第二十一話 娘と母の距離。お家までの距離。
……本当はね、近距離な場所。でも、近くて遠い所。
『ここは
「……知らなかったなあ」
「ええ僕も。ここに越して、もう七年になるのに……」
台所。
二対一でテーブルを挟み、それぞれの丸椅子に座っている。
我が家には、それしかなくても威風も堂々と胸を張る。
その右隣にいるママ、
会話が、音符のように宙を泳いでいる。または、美しき調べを奏でていた。
ムフフ&どや顔。
その
「まだまだ」と、声高らかに、
「わたしたちは十六年も、ここに住んでるのよ。それでも鴇君が、こんな近くに住んでるなんて……。これだから団地ってやだね、ねっ、瑞希」と、急に振ってきた。
「えっ? うん……」
わたしの方こそ、まだまだママのハイテンションな言動についていけなくて、もうそろそろ『これは大人の会話。わたしには関係ない』との
バンッ、バン!
と背中、イメージではなくここに実現。で、椅子は? ……と、思ったけれども、
可能だ!
物理的にも。丸椅子だから。
そして、おまけにもう一つ。
「こらこらノリ悪いぞ」
含み笑い。容易に予想可能な台詞。何よりも大胆不敵な目。
これこそが。……ああ、これこそ、
その
「先生こそ、お元気そうですね」
と、鴇さん。
『テレパシー? だとすれば、ムムム……。
今わたしが思ってることを、代わりに言ってくれた?』
……んなわけある訳もなくて、ただただ目のやり場、それをも上回るフォローとフォロワーの関係で、お悩み中のようにしか見えない。……まあまあまあ、ママにも言われていることだけど、決めつけは良くない。
「鴇君、それ三回目」
と、ママは少し
白い煙どころか、
瞬時に、頭の中が真っ白になるってことあるよね?
『素晴らしき再会の象徴』
鴇さんが今、リアルにそれのようなの。……あっ、でもでも、
わたしがそう思っているだけで、
「あはっ」と、笑えて、
「鴇さんがママの教え子だなんて、これって、きっと運命だね。同じ学園の卒業生。うんうん、わたしにとって大先輩。それから未来君のパパさん。とっても素敵だよ」
……って、やっちゃった。しかも、ママの見ている前で、
ここ一番の盛り上がる場面! ガタッと椅子から立ち上がって、テーブルを挟み向かい合わせの鴇さんと、しっかり両手を握り合って、熱き視線で見つめ合っていた。
あくまで自画自賛!
だけども見事、ドラマチックに決まった。
仕上げはね、
やっぱりというか……。
「こら瑞希、お客様に何てことを」と言いつつも、もう一方で「鴇君ごめんね、娘が失礼なことばかりして。ちゃんと注意しておくから」と思ったら、また「それから瑞希、ママじゃなくて『お母さん』だって、何度言ったらわかるの? それに目上の人に対して、タメ口とは何事なの? もう社会人なんだから……」と、ママは顔色&声色、可能な限り変えながらもその果ては、ガミガミモードへ突入してしまった。
そして「聞いてるの?」を連発しながらも、
もはや怒っているのを通り越して、テンパっているようにしか見えなかった。
この全体図を想像してみると、
収集がつかない状態に見えて、ママよりもそっちの方に恐怖を覚えた。
サーッと、血の気が引くそんな感覚だ。瞬間だけども。
「先生!」
と、その声が、
一筋の青き
「……鴇君?」
と
でも、途切れない、お話は。
「先生、三学期ずっと休んでしまって、卒業式も出なくて……ちゃんと挨拶できてなかったですね。そのことは、本当にすみませんでした」……そう、鴇さんは言った。
きっと、ママは知らないと思う。
それは、わたしもイメージできないような理由があったのだと思える。 そんな翳りだ。
「――そして、時を
と、ママは言ったのだ!
鴇さんの何が見えるっていうの? 意味は分からないけど、わたしはママを凝視!
「先生、許してくれるんですか?」
「鴇君、許すもなにも、わたしはもう先生じゃないから……」
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