第五十九話 その条件とは? そして六月末が、新たなる記念日となるの?


 ――六月三十日。


 それは過ぎゆく日々の中で、新たな記念日が生まれることを意味している。


 これからは、生まれゆく新たな記念日を大切にしようと思う。なぜならば、これからが本当の意味でのスタートになるからだ。それは僕にとっても、君にとっても。



 その日の午後、我が学園……私立大和やまと中学・高等学園に来訪者が姿を見せた。その人物は校舎に入った。そのまま職員室へと向かっていた。足も留めず躊躇もなく。


「あっ、お兄ちゃん」


「よお!」

 と、その人物は返事をした。爽やかな笑みを浮かべながら。


 わたしも、もちろん笑顔で迎える。「お兄ちゃん」と呼ぶその人物は、実の兄ではなくて正確には従兄。それでも小さい頃、よく面倒を見てもらっていたから、やっぱり……


「お兄ちゃん、瑞希みずき先生を呼んで来るから待っててね」


「ああ。待ってるよ、伊都子いつこ


 この会話をもってわかったと思われるが、わたしは平田ひらた伊都子。自称だけど演劇部の部長を務めている。そしてその来訪者の名は、平田宏史ひろし。その人だ。


 彼は、わたしとの約束を果たすべく来訪者となって、ここに来たのだ。そして同じ場所に集ってきた四人。川合かわい未来みらいを始めとした四人の中等部だ。ほんの僅かな間のことで、職員室から出てきたわたしは、当然その四人の中等部にも顔を合わせることとなった。


「あなたたち、どうしたの?」

 と、驚きを隠せず、思わず零れた言葉。


 そして知っている顔はもう一人、早坂はやさか海里かいりという子が反応してくれた。


「実は、とっても悪いことしちゃって……」


「万引きでもしたの?」


「ううん、もっと悪いことしちゃったの。煙草を隠れて吸っちゃった以上に。もしかしたら瑞希先生だけじゃなくて、パパにもものすごく怒られちゃうよ」


「……で、オチは『なんてね』ってところかな」


「そうなの、よくおわかりで。……って、それ、わたしの台詞だよ」


 と言いながらも、海里さんは笑い出した。それも激しく。……でもって、彼女につられてわたしもそうだし、本当にそこに集った人たちをも、笑いへと渦に巻き込んだ。


 その反応を挙げると――


「おいおい、自分の冗談で自分が受けるとは……」と、川合未来はお腹を抱えて。


「お姉ちゃん、それ面白すぎるよ」


「な、なるほど、コメディはいけそうだな」と、お兄ちゃんまで巻き込んでいた。


 笑いの渦の中、職員室から出てきた瑞希先生は、この状況を理解できなかったのか、本題に入るのには、少しばかりの時間を要した。それは偶々たまたまか、狙っていたのかは、まるで風の到着地点のようだけど、緊張がほぐれて、丁度良い空気に変わっていた。


 ――と、いうことは、


「この三人が、演劇部に入りたいということだね、未来君」


 新たに加入した三人は海里さんを始め、出門でもん恭平きょうへい君。そして海斗かいと君という海里さんの双子の弟。……顔も何となく可愛い子。ちょっとお好み。……あっ、これ内緒だから。


「これで部員が五人揃ったな、ミズッチ」


 と、川合未来は言うが、それだけではない。もっとビッグな来訪者がいるのだ。それが我が従兄で、それに何よりも瑞希先生の婚約者と名乗っても、もう過言ではない。


 だから……


「ヒロ君、インストラクターお願いね」


「ああ、何よりも瑞希ちゃんのお願いだからな、目一杯させてもらうよ」


 と、有り余る程のアピールポイント。瑞希先生のハートを射止めるには、数多くのチャンスとシチュエーションも満載と思う。川合未来になんか負けないでほしいから。


 ――ということで、この日、瑞希先生にはサプライズの連続だったことだろう。


 当初は七月十七日を目標にしていたそうだけど、もう演劇部はメンバーが揃って、本当に意味での活動が、できる状況になった。それでもって七月三日に正式に……


 新生たる演劇部を祝した結成式を行い、そこに全員が集う約束をして、今日はこの場で解散となった。……が、川合未来だけが、呼び止められて、瑞希先生と二人……そのまま職員室へと入ってしまった。それは本当に、突然の出来事だったのだから……



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