第七話 前回に引き続いて、瑞希の休日込み六十%の取説。
「演劇部に興味ある?」
その一言はあまりにも唐突。しかも単刀直入だった。
「ないない。どのクラブにも」
それでも、
わかっていたことだけど、少しばかり
「そうだよね。ごめんね、変なこと訊いて」
わたしは、その場から立ち去ろうとした。すると、左の手首を
えっ? 振り向いて、またも顔を会わせてしまった。
「
……怒られた。でも、
「ほんと?」
「ああ、男に二言はない」
その言葉通り、未来君は爽やかな空気を感じさせながら、胸の前で腕を組んだ。
そんな彼に、わたしは男気を感じた。
そして、わたしは先生の前に……やっぱり女だと思い知らされた。
彼はついさっき、わたしの左の手首をはっきり見た。なのに一言も、それについては何も訊いてこなかった。きっと、一生消えることのない傷跡。それは、先日の梅雨入りを告げた雷で、わたしがパニックになったのにも通ずることだと思える。
……これでも、小さな頃よりマシになった方。
わたしの『
それで、このごろ思うこと。
それは、わたしは今でも教育実習生なのだろうか? 憧れの『ハッピー先生』を思い描いて出発した四月とは、随分とかけ離れた境涯のように思える。例えるなら、
未来君が三年生になって初めての登校日に履いていた迷彩ズボンのように、学園が戦場であるなら、本日は『戦士の休日』とも、
だからライダースーツはお預け。それに伴ってバイクも。
月曜日からの戦闘に備えて、お家で休養を取っていることだろう。……そうであるならば、わたしは今、お家以外の場所にいる。そのヒントは、身も心も開放できる場所。
そして、そばには
息がかかるほどに近い彼の顔。とっても
「ヒロ君、おはよっ」
と、ご挨拶。自分でもわかるくらい満面な笑顔。それとも、四方八方から映るミラーを無意識に見たからかな? 昨夜のことを想像すると、少し顔が火照てきた。
「それにしても、何かあったの? いつもと比べられないくらい積極的で、とても激しくて……。
と、その想像は、彼の言葉を借りて表現された。
で、少しだったのが、収拾がつかない所にまで
「ねっ、ヒロ君、テレビ見よう、テレビ。もう始まるよ」
と、あたふたと、リモコンを手に取った時には、紅潮の極みに達したことだろう。
「あっ、そうだったね」
日曜日の朝、毎週欠かさず見ている『特撮もの』二本。『魔法少女もの』一本の計三本立て。小さい頃から、ずっと見てきた。それはヒロ君も同じ。
シーツの中では、まだ体をくっつけている。
三本立てが終わっても、お互いの体温、鼓動を感じている。
「……ヒロ君、わたしのこと、どう思う?」
「どうって? とてもエッチな子だと……」
「違うの! わたしのこと、一人の女として見てくれた? 恥ずかしいことも、恥ずかしいところだって見せてあげたんだよ。もう子供じゃないんだよ……」
と、ベッドから出て、カーペットの上に立っていた。
一糸まとわぬとはこのことで、この部屋のミラーが、わたしの裸体を映している。すべてを見られるのは、やっぱり恥ずかしいけど、それでも一点集中で、未だベッドの上にいるヒロ君を見た。……そしてゆっくりと、ヒロ君はベッドを離れて、百六十五センチというその裸体をもって、そっと抱き寄せ、わたしの裸体を包み込んだ。
「
「あっ……」
声が漏れる。普段とは違う声。……お腹に熱いものを感じる。硬いというよりも、脈打ちながら突き上げている。それに
「ねえ、洗いっこしない?」
「えっ、何々? どこをどう洗ってほしいの?」
「意地悪! ヒロ君だって同じでしょ」
「そうだね」
でも、いつからだっただろう? 中学の時? それとも高校生? 今となっては、もうわからない。異性に興味を持つようになってから、自然と愛の営みに変わっていた。
……二人一緒に出た場所は、言うまでもなくホテル。それも頭に『ラブ』が付く。
「さあ、街へ繰り出そう!」と、言えたらかっこいいのだけれど、思いのほか田舎。ここは『街』という言葉が似合わない
と、同時にカサッ? という音。
サッと振り向けど、姿はなくて、「どうしたの?」
というヒロ君の声だけが、ぼんやりとする午前の風景の中にこだました……。
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