第3話 崩壊の音

 家族が見つけてくれた病院に入院することになった私。処方された薬を飲めば、あの騒ぎが嘘のように幻覚妄想はなくなった。


 ただ、確認行動は相変わらずで。


 一応退院はしたが、確認行動はどんどん酷くなっていった。


 翌年、再び入院。


 しかし、入院のストレスを理由に無理矢理退院すると、症状は格段に悪くなっていった。


 母への確認行動は異常だった。一日中、様々な事柄について、自分が大丈夫と納得するまで確認、確認、確認。


 何をそんなに確認していたのかは、詳しくは覚えていない。

 言ってしまえば、その程度の事柄だったのだ。何をそんなに気にしていたのか、と。

 しかし、標的となった母にしてみればたまったものではない。


 母は少しずつ、しかし確実に壊れていった。


 母はよく叫ぶようになり、家を離れる日もあった。そんな時は父も家に帰って来なかった。

 兄は母の叫びには敏感だったが、普段は自室に鍵をかけ、ヘッドホンで全てを遮断した。


 リビングから笑顔が消えた。


 それは私自身が作り出した、家族が大好きだった私にとっての地獄。


 兄はただ、母を助けたかった。


 父はただ、家族を守りたかった。


 私がいなければ、家族は幸せだった。


 私がいるから、皆が壊れていく。


 しかし、自殺することは考えなかった。


 辛くて辛くてどうしようもなかったが、家族の辛さを目の当たりにすれば、元の明るい家族に戻りたい、という思いの方が強かった。


 私は再び入院することを決めた。


 幸せだった家族の一員に戻る為に。

 これを最後の入院にするという覚悟を決めて。


 そして私の闘いは、五ヶ月に及ぶことになる。

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さよならを告げて、朝を迎えて。 心結 @kokona12

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