Daydream DIVER'S
街宮聖羅
DIVER'S
ここは『とある世界』の中心。名はガルームという都市らしい。
古代ローマのような造りの街並み。立ち並ぶ露店の数々は活気づいていて、新鮮な野菜や果物、
「おいおい。なんで生肉がこんな暑い中外で売られてるんだ。衛生管理の基本すらなってない街だな」
あまりにもその場に不相応な青色の衣装。彼の右腕にはサファイアの腕輪が太陽の光に反射して歩くごとに誰かの目をくらつかせる。それほど体格がいいとは言えない彼だが、隣を歩く赤髪のロングヘアーの美女のスタイルは抜群である。
「そうだね。私達の住む世界じゃあり得ない光景だけど、景観に合った活気ある商売でいいじゃない。………って、それよりも早く仕事をするよ」
こちらも周りの景観に全く合っていない服装。赤のドレスをベースとした派手な装い。首に銀チェーンのネックレスを巻いており、首元にはルビーの情熱的な色を感じさせるロザリオが歩いた時の反動で揺れている。ローヒールのブーツは動きやすさを重視した運動性の高いものであるとわかる。赤装束の少女は活気あふれる街並みを急ぎ足で進んでいく。
●
―――中心地から数キロ離れた王城付近。
「で、あれが問題の王城か。ド派手にでかでかと作りやがって、どんだけ金を費やしてるんだよ。それに、えーっと………国王の間ってのはあのてっぺんの部屋か」
目の前に広がる断崖絶壁にも見紛う王城の壁。難攻不落の国内最大級の建造物は先ほど通った都市部からもばっちりと確認できるくらい壮大なものとなっている。迫りくる人々を掻き分けてようやく辿り着いた男女コンビ―――
「ええそうよ。工作員の田中さんが言ってたけど、ここの王様はかなり人が優しくて、彼に仕える方々にかなり好評らしいわ。………いびきがうるさ過ぎるという点を除けば、全て完璧な人よ」
事前に仕入れていた情報を元に、彼らは城内部の攻略法を立てていく。話し合っていく中で、彼らにはたった一つ問題点がある。
「―――でさ、俺がこの裏通路から侵入して窓のある階まで上がって
「え、それじゃあこの上階前にいる警備兵はどうするのよ。
「いや待て。お前がさっき考えた『通り抜けフープ作戦』とかいうよくわからない作戦よりかまあまあマシだぞ。それによ、俺が考えた以上に穏便に済ませる方法とかあんのかよ?」
「んー。というか、なんで穏便に済ませようとするの。事後の処理が大変だからとか言わないでしょうね。でも、時間ないし、少々脳にダメージ与えてもいいんじゃない?」
延々と作戦が決まらないのがこの二人の欠点。最初に決めていた案でさえも、両者のどちらかが直前になっていちゃもんを付けるためにスピーディーな案件がかなり遅く終わることがある。
木陰の二人の口論がピークに達したころ、最終的な作戦が決まる。
「もういいわ。一発で決着を付けましょう。この城ごと吹き飛ばすという方針でいい?この世界の敵はいつもの百倍手応えないから体力有り余ってるし」
「…………そうかよ。だったら、やってくれ」
大夢の疲労が奏との壮絶な口論の末に頂点に達していた。実質的な余力はあるが、精神が不安定過ぎて戦闘不能に追い込まれているという状況。しかし彼が不調であっても、相方がカバーできればそれでいい。
奏は作戦が決まった途端立ち上がると、すぐさま大夢に要求した。
「あの門番二人、大夢の愛銃で打ち抜いてくれる?こっち見られたら騒がれるかもしれないから」
大夢は返事をせず立ち上がり、やる気満々の相方の指示を聞きいれた。そして、大夢は腰に巻かれたホルスターの右腰に収納された方を取り出した。メタリックシルバーの銃口のないハンドガン。
「はあ…じゃあ奏は手筈通りに準備しておいてよ。――マグナムコード『
詠唱されたコマンドに彼が持つハンドガンが反応した。無いはずの銃口が赤く光り、衛兵二人に照準が定まる。そして、両手で銃を構えて引き金を引いた。
「 発射 」
赤い二点がそれぞれ別方向へと広がって行った。そして、彼ら――衛兵達の胸を正確に
射貫いた直後、後ろで控えていた純粋そうな可愛げのある少女が胸のロザリオを握りながら術式を組み上げていく。そして、彼女の目の前には燃え盛る炎に包まれた円環陣が顕現した。
「豪炎円環陣ベース【ミリオン・フレイム】発動」
目が凍てつく氷のように鋭い彼女は静かに発動コードを言い放った。その刹那、周りにあった木々が体感したこともないような熱さに耐えきれず、一瞬にして灰と化していく。そして、城を突き破る威力を備えた彼女の攻撃により、王もろとも吹き飛ばすことに成功した。崩れていく元王城を前にして、大夢は言葉が出なかった。
「やり過ぎだな………さすがに大目玉どころじゃないだろうな。一つ言っておくけど、俺たちは人を救う立場にいるんだぞ?これで脳に後遺症なんか残ったらただじゃ済まされないぞ」
奏は一息つくと、彼の発言に異議を申し立てた。
「後遺症………って、私達は私達は命がけなんだよ。この世界で死んだら二度と現実世界には戻れなくなっちゃうんだよ?それをわかってて言ってるなら…………大夢はとても優しい人間なんだね」
奏の口調にはわずかな悲しさが込められていた。いつもの明るい表情がそこにはなかった。その刹那、この重たい空気を切り裂くように大夢の後ろ腰にあるポーチから電話の着信音がその場で鳴り響く。大夢はスマホを取り出して、画面を右にスライドさせた。
「はい。こちら第三研の刃柴です」
『やあ、はっしーくーん!お疲れ様でーすっ。お願いなんだけど、あと三分以内にそこから離脱してくれないかな?そろそろ起きちゃいそうだから迅速にヨロシクっ!じゃーねぇ。また後程~』
「……………………」
一方的に電話を切った相手の声の主は部署の先輩である斎藤優菜という女性で、歳は彼らよりも三つ年上で彼らの世話係(マネージャー)をしている。背丈がかなり小柄な為に幼女と見間違えられることが多く、外の世界ではかなり苦労しているそうだ。その幼女扱いを受けたという愚痴をこぼし始めたら、三時間はノンストップだという。
彼女の言いつけどうりに大夢らはここから急遽離脱することにした。
「…………ということなので、現実世界に帰るぞ。まあ、帰りに焼き肉にでも行って気分を晴らそうよ、な?元気だせっ………」
「え!大夢ぅ。奢ってくれちゃったりするの?いいよいいよ、さ!は・や・く・帰還しよう!ほら転送術式展開してっと…………じゃあ、帰ろーう!」
「――お前まさか、これを狙って…」
「 【現世帰還】‼ 」
青の青年と赤の少女は崩壊していく世界から姿を消した。その崩壊する世界――先ほどいた場所――はもう二度と復活することのない唯一無二のものだ。その世界を作り出した本人が完全に目覚めることによって、この世界は完璧に消滅する。
このような『全ての人間が持つその人自身の世界』のことを人々は『夢想世界』と言った。その世界では夢を創る者が主人公、いわば、RPGゲームの決まったコマンドを入力しなくてもいいバージョンという感じだろうか。
最近、この夢想世界に長時間のめり込んでしまう『中毒者』と呼ばれる患者が。世界的に急増している。その対処法を考えた日本の研究者が数十年前に開発した「Daydream Dive」という機器を駆使しながら、現在多くの患者を救っている。そして、病気の担当である「第三夢想空間対策研究所」に配属された戦闘員がこうして日々患者の夢を壊して、現実世界へと引き戻していく仕事を行っている。その戦闘員のことを我々は『Daydream DIVER'S』と呼んでいる。
こうして、日本の夢想空間での長期滞在者が後を絶たないという問題を抱えながらも、彼らは日々戦い続けている。
Daydream DIVER'S 街宮聖羅 @Speed-zero26
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