12秘石は唐突に王候補を選ぶ
「して、焔はなぜここで怪我をしていたのだ?」
「はい。俺は数日前まで内海の森で修業をしていたのです。そこで北の翁と知り合い、翁が大事な宝を鴉たちに盗まれて困っているという話を聞きました。俺は修業でも世話になったので、祠を離れられない翁の代わりに取り戻してやることにしたのです」
「ああ、なるほど」
焔の説明に俺は一人納得する。
これであの時黒装束の男たち――やっぱり正体は鴉だったらしい――に襲われていた時の言葉がつながった。
『うるさい!我らの大切にしていた宝を盗んでおいてよく言うわ!』
『その宝はもともと北の翁のものだろうが!元の持ち主に返しただけだ!』
つまり焔は翁に恩を返そうとして宝をあいつらから取り戻して、ここまで追いかけられてきたというわけか。
「なんだなんだ直哉。一人で納得して、私は仲間はずれか」
シュンと捨てられた子犬のような目でこちらを見る硯月。
その哀愁漂う姿に思わず「うっ」とうめいてしまったが、硯月はわざわざ膝を折って俺より視線を下げている。
確信犯だ。だまされるな。
「貴様!硯月さまを仲間はずれにするとは何事か!」
「ひぃっ」
まんまと騙された焔が横から掴みかかってきた。
胸倉を持ち上げられて自然と悲鳴がこぼれ落ちる。
「ご、誤解だって!ただ俺はお前が襲われてるところを見てるから、話がつながったって思っただけで……っ。とにかくお前は宝を翁ってやつに返したから逆キレした鴉たちにここまで追いかけられて怪我を負わされたってことだろ!」
「なるほど。良き行いをしたというのに災難であったな。事情は分かったからその手を離せ」
俺の胸倉を掴んでいた焔の手を、硯月の細腕があっさりと引き離す。
焔も硯月に言われたので力を抜いたのだろう。
もしかしてこのまま殴られるのではないかと覚悟していたので、危機が去ったことで俺はほっと息を吐き出した。
そんな俺を硯月はニヤニヤと見つめている。
「なんだよ」
「いや?妖と関わり合いになりたくないと言う割には自ら積極的に関わったものだと思ってな。ふふっ」
「……あの場合はしょうがねぇだろ。目の前で集団リンチされてる妖見て放っておけるかよ」
「人間と妖は別の世界に生きているといっても過言ではない。妖が死のうが生きようがお主には関係なかろう」
「嫌な言い方すんなよ。……確かにそうかもしれないけど、目の前で苦しんでるやつを見なかったふりして通り過ぎられるほど俺は大人じゃないんだよ。悪いか」
「ふふっ。いや、悪くはないさ。ん?」
「な、なんだ!?」
急に硯月の胸から眩しいくらいの光があふれ出してきた。
何事かと俺は一歩後ずさる。
そんな俺を追いかけるように光がレーザーのように伸び、俺の胸に直撃した。
「うわっ!ってあれ、別に痛くない」
光は俺の胸に吸い込まれるようにスッと消えてしまった。
慌てて異常がないか触って確認するが、痛みはない。
やけどなどもしていないようだった。
そのことにとりあえずほっとする。
「おい硯月、今の――」
「硯月さま……もしかして今のは……」
顔を上げれば少し震えたような声を出す焔と視線がぶつかった。
その目はまた大きく見開かれている。
明らかに動揺しているその姿に一気に不安が広がっていく。
その不安を払拭したくて俺は硯月に詰め寄った。
「おい、なんだよ。今のやばいやつなのか?教えろ硯月!」
こっちが焦っているというのに硯月は一人楽しそうに微笑んでいる。
その綺麗な笑みが今は憎らしい。
「なに。別に身体に異常は起こらぬよ。ただ私の持っていた秘石がお主を次期妖王候補として選んだだけのことだからな」
「は?」
「お主は知らぬか。私の守る秘石は王候補を選ぶ石なのだ。まさに石の意思でな。はっはっはっ」
「くだらないダジャレで笑ってる場合か!しっかり説明しろおおおおおおおおっ!!」
「はっはっはっ!これは愉快なことになった!」
「硯月ぃいい!!」
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