Vol.7 恥ずかしさは突然に

「それではお時間となりましたのでこれにて五十嵐キザハシ先生と茅野みなみ先生の講演会を終わりたいと思います。両先生ありがとうございました」


 俺と茅野先生及び琴音が「ありがとうございました」と言いながら退場するとスタッフの何人かがお疲れさまでしたと出迎えてくれた。


「ふぅ、琴音お疲れ。結構大変だったな」

「恭こそお疲れ様。そうね、結構大変だけどちょっと楽しかったわ」


 互いにふぅと一息つきながら言う。


「あぁ~、帰ったらテスト勉強か~。帰りたくねぇ」

「この後の打ち上げはどうするの?」

「え?」

「あれ?」


 おい、さては武田さんやったな?


「今日、この後近くの焼き肉屋で打ち上げあるらしいよ」

「そんなん今聞いたわ。武田さんにおごってもらお」

「ふふ、それがいいかもね」


 そんな話をしていると前方から武田さんがやってくる。


「おーい、恭。打ち上げ行くぞ」

「それついさっき聞いたんだけど!?」

「だってお前事前に言ったらこねぇだろ」

「直前に言われてもいきたくねぇよ。まぁ、行くけど」

「だよなぁ、お前が来ないとなると…。は?え?来んの?」


 目を丸くし熱があるのかと俺の額に手を当ててくる。


「俺が今まで参加してこなかったのは姉貴が心配だっただけだ。今は彼氏もいるし姉貴も俺の心配ばっかするようじゃなくなったしな」

「高校生デビューってやつか」

「それ使い方ちげーだろ」

「じゃあ、シスコンとブラコンが年を経るにつれてちょっとずつ緩和されてきたってことか」

「はい。おごり決定。着替えたらすぐ行ってめっちゃ食ってやるから覚悟しとけよ」


 俺がいつも武田さんが財布を入れている左ポケットをぽんぽんと叩いて俺と琴音はその場を後にする。武田さんが青ざめた顔でこちらに何かを訴えていたがそんなことは一切知らん!


「編集さんと仲いいんだね」

「まぁ、俺がデビューする前からお世話になってたしな」

「なるほどね。私は一回編集さん変わっちゃってるからそこまで仲良くないなぁ。仲いいけど」

「俺も一回編集さん変わってるけどな」

「あ、そうなんだ」


 そんなことを話し、それぞれ着替えが済んだら出口で集合すると約束し別れる。そして、別れた後携帯が震える。


「もしもし?」

「あ!私!」

「ああ、結羽か。どした?」

「今さ、カレーを作ってるんだけど今日はすぐ帰ってくる??」


 スマホの奥で海斗が「結羽これでいいか?」という確認の声と翔也と麻里が言い合っている声が聞こえる。


「ははは、すんげぇにぎやかだな。そうだな、今日の晩飯は外で食うわ」

「了解!」

「おい、恭!お前も作るだけ作りに来いよ!翔也と麻里が使えなくてよぉ!」

「「うるさい!!」」


 そんなにぎやかな通話先の状況に苦笑いしながら静かに通話を切った。


「早くいかねぇと琴音待たせちまうか」


 スマホの時間を見て少し早く歩き控室へと向かい手短に着替えを済ませ荷物を持ちその場を後にし出口へと向かう。


「あれ、早く着きすぎたか?」


 早く来たとはいえ色々準備してから来たからそんなに遅かった感覚はなかったんだが。あ、あれか。これがうわさに聞く女子の準備は長いってやつか。世のリア充どもは彼女のこういうモノに待たされているんだろうか。


