第三十七話 夜更けのスキャット。
これより起こり得る出来事に備えて、新たな一世帯の紹介が必要だ。
それは……
それは、
――まだ結婚する前の
何と、二〇〇一年の稀に見る例で、女の子と男の子の双子が日にちを跨いで誕生したのだ。四月一日に長女・
時差の関係を考慮して同学年にすることもできたのだが、二人の希望によって一学年違いとした。因みに海里が中等部三年生、海斗が中等部二年生だ。貢は教職に就いていたこともあり、私立
現在『天使の地』に残っているリンダの母のマリリンは、一九九七年の六月に結婚したリンダの姉のアンと一緒に暮らしている。
――海里も海斗も知らないことだけど、約束の日まで二か月。
その想いを抱き、
―― Open the glass door on the veranda.
月曜日は、その蓋を開けたら儚く、朝を超えて、もう夜も更けていた。
同じ公営住宅、四棟の、
三〇三号室の玄関付近の部屋、
同じく九棟の、
二〇二号室の玄関付近の部屋、
さらに同じく九棟の、
二〇一号室の玄関付近の部屋、開け放たれたガラス戸、備え付けのベランダに出る。
【ここからが一人称。十四歳の女の子】
午前三時にも拘らず、ここから見える情景……向かい側の八棟七棟と、幾世帯の明かりが灯っている。まるで眠りを忘れた都会模様のようだ。……そうでありながらも、夏の風物詩に颯爽の登場を遂げそうな、風鈴の音が似合うそんな場所だ。
今は風鈴の音、
その代わりと言っては何だけど、
夜空に冴える月が、遥か彼方からスキャットの調べを導いてくる。心躍った。
静かなる風が流れた。
爽やかなもの。……そうでありながらも、
過ぎ去った声を聴くことになる。それは歌声か?
スキャットのリズム。
心を、釘付けにする。
――自転が反転し、さらに空と大地も逆転する。
流れゆく血も凍てつき、空気は重く、息苦しい。
心が乾く……。
針山地獄の様を連想する、そのようなイメージ。
その中に於いても、長い髪は靡いた。
……そのことを、
頭の中を駆け巡るそのことを、
どうとらえるのかは、あなた次第よ。
――わたしの心は、
スキャットしている。……それだけのこと。
闇を走れば……。
闇を走れば……。
この騒ぎが終わったならば、きっと夜明けを告げる暗闇に。
そのあと、明るい光が差し込んでくる。
彼の地にいても、
同じ惑星。言葉の違いあっても、
この地球に、明けない夜はない。
そのことが不安であっても、
そのことが期待であっても、
……来る! きっと訪れる!
【ここからまた三人称。女の子が誰だかわかるよ】
国語辞典を開いてみると、ジャズで、意味のない言葉を発して歌うこと。
それを『スキャット』と云うが……。
そのテンションのリズムはジャズで、彼女は音の代わりに、イメージに載せて詠っていた。題して『夜更けのスキャット』は、彼女の服中で暴れていた。
彼女の名は、海里という。
裏側にある国の『天使の地』より、彼女にとってもまた、運命の日ともいえる『六月二十日付け』で、家族とともに、この
――それは二か月限定の使命を秘め、
それはまた、旧号の願いでもあった。
……まだ、夜も更けているので、もうひと眠りできそうだね。
と、いうことで、お休みなさい。
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