろろろ〜」


いまいち状況が整理できない。

俺が死んだ?嘘だろ?

だって痛みなんてなかったし、苦しみなんてなかった。

それに、駅で死ぬって、自殺とかしかありえない。

俺は、確かにつまらない世界に生きてはいたが、家族はいたし友達だっていた。自殺しようと思ったことなんてない。

なのに、どうしてだ?

いや待て。

これは夢なんだ。なぜ真に受けてるんだ、俺は。


「あー、こんな悪夢とっとと醒めたい」

「夢じゃないですって!認められないなら見てみます?雷斗クンのグロ画像」

「い、いや、それは遠慮しとく…」


たとえ夢でも、グロは嫌だ。


「死因はですねえ、線路への転落死、となってます!」

「転落…?」

「はい、そうです!転落死。駅で何かに押されたり、突き落とされたり、ぶつかったりしませんでしたか?」

「ええと…」


押された?ぶつかった?

なんだか、ひっかかる。

もしかして俺は、本当に…


ヴー、ヴー。


悩んでいると、制服のズボンのポケットに入っていたスマホが振動した。


「スマホ…?って、バッキバキじゃん!それに、夢の中なのにこんなリアルな振動………」

「まあまあ、見てみてくださいな」

「はぁ、誰から…。って………は?」


割れたスマホの画面を見て驚愕した。

これが、目の前が真っ白になるという感覚なのだろうか。

画面に映っているのは、只のニュース画面。

ただ、その内容がまずかった。


『渋谷駅のホームで、男子高校生の死亡事故!!…被害者は享年16歳、由良坂 雷斗さんだと判明。警察は、自殺ではないとして捜査を続けており…』


「なんだよ…これ。はは、夢にしてはよくできた作りだな」

「まだ夢だと思うんです?」

「そりゃあ…そうだろ。だって、こんな…死んだなんて」


声が、手が、震える。

夢なのに、落ち着かなければいけないのに。


「あのね雷斗クン、あなたは死んじゃったんです。認めないと、新たな一歩を踏み出せません」

「なんだよ、新たな一歩って…」

「このまま認めないのもアリです。けっこーいます。でも、そうなると…」

「……っ!?」

「しゅわしゅわ、消えちゃいますよ?」


足元に伝わった痺れるような感覚に、目を疑う。

足が消えかけている。

痛みはないが…とても恐怖感に襲われる。


「なっ…な、なんだよこれ!!お前、何者なんだ!!」

「だから、私はこの狭間の世界の守護天使、パルミーですよぉ。ねえ、消えたくないですか?」

「決まってるじゃないか!!どうにかしてくれよ…!」

「なら、契約を。新しい世界で生まれ変わる契約をしてください」

「する!するから!」

「わかりました」


もう下腹部のあたりまで消えかけている。

パルミーが俺の目の前で人差し指を一回転させると、なにやら不思議な紋章が浮かび上がる。

ああ、もう本当になんでもありなんだな。

なんだか、思考能力が低下してきている気がする。


「由良坂 雷斗の魂を、新たな世界へ。神よ、彼に聖なるご加護を」


パルミーがそう呟くと、俺に近づいて……


「!!!」


そっと、唇を重ねてきた。

その瞬間、俺の意識は…また…とんで…


「はい、契約完了なのです!では、新たな世界へ行ってらっしゃいなのです!」


パルミーの声を最後に、俺の体は、消えた。

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