「うん。これめちゃくちゃ失礼だな」

「なーにが失礼なの?」

「お。来たか」

「ごめんね。結羽から電話来ちゃって電話の向こうがあんまりにも騒がしかったもんだからちょっと長く話しすぎちゃった。結構待った?」

「いんや。ちょうど今来たところだから気にしなくていいぞ」

「ふふふ。なんか付き合ってるみたいだね」

「それはちょっと思った」


 おいおい、男はちょろいんだ。あんまそんなことしてると勘違いしうちゃうぞ…


「それじゃあ、行こうか」

「おう、そうだな。っていうか、今日の打ち上げ会場どこか知ってるか?」

「うん。マネちゃんから聞いてるよ」

「ありがてぇ~。じゃあ、ナビよろしく」

「あなたにとって私は都合のいい女だったのね!」

「うっせぇ!声でけぇ。変な勘違いされんだろうが」

「まあいいじゃない。ほら、もう時間だし早く行こうよ」


 明らかに話をそらされたがこの際もういい。


「そうだな。早く行こう」


 俺がそういうと琴音はすたすたと歩き始めた。

 琴音って意外ときびきび歩いてる風なのに歩くの遅いんだな。


 そんなことを思いながら歩いていると前から一年前によく見た制服が歩いてきた。


「お、先輩!お久しぶりです!」

「ん?おぉ、出たな後輩!」


 おお!本当に懐かしいな!また一ついろんな意味で成長したか。


「で、あの子誰?」

「そうだな、紹介しよう!俺の後輩だ!」

「はい!後輩っす!」

「いや、そうじゃなくてね!?」


 俺がビシッと紹介すると困惑気味の琴音から否定の声が上がる。


「ん?完璧だったよなぁ?」

「そうっすね先輩!」

「いや、もっと名前とか関係性とか紹介することがあるでしょ」


 あぁ。なるほどそっちか。いつものノリで答えてしまった。


「こいつは日比谷明日香。中学の時の後輩で交流があってな」

「大体そんな感じっす!」

「なるほどね。大体わかったわ」


 琴音がそういうとふむと顎に手を当てる。多分こいつ明日香のこと犬みたいとか思ってんだろうな。


「なんか、犬みたいね…」


 ほら、小声で言っちゃったよ。


「恭先輩!こちらのきれいなおねぇさんはどちら様ですか?」

「あぁ、そういえば琴音の紹介がまだだったな。このきれいなおねぇさんは篠谷琴音って言って高校の友達だ」

「おお!琴音さんっていうんすね!初めまして!」

「えぇ。初めまして」


 やっぱ知り合い同士が仲良くなる瞬間っていうのはいいもんだな。


「ところで、お二人はこんなところを歩いていらっしゃったわけなんすけど今まで何してたんすか?」

「ん?あぁ、今日は講演会でな」

「はい、五十嵐先生と茅野先生の講演会っていうのは知ってるんすけど琴音さんには何か関係が?」

「琴音は茅野先生だぞ?」


 俺があっけらかんというと明日香は目を丸くする。それもそうだろう。なにせこいつは


「茅野先生だったんすか!?そうしてそれを早く行ってくれなかったんすかぁ!私、茅野先生の大大大大ファンなんすよ!」

「え、そうなの?ありがとう」


 琴音が気圧されてるの面白いな。飼い主が仕事から帰ってきたときの犬みたいになってるな。明日香から質問攻めが絶賛行われている中、琴音が目で助けを求めているが面白いからちょっと放っておこう。


「____でですね!茅野先生の小説ときたらこれがまたもうっすね!」

「はい、明日香~。ヒートアップしすぎ。琴音の顔見てみろ」

「おお、すみません。こんなにゆでだこになっているとは」

「きょーーーーーうーーー??」


 おお、怖い怖い。怖いから話をすり替えよう。


「そんじゃ、俺らはこれから用事があるからこの辺で」

「そうっすね。私もこれから家族と外食なんでこの辺で失礼するっす。」

 

 またーー!と手を振って去ってゆく明日香を手を振りながら見送りそのまま会場に向かう。


「なぁ、琴音。今ので分かっただろ?自分の前で自分のことめっちゃ褒められるの糞恥ずかしいだろ?」

「うん。めちゃくちゃ恥ずかしかった…」


 今だに恥ずかしいのか顔をぱたぱたと仰ぎながらそうつぶやく琴音は次の瞬間俺に対してすごい剣幕で明日香を放っておいたことを責められるのであった…


 ごめんて、面白そうだったんだもの…







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白波恭の小説家Life‼︎ 緋月 @akryo

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