第二十話 師のもと集いし、我らこの地にあり。(おもてなしコース)
『……念のために、この舞台は『
未来の裏切りに、怨念の
『―― But that's a joke. Yes, the boxed daughter puts a follow.』
それでも『箱入り娘』という言葉。彼女に対して百も承知で似合わないが、
『九棟から四棟まで』がいい例だ。
アメリカと日本ならまだしも、同じ日本、同じ千里の町でありながら、しかもこれだけの距離なのに、これまでお互いのことを知らずに玄関の前。四棟の三階、三号室だ。思い浮かぶママの顔、心の準備が追いつかないのか? 玄関のドアを目の当たりにしていながらも固まり、ストップ状態の瑞希。……次第に、その表情が物語る。
見ていられず。……が、本音だろうけど、
ヌッと背後から腕が現れる! その先にある人差し指は、『ピンポーン!』を奏でる原因といえるだろうスイッチを押していた。某家庭教師みたいな存在感溢れる連続押しには程遠く、遥かに大人。更に鴇さんは、その上に気配を消してまで、スーッと密やかな風のように、わたし、
さて、振り返りはしないが、
三人称から始まった第二十話は、コンマ零五秒で、一人称へのトランスフォーメーションを完了する。サーッと……鳥肌の立つくらいの旋律の渦中に於いて、
「は~い!」
と、向こう側から、打つ鐘のように響く女性の声は、
この長きに渡り、
バキュン!
と、忘却の彼方まで打ち抜かれた。
昨日のママのイメージ。そして、一昔前の幼き日々へと、手招き繰り返し。
遂に……遂に遂に遂にっ! 『Open the door!』――遂に、顔を合わせた。
思わず出た言葉……。
「こ、こちら、川合鴇さん。あ、あの、ママ……ハッ、お、お母はんに会いたいって言ってたから、つ、つ、連れて来たのっ」という感じで、悪夢のように噛み噛み。泣きそうなほど顔が熱い。未来君のお父さまの前なのに。ママを訪ねて来られたのに。
『ああっ、終わった感、満載だ……』
すると、プッと、
「何て顔してるの?」って、ますます「ブハハハ!」のレベルまで到達!
……したかと思いきや、「ありがとうね、瑞希」と、しんみりな場面。
ここに、会話が存在するのだろう。
しかし、会話は存在しない。ホロッとするわたしを見て、ママの表情が和む。あの日もそうだった。思えば、ずっとそうだったと思う。……今になって、氷山の一角も理解できてないかもしれないけど、ほんの少しでもね、
『親の心子知らず』の意味がわかったような、そんな気がします。
「あらあら何泣いてるんでしょうね、この子は……」と、ママの声。その通りで、涙が出ちゃってハンケチ―フで拭っている。それでも留まることなく「ごめんなさいね。せっかく鴇君が来てくれたというのに、この子が色々と迷惑かけたみたいで……」
本当にその通り。
だから、そう付け加える。
「いいえ、とてもいいお嬢さんですね。先生に似て、本当に優しい。僕が気づいてやれなかったことまで、息子のことを気遣っておられました。お世話になりっぱなしで……」
そして、穏やかな声だった。
とても深く……感謝感激。或いは報恩の思い。多分、頭の中では収まらないほど。ふと思いつくのが、可能な限りの一人称。これからも、この大地で、お世話になります。
『――おじさま。未来パパ。お父さま。未来君のお父さま。……この人に対して、心の中で何種類かの一人称を叫ぶ。何度でも。そしてポンポンと、思い出の赤い糸を引っ張るように、肩を優しく叩いてくれる。パパのように懐かしくて、温かかった。
その末に、鴇さん!
理由は胸に秘めたまま、ここに定着した』
流れ星。今はまだ夕映えではないけれど、
幕が切って落とされるようにと、願いを込め。或いは、そうではなくて誓願の意。
……グスッと、涙が止まるのを見届けるそのタイミング。「さあ、どうぞ」と、言ったか言わなかったか、はたまた別の言葉だったのか。ママは、玄関の中へと誘った。
『ここに、
リビングがあったらいいのだけど、台所のスペース』
――との、ママの心の声が聞こえそうな一幕。されども、あとにはなったけど、握手の思いで挨拶。その代わりにお茶を振る舞う。時代は味方する。
それは、
テーブルに置かれたお茶。
選んだものは『ほうじ茶』だ。茶道の心は、某家庭教師にだって負けちゃいない。
尋常に勝負だ!
むっ……。むむっ……。こら瑞希、そんなに
でもね、ほらっ、ほらほら! 鴇さんの顔が綻んだ! グイッグイッと飲む飲む。
「瑞希先生、ありがとう。
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