第六十話 今はどう? この二人の関係……一人の女子生徒を巡りながら?
【ここで
――職員室は、異様なほど静寂。
喩えるならば、俺とミズッチの二人っきり。想定外のシチュエーションだ。
何か言わないと。言葉を発しないと、まずい方向に行きそうな、そのような翳りが俺の脳内を支配しそうだ。そしてその室内から外に……廊下には、俺が出てくるのを純粋な瞳をした
今ここにいるのは、あくまで生徒と先生。
それ以上でも……
それ以下でもない。……ないのだ。
そう思う最中、先に切り出したのはミズッチ。響くソプラノヴォイスかは、君のイメージしだいだから。俺にはそう聞こえる。ただそれだけだから。
「未来君、昨日は海里さんのこと、ありがと。元気づけてくれたんだね」
と、ミズッチは満面な笑顔だ。
そして俺は、……俺はふと思う。やはりミズッチは先生で、大人だと。
「俺はただ、海里さんを保健室に連れてっただけで……」
「実は、あのあと見てたのよ、君たちのこと。
……海里さんと一緒に、保健室に向かう時の、君の表情でわかったの」
ミズッチの笑顔に曇りが……いつもなら俺のことを「未来君」と言うのに「君」になっている。何か胸が、ズキッと痛むのを感じた。
「ミズッチ、その、何というか……」
「海里さんの具合が悪かったのは、体ではなく心だったのね。それでプールでの出来事も合わせて、君は体当たりで海里さんのこと……元気にしたんだね」
「それは、その……」
「君に頼んで良かった、海里さんのこと。ここだけの話だけど、あの時は君がその……わたしもね、怒って勢い任せで言っちゃったから、これでも反省してたの。日本に来て間もない生徒の面倒を、君だけに押し付けちゃって。それだけでなく、君は演劇部のメンバーまで揃えてくれて、超ファインプレーだよ」
そしてまた、快晴のような笑顔に戻るミズッチ……
それってある意味、自分の都合よく事が運んだ喜びの印? ……まあ、ミズッチ一人には荷が重すぎたしな……そう思える俺は、心の広い優しい奴と自負してもいいだろう。
しかしながら、
「いえ、そんな……」と、敢えて謙遜しよう。
「ところで、未来君」
「はい、何でしょ?」
「海里さんは脚本を希望してるってことだよね?」
「……え、ええまあ、そうですが」
「海里さんには、脚本の内容も併せてお願いしようと思ってるの。ここからは君たちの舞台だから、その方がいいと思って。そこで君には、海里さんを手伝ってあげてほしいと思うの。できあがった脚本は、わたしがチェックするから……ねっ」
少しばかり……
複雑のような、そんな思いにもなったけど、
「わかりました」と、俺は、単純明快な答えを口にした。
その上で、
そして俺と一緒に、ミズッチは職員室から廊下に出た。
――待っていてくれる。待ってくれていた。目の当たりには、まっすぐな瞳をした海里と海斗。二人並んで二人とも、俺とミズッチを視界の中心に置いている。
「海里さん」
「あっ、はい……」
「脚本の件、お願いします。内容もあなたに任せますので、また考えといてね」
「はい! 瑞希先生、ありがとうございます」
ミズッチの了解に、海里は瞳を輝かせる。時折はマリンブルーの深みを感じる瞳を。
そして煌めく午後の日差しを受けながら、俺たち三人は帰路を歩み始めるのだった。
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