第3章 自分の意思とは無関係に

13関係ない


「どうしてくれるんだよ」

「なに、いっそのことそのまま王になってみれば良いではないか」

「それはありえねぇってもう何度も言ってるだろ!」


 もう何度このやり取りを繰り返したのか。

 俺の身体の中に取り込まれた妖の王を選ぶという秘石を取り出す方法を問い詰めているのだが、硯月は「そんな方法はない」の一点張りだ。

 それでは困るというのに軽く王になってみてはどうかなどとのたまう。

 守護者は秘石を守るという使命を負っているだけでその先の責任は全く負わないのか。

 もう少し親身になってくれてもいいと思うのだが、硯月は終始楽しそうに笑みを浮かべている。


(その顔殴りてぇ……)


「そうむくれるな。王が決まれば自然と秘石は離れる。それまでの辛抱だ」

「そうなのか?じゃあ俺は別に何かをさせられるとかもなく、ただ次の王様が決まるまで待ってればいいんだな」

「まあ、そうだな。秘石を持っているというのはただの目印にすぎない。持っているからと言ってどうこうはないから安心していい」

「しかし硯月さま、その目印を見て王座を狙う者が襲ってこないとも限りません。次期王が決まるまで硯月さまのお住まいにかくまわれてはいかがでしょう」

「今の私には特定の住処などないよ。そんなに心配なら焔、お主が直哉を守ってやれば良いではないか」

「なぜそうなるんです!お断りします!自分には立派な狛犬となるという目的が――」

「王座を狙う者は多種多様。お主の修行の役にもたとう」

「しかし――」

「ちょ、ちょっとまって!勝手に話が進んでるけど石を持ってることで襲われる可能性あんの?」


 否定してほしい一心で二人に問う。

 しかし焔は難しい顔で、硯月はにこりとして、それぞれ頷いてみせた。

「それさっきと話違うじゃねぇか!王が決まる日までなんにもしなくていいって言っただろ!」

「何もしなくてもいいが、何もしなくても王座を狙うものが秘石を狙ってくることが稀にあるんだ。お前のために言っておくと秘石を不正な方法で手に入れても王候補になれるわけではないぞ」

「じゃあなんで狙ってくるやつがいんだよ。意味ねぇだろ」

「意味がないということを知らない低級な妖もいるからなぁ。はっはっはっ」

「笑い事じゃねぇだろうが!」

 

 思わず俺は目の前の硯月の胸倉を掴み両手で揺さぶっていた。

 それでも硯月は楽しそうに笑っている。

 他人事だからって笑いすぎだろう。

 募った怒りがついに爆発した。


 感情のままに揺さぶり続けていると「やめろ」と焔が俺の手を引き離しにかかる。

 抗う意味もなく、俺の手は簡単に硯月から離されてしまった。


「はっはっはっ。血気盛んだな。さすが秘石に選ばれるだけある」

「だからそれは誰のせいだって――っ」


 僅かに乱れた服を直しながらまた余計な事を言った硯月に手が伸びたが、今度は届く前に焔に止められる。

 何度か振り払おうとしてみたが、全く振り払えない。


「チッ。わかった。もう手出さないから離せ」


 悔しいがこちらから降参を申し出ると、ようやくその手が離された。

 掴まれていた手がわずかに赤くなっている事にも怒りが募る。


「ああもう知るか!とにかく今後一切俺は妖に関わらない!寄ってくる奴は下級なんだろ?だったら片っ端からこの札で祓う!問答無用でな!それで俺の平穏を確保してやる!」

「そうか。こちらに関わらないというのは良い判断だと思うぞ。俺も人間が妖の王になるのは反対だからな。人間と妖は何もかもが違う。互いに関わらない方がいいだろう」

「だよね!?ってことで俺は身体にある石のこととかもうなかった事にして生きて行くから。なんならお前たちが見えるってことも忘れて生きて行くから。どっかであっても無視するから」

「無視は悲しいと何度も言っておるのに……」


 無視という単語に即座に反応した硯月がまた袖を目元に当てて嘘泣きを始めた。

 もう俺は騙されない。

 その反応すら無視して俺は二人に背を向け歩き出す。


「じゃあな!」


 河原に落ちている小石をジャリジャリとわざと大きな音を立てて踏み鳴らしながら進み、竹の並木道へ。

 足元から音がしなくなってようやく背後で焔と硯月が何やら話している声が聞こえたが、竹の葉が揺れる音でかき消されて内容は聞き取れない。


(ま、俺にはもう関係ないことだ)

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