結界内問答
一体、私はどれ程の罪を重ねて来たのだろう?
最初は同胞である魔女への裏切り、次にトラデオ村の人達を……いや、もう考える事は止めよう。私ぐらいになると、最早生きて旅を続ける事すらが、きっと罪になると思う。
だから、彼の――ライキの存在は異質だった。
勿論、最初は彼を欺して他の魔女を殺させようとしたけれど、あまりに彼が真面目で、愚直で、優しかったせいだ――私は長年の計画が、実はとても「くだらない」ものではないかと考えるようになった。
彼は私に聞いた、「全ての魔女を殺した後、一体どうするのか」と。あの時、私は辛うじて誤魔化してはみたけれど、夜に「そういえばどうするんだろう」と悩んだのが、今となっては随分昔の事に思える。
ザラドを殺し、ニールマンゼを殺し、オガルゥの死を早め、そしてアレアをとうとう助けてやれなかった私は、立派な「魔女殺し」になれたという訳だ。ライキは自分の意思で魔女を殺したって言ってくれたけど、やっぱり最終的に手を下したのは私だろう。
そんな私が、今、魔力を使い切ろうとしている。魔力が無くなれば魔女は死ぬ、当たり前だ。
目が霞む。何だ、結局死ぬんだ、私。でも――どうしてこんなに明るいんだろう? まだ外は夜明けを迎えていないのに……。
あっ、と私は声を上げた。
死んだはずの四人の魔女が、私の前に滲むように現われた。恨みを抱いて出て来たのだろうか……恐る恐る顔を上げると、どうしてか、皆は困ったように微笑んでいた。
昔々、五人で国を造ろうと計画している時に、意見が割れると皆は必ずこう笑った。争いよりも、まずは笑顔を――五人の間の鉄則だった。
「何の為に魔力を使い切るの? 今までの罪を購う為に? 人間達を護る為に? 嘘よ、貴女はそこまで聖人ではないわ、坊やを護る為でしょう? もっと自己中心的で、汚くて、身勝手な魔女ファリナでしょう? 伊達に私も魔女をやっているのではないのよ」
そうだ。私は――ただ、ライキが生きてくれていたらそれでいい。
「ファリナ、あの男の子が好きなんでしょう。だったら護ればいいのよ、私はあくまで貴女を『母』として憎むわ、でもね、それでも貴女は同胞なの。腹が立つわ、反吐も出る……だから死になさい。護って護って死になさい、地獄で貴女を待っているから」
ごめんね。もう赦してとは言わない、だから貴女に地獄で迎えてもらうように、ライキを頑張って護るから。
「ボクは強い人よ、貴女が思うよりもずっと気高くて優しいの。それに――運命に抗う力を持っている、私には分かるの。あの日の晩、オガリスをボクと遊んだのだけれど、一度だけ奇跡とも言える逆転をしたのよ。私、もう一度その奇跡が見たい、人間の底の強さを見たいのよ」
やっぱり、ライキは凄いんだ。出会った時から何となく、「不思議な力を持っているな」って思ったんだ。うん、やってみる……私も、あの人の奇跡になれるかな。
「ファリナ、ごめんね。最後を任せちゃって……。だから、私が皆に話したんだ。『ファリナを助けに行こう』ってね。私達が一緒に闘ってあげる事は出来ないけれど……でも、まだ土地に残っている魔力だけなら、ファリナに渡す事が出来るかもしれない。そしてその使い道を――ファリナ、思い付いているんでしょう?」
大丈夫、皆から貰った魔力はちゃんと使い切る最高の方法を思い付いたの。私にしか出来ない、ライキは勿論、このサフォニアに住む人間も丸ごと護る魔術。
ザラドは「それしか出来なかったものね」と茶化すように笑ったが、私はもう――昔のように怒りを感じたり、恨みを抱いたりはしなかった。そう、それしか出来ない、だからそれを特化させるのだ。
皆、ちゃんと見ていて。私、今なら胸を張って言えるわ。私は魔女、結界の魔女ファリナ。そして……改めてお願いします、どうか今だけ――私に力を。
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