友達神様
かずまさん
目次のようなもの
高校生になって、少し人間関係に悩みを抱えた。その悩みは、僕を闇へと引きずり込んだ。闇といっても、光が全くないところではない。少し、光が遠い位置にあって、暗く見えているだけだ。きっと、すぐに解決できる悩みのはずだったんだ。でも、気づけば光がだんだんと遠ざかっていた。まるで、闇の沼に溺れていくように。
僕の悩みはいたって簡単だ。「友達」の意味が分からなくなったのだ。そして、そのせいで少し、人と関わるのが苦手になってしまった。いつも、友達と思っていた人が、もしかしたら友達ではないかもしれない。いままで、関係を築いてきた人は、本当に友達だったのだろうか。と、いつも陰鬱に考えてしまう。
とにかく、最近僕は人が怖くてたまらない。出来るものなら、早くこの闇のスパイラルから抜け出したい。
友達とは、どのくらい親密になった状態のことをいうの?
友達とは、遊んだり喋ったりする関係のことをいうの?
友達とは、切っても切れない鎖で結ばれる関係のことなの?
友達とは・・・・・。
だれか、友達の意味を教えてください。
ある日、家への帰路を歩いていると、ふと神社が目に入った。神社の鳥居が淡い残照に照らされて、後ろに黒い影をつくりだしていた。この全体的に錆びれた神社の名前は、菫神社。願いを一つ叶えてくれる神様が祀られている場所だ。ここを見るたびに、心がどこか落ち着いてしまう。時代に置いてかれ、寂寥の空気に覆われたこの場所に僕はいつも、居心地の良さを感じる。
黄昏時、少し肌寒い風が僕の背中を押す。いつの間にか、菫神社の参道を歩いていた。参道の周りは、怪しげにざわめく木々に囲まれている。
本殿の少し前にある、御神木の方を見ると、少女が一人立っていた。中学生くらいの子だろうか。真っ白なワンピースを着ていて、遠くからでも清楚感が漂ってくる。その少女は、闇に包まれていく空を眺めながら、何かを呟いている。
「なんで、私には友達ができないのだろう・・・・・」
少女は、虚ろな眼をしていた。
僕は、その少女になぜか親近感を抱いた。同じ「友達」の悩みを抱えているからだろうか。気づくと、僕は少女のすぐそばにいた。
少女が僕の方を見る。その時、僕はぎょっとしてしまった。遠くからではわからなかったのだけれど、彼女の顔には生気というものが感じられない。
「あなたは誰?」
少女は、抑揚がない、か細い声で僕に聞いてきた。その声に、僕は少し身震いをしながら、返事を返した。
「・・・・えっと、どこにでもいるような高校生です」
「・・・・名前は・・・・・??」
彼女は、僕の返事に反応を見せず、また質問してくる。僕は、彼女の目に異様な圧力を感じてしまい、名前を言う。
「
「・・・・う~ん、神社にいる謎の美少女って感じかな?」
「ん?なんか、ゲームで後に、名前がわかる設定なのかな、君は?」
「言っている意味がわからない、加藤春桜君。もうちょっと、ちゃんとした日本語喋ってください」
「なんか、す、すいません。で、本当の名前は何なのかな?」
「見ず知らずの人に名前を言えないです!後、あずま君の眼さっきから思っていたけど、不審者みたいですよ」
「あれれ、なんで僕知らない内に、知らない子にけなされているのかな?」
「全部、あずまが悪いです!」
少女は、薄っすらと笑う。その笑顔が、僕の心に突き刺さってしまった。今まで見たことがない、世界最高の笑顔だったからだ。
本当に何なのだろう、心がどんどん溶けていくような感覚がする。この少女になら、僕のすべてをさらけ出せるような気がする。
「そういえば、あずまはなんで、私の側に寄ってきたのですか?」
あれ、今気づいたのだけれども、彼女、僕のこと呼び捨てにしていないですか?
まぁ、いいか。たしか、昔の自分は、呼び捨てで呼び合ったら、もう友達になった証拠だとか、思っていた気がする。
「ああ、なんか気づいたら君に近いていたんだ・・・」
「そんな、名言っぽく言っても、ただの変態にしか思えませんよ」
「そうかなぁ?よく、運命の赤い糸に導かれてとか、前世の記憶が蘇ってとか、なんかそんな感じなのあるよね。だから、さっきの言葉はそういう意図で言ったはずなんだけどなぁ・・・」
「あずまは、妄想癖でもあるの?一回、琵琶湖に沈んできた方がいいよ。そうすれば、少しは思考がまともになると思うよ」
「きっと、まともになる前に死んじゃうね!」
それからも、ご神木の前で僕と少女は冗談を言い合って、互いに笑いあった。きっと、たぶんこういうのが友達なのかな?いや、でも友達と思うのには、まだ決定的に何か足りない気がする。その何かさえ分かれば、友達の意味がわかりそうなんだ。
気づけば、日が完全暮れて空が宵闇に包まれていた。僕と少女は、空を眺めながら、互いに呟いた。
「・・・・いい、空だね」
「・・・・・・僕ね、友達の意味が分からないんだ・・・・・」
僕は、空にそっとぼやいた。その言葉は、弱々しく発したのだが、ちゃんと少女の耳にと届いた。
「・・・・・・なら、私が友達の意味を教えてあげます!」
彼女は小さくて可愛い手を胸に当てながら、自信満々に言う。
「ど、どうやって?」
「昔、私の祖母から教わったお話を聞かせてあげるのです!」
彼女はえっへんと、胸を張り、楽しそうに話を続ける。きっと、祖母のことが好きだから、こんなにも笑顔で話せるのだろう。
「祖母は、友情の話が好きでしたから。よく私に祖母が考えた友情に関する話を楽しそうに喋ってくれたのです。だから、たぶん、きっと、祖母の話からヒントが得られるかも!」
「・・・・・えっと、ありがと。ほんと、なんかありがと」
僕は、彼女に感謝の気持ちを言った。すると、彼女は少し頬を紅潮させ、もじもじと何かを言い出した。
「そんな、感謝なんかしなくてもいいよ。私がただ、祖母の話をしたいだけだから・・・・」
「うん・・・・・・えっと、今日はもう暗いし、また明日この御神木で集合しようか」
「うん、わかった。じゃ、また明日」
彼女は、嬉しそうな声で言うと、手を振りながら神社の出口へと走っていった。
僕も、彼女を追いかけるように神社の出口へと向かった。そして、暗闇の道をスキップしながら、家へと帰った。
「あ、そうだ、彼女の名前を聞くの忘れてた。まぁ、明日聞けばいいか」
友達神様 かずまさん @kazumasann
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