第30話 悪戯の代価
俺は日付が変わる頃に家に帰ると、そのままベッドにダイブした。
右足がやけに重くてダルい。まるで何かおもりを巻き付けているような、血流がこちらだけ滞って溜まっているような感じだ。
今までこんな事は一度も起こらなかった。でも、認めたくはないがもしかしたらという覚えはある。
最近のマイブームは墓石を蹴飛ばすこと。以前、肝試しをしたときに誤って墓石を倒してしまったのだが、その時に何故かなんとも言えない快感を感じた。あの重い墓石が地面に落ちて砕けるのがとても痛快で面白い。加えて、背徳感もある。
出来心で別の日に一人で人気の無い墓に行って墓石を割ってみると、再び脳が快感で支配された。たまらない。
そこからは一定の期間を開けて、時には電車に乗ってまで墓荒らしに出掛ける。特に最近は受験が近いせいでイライラの捌け口としても役立っていた。
今日も行ってきたところだ。墓地にある墓の中でもとびきり小さな墓で、地蔵のようなものが彫ってあった。丁度蹴りやすい位置にあったので、ポーンと蹴り飛ばしてやった。見事にコンクリートの階段に落ちていって、グチャグチャに砕けた。
蹴ったのは右足で、帰り道から足が重くなってきたのだ。
今まであんなのは何度もあった。なんで今日だけーー。
俺は電気を消して、服のまま布団を被って眠ろうとした。しかし、足のダルさは取れる事は無く、むしろ痛みが伴い始めた。何かが締め上げているような気がする。
恐ろしい想像をなんとか打ち消し、楽しい事で頭を支配しようとした。頭の中で陽気な歌も歌ってみた。しかし、痛みがそれらを凌駕していく。
ふと、もしかして本当に足がどこか悪いんじゃないかと思い立ち、布団をめくって暗闇の中、目をこらして右足を確認した。
すると、無数の虫の幼虫のようなものが足に纏わり付き、蠢いている。
大きさは様々だったが、小さいものは指先
程しかない。一体だけ、はっきりとした形状をしているものがいる。赤ん坊に見えた。
俺は悲鳴を上げてそれらを手で取り払おうとしたが、逆に触れたところにまで纏わり付き、全身にそいつらが這いずり回った。
必死に部屋のドアを開けて助けを呼ぶ。両親が血相を変えて飛び出してきてくれた。俺は情けなく泣き喚きながら、「こいつらを取ってくれ」と懇願した。
困惑しつつも電気を付けた母親は全身を掻きむしる俺に「……何も付いてないわよ」と呆れた声で言った。
「夢を見ていたんだろ」
父親が欠伸をして部屋に帰りかけたところ、母親が小さく悲鳴を上げた。視線の先には俺の右足がある。小さな黒い手形が無数に付いていた。
(完)
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