第十六話 想い人来たる! テーマはタイムリープ。
……引き続いて、五人目の登場人物となる
ここは九棟の出入り口の付近。
決して広いとは言えないこの場所に、実に色んな人が集まっていた。
引っ越し業者の
「お姉ちゃん、またやったの?」
弟と思われる少年が、その少女に声をかけた。
「あはっ、またやっちゃった」
しかし今、それ以上のものを見ている。
あの頃に、もしタイムリープが可能ならば、きっと証明できると思う。その少女が言った『ママ』という人物が、激似と呼べるほど。
「すみません、うちの子がとんでもないことを……。お
と、地面に尻餅を着いたままの俺に、その人物は声をかけてきた。
しゃがんでいる分、距離は近い。
桃色のリボンで束ねている栗色の長い髪。色白な顔に面影を見て、丸い眼鏡の奥の青く澄んだ瞳には、あの頃と何も変わらないままの、初恋の人と確信させた。
「き、君は」
この期に及んで、その先が出ない。……いや、それで良かったのかもしれない。
そこまでなのだ。君であることは間違いないとしても、君はきっと、俺のことなんか忘れている。もし覚えていたなら、それは宝くじを当てるよりも
――そう思えるだけで充分だ。
そう自らに言い聞かせようとした。その時のことだ。
「……リンダです。元気そうだね、鴇君」
と、君は言った。あの頃と同じ笑顔だ。
それは
夢のような世界だけども、
本当に、かけがえのない、出会いあっての再会がここにあった。
「リンちゃんも、元気そうだね……」
「ありがと。今も変わらずに、そう呼んでくれるのね」
もう三十年になる。
募る思いが
恋は盲目というけれども、
周りを照らさないスポットライトの中、二人だけの世界を演出するのに夢中だ。
懐かしきロボットアニメのバリアーのように、誰も触れることのできない世界。
……そのはずだった。
「パパ、こっちこっち」
と、当時のリンちゃんを再現したような、先程の『海里』という名の少女……もう『海里ちゃん』でいいか。の声が、意図も簡単に割り込んできた。そして俺は、『パパ』という人物を目の当たりにした。つまり、その人物が、リンちゃんの夫ということだ。
「よう、七転び」
俺を見て、その人物……いや、
手を差し出したのだ。だったら俺は、その手をグッと握って、
「何だと、八起」
と言いつつ起き上がった。……七転び八起き。これが俺たちの合図だ。
これがあったからこそ、三十年の時間を
「鴇、おっさんになったなあ……」
二言目はそれかい。
……と、思ったが、まあいい。昔と何ら変わってない。
奴は俺の名を、一目で俺だということもわかっていた。
「お前もな、
だったら、これでお
それに何よりも、奴が片思いの原因だ。
……しかし、俺たちの関係は、もっと深いのだ。
俺たちに、タイムカプセルというものはないが、
再会が、再会を呼ぶように、同じ日、同じ時間、同じ場所で、俺たちは今こうして、ここにいる。それは記憶……メモリーとして
そんな中で、リンちゃんは、
「鴇君、貢とは会ってたっけ?」
と、不思議そうな顔をして訊いてくるのだ。
嗚呼、何たることだ!
思い出の糸を手繰ると、リンちゃんは一度も、俺と貢が会っている場面を見たことがないのだ。……いや、そうでなければならない理由があった。今はただ『俺と貢も、つまり戦友と呼ばれる者たちは陰で動いていた』としか言えない。この場にお袋がいるから、これ以上は語れない。貢にとっても同じだ。海里ちゃんや、まだ名も知らぬ坊やがいる。何よりも、そばにリンちゃんがいる。だったら……選択肢は一つだ。
「またゆっくり会おう。俺がお前とリンちゃんに再会できたことを祝して乾杯だ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
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