第十八話 おお、夢のコラボレーション? Xマスのシチュエーションを含め。


 瑞希みずきは、ここで目覚めた。

 あわわ……という表現がピッタリだ。



「瑞希先生、おはようございます」


 と、LEDとは種類の違う豆電球のように、茶色っぽく広がる落ち着いた世界の中で奏でる休日の朝に相応ふさわしい、おじさまの穏やかな声と表情があった。


 それから、その横では、おばあさまの柔らかな微笑ほほえみもあった。



 おじさまの名前はときさん。未来みらい君のパパ……ではなくて、お父さま。


 おばあさまは、宮子みやこさん。鴇さんのママ……ではなくて、お母さま。そして未来君のおばあさま。……と、いうことで、ご紹介が遅れて本当にごめんなさい。



 造りは似ているけど、ここは勿論もちろんわたしの部屋ではない。第一カーテンの種類も違えば色も違う。……そこかよ。と思うかもしれないけど、本当にその通りだ。つまり今は、おじさまとおばさまが見守っている中、それも布団ふとんの中では、この部屋の主であり、わたしの生徒でもある未来君が、しっかりひっついちゃっている。……そんな事態なのだ。


「ちょ、ちょっと、未来君?」

 ユサユサと揺さぶる。でも、胸に顔を埋めながら、


「ン……ママ」

 と、いつもとは想像もできないような、甘い声にまで発展してしまった。


 いつもは「お袋」で、昨夜は寝言で「お母さん」で……って、幼児退行していっているようなのだ。このままでは本当に、わたしが未来君のママに至ってしまいそうだ。


 そんな心配をよそに、おじさまは何だか懸命に笑いを堪えているように見えた。

 そんな時だ、まさに。


「わわっ、ミズッチ、そんなに胸おしつけるなよ」

 という台詞せりふみで、未来君は目覚めた。


 休日の朝には似合わないほど、お目目をパチクリ、わたしを見ている。



『――ひっついてきたのは誰よ。

 ママ……って、顔おしつけてきたのは未来君じゃない』


 との、ギリギリのラインをもって、声にはしなかった。


 おのれが先生ということを忘れて、危なく一生徒だった頃の『タイガー』の部分が出そうになった……のとは、やはり対照的に、ホッとした瞬間でもある。


 それが証拠に、


「おはよ、未来君」

 と、おだやかに、

 ごく自然に、ニコちゃんマークのイメージにすることができた。


 おじさんのお陰かな? それに合わせてここに集えし皆を見守るおばあさまの、温かな笑顔があったからかな? 未来君に対して秘密、もしくは内緒にするつもりもなかったのだけれど、すでに許可を得ており、すでに公認の上……ということなのだ。



 ――六月十九日の金曜日。昨日のことだ。


 この日は未来君の誕生日。プレゼントとはいっても、プラモデルのことはあまり詳しく知らないし、格ゲーなら、と思って、おじさまに『未来君の情報』と称して、勧めるというよりもやや控えめな『提供』という形で収めてみた。


 ……ただし、下心ありありなのは己でも目に見えてわかる。本当は、本音は、わたしが未来君と一緒にプレーしたくて、以前に披露した『人生で初めての壁ドン! を招いたサスペンス劇場』の時よりも、更に進化を続けている『もとより腹黒』な部分。あるいは『職権乱用』ともいうべき行為なのだろうか?


 ……本来なら、コンプレックス以外の何ものでもないはずの子供っぽさ。それにプラスして、女の子の部分までも無駄なくフル活用して……とはいっても、あくまで誤解がないように付け加えますが、おじさんは、わたしに対しても未来君と同様に、パパを演じてくれたのです。ぐすっ……そのあとは、稚拙の極まれり。


 変な述べ方になっていたら、本当にごめんなさいね。



 豚汁は、ママの味を再現できたけど、

 未来君のママには、とてもなれない。


 ……きっと、子は親の心知らずなの。七つの時、

 知っていたら、パパと喧嘩けんかすることはなかった。


 ……泣いちゃった理由は違うし、未来君にはうそついちゃったことにもなるけど、

 本当は「川合かわい君の所に行きなさい! 今すぐ」って、ママに怒られたからなの。



 くどいとは思うけど、あくまで事前に、

 素直に未来君のいる九棟の二〇二号室には向かわずに、まずはおじさまのいる工場に向かった。……その途上、約二十分の道程を歩く間に計画。何故か、家を飛び出した時にパジャマを持参していたので、その計画は実行に移されることとなった。


 もしくは、おじさま、おばあさまにも、

 お話していたことを、展開しているだけのことなのだ。――今日こんにちはもう日が変わり、六月二十日の土曜日になったけれども、ここからが本番だ!


 おじさまと、おばあさまも含めて、

 未来君の『ハッピーバースデー』を心行こころゆまで、時間の限り、お祝いするのだ!



 思いあるが故に上昇する感情。例えるならXマス、雪をも溶かす情熱の中で、

 わたしは試みる。上半身を起こし布団から少しだけども出る。「ミズッチ?」と、未来少年の声は聞こえようとも、いざ両手に取る! 大き目の、それも赤い靴下を!


「出してみよっ」


「おいおい、まさか『サンタさんからのプレゼント』っていうんじゃないだろう

な」


 あはっ、と笑えた。

 思った通りの未来君のツッコミは、ここに健在。


「Xマスに季節は関係ないない。世の中のパパたちは、皆サンタさんの経験者だよ」


 この言葉、あくまで勢い。


 根拠はない。『必殺必中』ということは、なおあり得ない。

 だけれども、おじさまと。おばあさまも一緒に、見守っている中で、


「ほら『ヒロストⅤターボ』の登場だよ、未来君」


 ジャーン! という感じで大披露。……未来君の目は、丸くなった。



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