第四十話 乙女のメルヘンチックな夢の中と仰げば尊しの人。
――日本での初出勤の日を間違えて「しまった!」との父・
次に連想するのは、不機嫌。
でもお昼寝、そして夢続行。
思えば今日は、もう火曜日。二十三日の午後の三時だ。
陽は西へ傾く。
生まれ育った国もそうだけど、
世界の何処にいても、時差を除いたら、それは共通だ。
……父曰く、学園が戦場であったなら、
そのことをも父曰く、
……ここは
本当は
パパはパパ。
わたしはこれからも、変わらずに「パパ」と呼び続ける。
……あ、それから本題、
明日からの学校生活が、わたしたちの『心ときめくものになりますように』と、願いを込めながら、パパはこれより『仰げば尊しの人』に会う。
そう、昨日の夜だった。
パパとママの会話では、同じ公営住宅に在中。
……で、今、玄関に於いて、パパは靴を履く。
選択肢は二つ。
やはり日本語。『郷に入ったら郷に従え』というわけではないけれど、
「パパ、一緒に行く!」と、わたしは歩み寄る。
外に出ると、穏やかな午後三時の風景。
靡く髪に、靡く白いワンピース。隣には背の高いパパ。とてもカッコいい。
そっと上目遣い。そっと手を繋いだら、流れる風が心地よい。
向かうは四棟、三〇三号室と言っていた。
で、その少し先には郵便ポスト。その背景には緑広がる……夢で見た公園。そこには白いブランコもある。シチュエーションも大変酷似している。心奪われて、
頭には、
「パパ?」と、わたしは振り返る。
「パパな、ちょっと行ってくるから、海里はここで遊んでるんだよ」
「うん!」
と、元気よく手を振った。
パパはニッコリと笑顔だ。
夢の続き? ……その前に、先刻までの物語の続き。
それは白と赤のショルダーバッグ。その中から文庫本を取り出した。その本のタイトルは『Also with family.』……そう。あの『また家族と一緒に』だ。白いブランコに座って、わたしにとっては母国語の、表記されている文章を読み始めた。
今はもう、廃盤となっているこの本。……今、わたしが手に持っているものは、五歳の誕生日にママがプレゼントしてくれたもの。ⅠとⅡ……日本なら上巻と下巻かな? 二冊持っている。わたしの宝。そして、この作品の著者は憧れの人……。
全米が涙した……という思いで、
いつの日か、会いたいと思っている。
【場面転換! ここから貢視点だ】
――四棟の三階。階段を上がったら、向かって左側。
表札は、『
押すぞ、チャイム! そう思っていたら、
「あ、あの、すみません」
と、声かけられ、背後から。女の人……いや、女の子。
振り返る。……すると、
「お久しぶりです。先生」
目線はグッと下……中学生? でも、妻のリンダと同じくらい。いや、まだ少し低いかな? 僕のことを先生と呼ぶライダースーツの女の子。ヘルメットまで抱えてる。
黒と緑のコラボ。胸に鮮やかなタイガーマーク。
それが似合わないくらい……可愛らしく尚且つ上目遣いで、
う~む、ここは一言。
「君、無免許は駄目だよ」
ガツン! ……という効果音はないけど、
見る見るうちに、
「ぶう~忘れたの?」
丸い顔を更に膨らませ、ふくれ面。
「冗談だよ、
と言ったら、ふくれ面を解き、「えへへ……」と笑う仕草の、あの頃の面影を、わかりやすく見せてくれた。これで彼女とは、三度の出会いとなった。
――初は、
June bride. 僕たちの結婚に駆けつけてくれた日。一緒だった瑞希君は九歳。再び出会うことができたのなら、『算数が大人になったもの』を教えようと約束した。
二度目は、凡そ十年前、
私立
三度目は今日、二〇一五年六月二十三日……
大きくは言えないが、くどいようだが面影もそのままに、二十五歳の瑞希君は、あの頃と変わることなく元気なようだ。……それでいい。と、僕は思う次第だ。
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