10火の龍
ピシッ。
(うわっ、本当に札が固い板みたいになった!)
まさか書物を読んだだけで術が使えるなんて。
もしかしたら俺天才なんじゃ!
興奮で全身が熱くなっているのを感じる。
ピンと伸びた札をまじまじと見つめていると、竹の向こうから赤毛男のうめき声が聞こえた。
「くっ!」
「しまった!」
意識がどこかへ行っている間に棒をまともに打ち込まれたらしい。
肩を抑えてしゃがみ込んでいる。
しかしそこへ容赦なく黒装束の男たちが襲い掛かる。
「まじかよ!それは卑怯の極み!!やめ――ってえええええ!?」
今まさに札を飛ばそうとしたその時、赤毛男が「グオオオッ!」と獣のように吠えた。
しかも、その声に応えるかのようにその口から真っ赤な炎が吐き出されたのだ。
周りを囲んでいた黒装束の男たちは悲鳴を上げて一歩後ずさる。
後ずさるというより、後ろに飛んだといった表現が正しいかもしれない。
(1回のジャンプで3メートル以上は飛んだぞ……)
やはりあの赤毛男も黒装束の男たちも人間ではないのだ。
ここは見守る方がいいのかもしれない。
(ここで下手に介入して目をつけられても嫌だし)
せっかくうまく術を発動できたのにもったいない気がするが、あっちで対処できそうならそうしてもらった方がいい。
そもそも妖同士が喧嘩してどうにかなったとしても俺には関係ない。
野生動物が縄張り争いしているところに人間がしゃしゃり出てはいけないのと同じで、きっとここは見守るにとどめるべきなのだろう。
「しつこいぞお前たち!いい加減に去れ!ここは聖域だぞ!」
そう叫びながら再び赤毛男が炎を吐いた。
その炎のせいで黒装束の男たちは開いた距離を詰めることができないでいる。
どちらも決定的な戦術は持っていないようだった。
このままでは硬直状態になりそうだ。
「うるさい!我らの大切にしていた宝を盗んでおいてよく言うわ!」
「その宝はもともと北の翁のものだろうが!元の持ち主に返しただけだ!」
「はっ、野良だから恩を売っておこうってわけだな!だがその歳でどこにも仕えていない野良なんてどうせ仕えさせてくれる神なんぞいないだろうさ!」
「なんだと!弱いものを蹴散らすしかできない下賤の妖が誰にものを言ってるんだ!」
グオオオオッ!
赤毛の男がひと際大きな炎を吐き出した。
しかしそれを待っていたかのように黒装束の男たちはいっせいに飛び上がる。
そのまま宙高く浮かぶと、棒を構え一気に降下した。
「――っ!」
「火龍!!」
反射的に左手に持ったままだった札を勢いよく投げつける。
そのまままっすぐ飛んだ札は途中で炎に変わり、それはすぐに龍の形となって黒装束の男たちに襲い掛かった。
「うわあぁ!」
「な、なんだこれは!」
「こ、これは高城の技!まずい!退却だ!!」
一瞬で鴉に変化した黒装束の男たちがバサバサと騒がしい音を立てて北の空へ飛んでいく。
そのあとを火龍が追いかけたが、俺の力が足りなかったのかしばらく追いかけたあとふわりと消えてしまった。
だがそれでいいのだ。
俺だって鴉の丸焼きが見たいわけじゃない。
あくまでこれは脅しだったのだから。
「……ぅ」
「お、おい、大丈夫か!」
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