9 祖父の残した札
「しつこいやつらだなっ!」
「報いを受けさせるまでは引き下がるわけにはいかんのだ!」
「くっ!」
あと少しで竹林を抜けるというところでひと際大きな言い争う声が聞こえた。
先に聞こえた声は少し若い。
だがどちらも大人の男のようだ。
俺は咄嗟にしゃがみ込み、竹の隙間からその先の様子を窺った。
「っ!?」
一言で言うと赤毛の男が黒装束の男たちに襲われている。
(なんだこの状況は……)
赤毛の男は黒装束の男たちに比べると背はかなり高く、頭ひとつ分は飛び出していた。
白い着物に緑色の袴を合わせた、神主のような服装をしているが、大杉神社であのような服装の神主は見たことがない。
それに神主にしては目つきが鋭い。
体格もしっかりしているようだし、服装をのぞけば格闘家と言われても疑わないだろう。
そんな違和感ありまくりの男がじりじりと追い詰められていく。
反撃するための武器などは何も持っていないようだった。
対して赤毛を追い詰める黒装束の男たちは全員で6人。
服装だけでなく、髪まで真っ黒。
日が落ちればその存在を認識できなくなりそうなほど、黒一色だった。
こちらは木刀のようなもの、正確には木の棒に近いものをそれぞれ片手に構えている。
ただでさえ人数で負けているというのに、武器も持っていないのでは赤毛の男が圧倒的に不利だ。
「おらあっ!」
黒装束の男たちが一斉に殴りかかる。
(マジかよ!)
だが俺自身も何も武器など持っていない。
ここで飛び出したところでどうなるというのか。
それにあれは――。
(あれは、人間なのだろうか)
見た目は間違いなく人間だ。
話している言葉も俺と同じ日本語。
妖ならこの札でどうにかできるかもしれないが、人間だったら俺一人では無理だ。
ゴクリと生唾を飲み込んで、傍らに下した鞄に触れる。
そっとチャックを開ければ、ハンカチや筆箱に埋もれるようにして札が入った長方形の木の箱が、確かに入っていた。
「…………」
行くか、行かないか。
そう考えたところで、俺は木の箱から札を一枚取り出した。
後悔しないためにここに来たんだ。
ここで逃げたら足を痛めてまでここに来た意味がない。
札を掴む手がカチコチに固まっている。
手だけではない。
いつの間にか全身が固く固まっていた。
「ふぅ……」
全身の緊張を解くために目を閉じて、一度大きく息を吐き出した。
(大丈夫)
札の使い方はわかる。
札と一緒にしまわれていたノートに使い方が書いてあったから熟読していたのだ。
その中の一つ「火龍」という技を使おう。
札を爆発させ、火炎を発生させる術。獣や妖を追い払うには効果的だと書いてあった。
(たしか……)
札を硬化させ、対象に向けて飛ばす。
そして「火龍」と言葉を発する。
頭の中に昨夜読んだお祖父ちゃんの筆跡を頭の中に思い浮かべた。
(まずは意識を札に集中させる……)
書かれていた通りに左手の立てた人差し指と中指に札を挟み、札に意識を集めた。
(札が紙ではなく、プラスチック板のようなイメージで……)
フワアアア……。
地面から生暖かい風が吹きあがってくる。
それと同時に左指に挟んだ札がジワリと熱を持った気がした。
それからじわじわと札の紙しわが伸びていく。
そして――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます