ミミズの耳

鮭さん

ミミズの耳

 ミミズが歩いていた。ミミズには耳がなかった。私はミミズに音を感じさせてあげようと思った。


 それから私はミミズをタッパに入れ持ち運び、近くでなにか音が発生するとその音を口で再現し、大声でミミズに浴びせるようになった。例えば近くを車が通ったら、ミミズに向けて「ごおおおおおおおおおお」と大声で叫んだ。ミミズは体中を振動させ喜んでいるように見えた。このようなことを四六時中行った。周りの人間たちの視線は気にならなかった。私の意思は強かった。私はミミズを幸福にするのだ。講義中には教授の話を聞くと同時に、聞いた内容をタッパに向けて大声で叫び続けた。結果、すべての講義において出席を許されなくなった。うるさかったようだ。人間界ではミミズの幸福より人間の幸福が優先されるのだ。


 しかし数日後、ミミズが動かなくなった。司法解剖の結果、餓死だった。私はショックだった。ミミズのためにと思ってミミズと行動を共にしていたのに、その実ミミズを監禁し餓死させてしまったわけだ。そこで私は気づいた。私はミミズのためを思って行動していたようで、実際はミミズを幸福にすることで、自分が幸福になりたかっただけ、つまり自分のために行動していたのだと。その結果、私は私の行動でミミズが幸福になっていると思い込んでしまっていたのだ。ミミズからしたら私は悪魔のようにしか見えなかっただろう。


 この経験により、私は声が大きくなったので、応援団長になった。めっちゃモテた。ミミズを監禁し餓死に追い込んだけど、めっちゃモテた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミミズの耳 鮭さん @sakesan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