Vol.6 GWは初日が忙しくて…

「おー、いらっしゃい」


 俺が玄関のドアを開けると、結羽、麻里、琴音、翔也、海斗とまあいつも通りのメンバーが立っていた。


 まあ、なんでこうなったかというと…


__________

「マジで俺中間テスト大丈夫かなぁ」

「俺もちょっと心配なんだよなぁ」


 こうして項垂れているのはもちろん翔也と海斗。


「お前ら、ゴールデンウィーク中は部活ないのか?」

「いいや、本当なら一週間前に部活禁止になるらしいんだけど今回は大会とかないし練習試合とかないから休みだと」

「はえー、ラッキーじゃん」

「だとおもうだろ?」


 依然、項垂れている翔也が手をひらひらしながら続ける。


「うちの清水先生ってのが顧問なんだけどよ、今回のテストで50点未満取ったら再試験受かるまで部活参加させないとか言い始めてさ」


 なるほどね。光里も確かに清水先生は面倒くさいっていってたなぁ。


「だから、そんなに不安そうなわけだ」

「あぁぁぁぁぁぁ、なんで赤点じゃねぇんだよぉぉぉぉ」

「静かにしなさいよ。ほかの人に迷惑でしょ」


 隣で勉強していた麻里が翔也を諫める。


「んー、じゃあ、ゴールデンウィークの間うち来るか?」

「え、マジ?教えてくれんの?」

「まあな。俺の勉強にもなるしな。何なら泊りでもいいけど」

「まじ!?それは助かる!泊まりで勉強会しよーぜ!なぁ!?海斗!」

「おー!それは名案。マジでありがとな恭!」


 俺が提案すると海斗が身を乗り出して目を輝かせる。


「そしたら、結羽たちも来るか?」

「んー、私は家近いし全然いいけど。2人はどうする?」


 結羽が麻里と琴音に尋ねる。


「私はちょっと面白そうだなって思ったかな。だから、行きたいかも」

「私もいいよ。どうせ暇だし」

「んじゃ全員参加ってことで」


___________________

 とまあ、こんな感じでトントン拍子に話が進んでこうなった訳よ。


「お邪魔します」

「おー!結羽ちゃん!いらっしゃーい!」


 結羽の声に応じるのは光里。現在進行形でリビングでグータラしているが話は付けてあるので問題なし。


「んじゃ、俺らは上で勉強してっからなんかあったら言えよー?」

「はいはーい。みんな頑張ってね~」


 マイペースは今に始まった事じゃないけどマイペースすぎるのも考え物だな。まぁ、今更どうしようもない感じはあるけどな。


「んじゃあ、女子は俺の隣の部屋で寝てもらって男子はもう一個の部屋で寝てもらおうかな。多分俺深夜まで起きてるから」

「わかった。じゃあ、いったん荷物置いてから恭の部屋に行くね」

「はいはーい」


 女子三人が話しながら隣の部屋に入っていった。


「やっぱ、恭の家広いなぁ」

「恭とおねぇさんだけだからそうかもしれないな」


 二人が荷物を置きながら言う。まぁ、確かに今思うとそうかもな。…そうなのか?慣れすぎて全く感じてなかったな。


「荷物置いてきたよ~」


 結羽と麻里と琴音が教材を持って俺の部屋に入ってきた。


「ねぇ、恭」

「ん?なに?」


 教材を置いたのちに麻里がおもむろに立ち上がって麻里が俺に話しかける。すると俺のクローゼットを指す。


「お宝探していい?」

「お前なぁ、来て早々に何言ってんだよ」


 きらりと目を輝かせる麻里に翔也がそれを諫める。


「本当に突然だな。まぁ、いいぞ。見つかるといいな」

「よーっし、探すぞ~。琴音と結羽と海斗もやる?」

「俺はやる」

「私もやろっかなー」

「私はいいや」


 海斗と琴音は参加するみたいだな。まぁ、残念ながらどこ探してもないんだなぁ~。紙媒体の文化は廃らないだろうが俺は紙とかかさばるものはラノベとコミックだけで十分なんだよ。


「じゃ、翔也と結羽は先に始めとくか。今なら二人体制だぞ」

「お、ラッキー。昨日やってて分かんねぇところ結構あったんだよ」

「あ、恭。俺もやってきたから後で頼む」


 おぉ、自分のわからないことを明確にしていたのか。なんだかんだ翔也と海斗ってやるべきことはできてるんだよなぁ。


 あと海斗は宝探ししながら物を頼むなよ。


「とりあえず、昨日やったとこ見せてみ」

「おう。ここなんだけどさ、いくら因数分解しても答え出てこないんよ。なんでかわかるか?」

「お前、さては授業中寝てたな?」


 俺が目を細めて翔也に問うと彼は目を泳がせる。


「…いやぁ……そんなこともない事も無いかも知れない」

「つまり、寝てたって事な。そこは、たすき掛けって言ってな。それぞれの式の係数と定数項を使う公式でな」


 こんな感じで俺が懇切丁寧に翔也に教えていると結羽が目の前でニヤニヤしている。


「んだよ。なんでそんなニヤニヤしてんだ」

「ううん。なんでも~。じゃあ私はお茶淹れてくるね」


 そういうと結羽は立ち上がりパタパタと部屋を出て行った。


 なんだかよくわからないがあんなににこやかならまあいいか。


「ねぇ、恭!!お宝がどこにもないんだけど!?」

「だから、無いって言ってんだろ?」

「ほんとにないの?」

「そりゃーね。私未成年なので」


 俺がそういうと「はぁ…」とクソでかため息をつきながら俺の椅子に座る。


「あ、この椅子いい!なにこれ!ただごついだけかと思ったのに!」

「あー、それはゲーミングチェアだな。それ以外と高いんだぞ」

「ちなみにおいくら??」


 その問いに俺が四本指を突き出すと麻里が椅子から飛びのいた。


「そんなに高いの!?恐れ多すぎる」

「別にいいのに。壊しても怒らんよ」


 俺が笑いながら否定するが、麻里はテーブルの前で正座した。


「まぁ、ちょうどいいし勉強しようか」

「そうね」


 それまでの様子を笑いながら見ていた琴音もテーブルの前に座り置いていた教材を開く。


「お待たせ~」


 そういって入ってきた結羽はお盆の上にお菓子と全員分のお茶を載せて持ってきた。


「あ、私あと一時間後くらいに用事があるから一回出るね」

「奇遇だな。俺は一時間半くらいかな。そんくらいで一回抜けるからよろしく」


 琴音が思い出したように言ったのに続いて俺も言う。


「わかったけどなんかあるのか?俺たちが宿題をやっているのをしり目に行くなんて」

「仕事だよ。宿題なんかより大事なことだからな。ま、せいぜい頑張れや」


 海斗がじたばたしているのを横目に宿題をもくもくと進める翔也が目に映りなんだかおかしくて笑ってしまう。


「まあ、明日からはずっと家にいるからな。おめえと一緒に缶詰めになってやんよ」

「あたりめぇだろ。もとからそういう予定だったろ」

「はいはいうるせぇ。海斗もとっとと始めねぇとテストやばいんじゃないの~」

「正論パンチはやめてくれよ…」


 海斗が翔也の言霊にぶん殴られ机に項垂れる。


 その後も教え教えられのプチ抗議が始まりあっという間に一時間が経過した。


「じゃあ、私はこれでいったん失礼するね」

「おー、もう一時間か。お疲れ様」


 そういって琴音が宿題をぱっと片付けると「んじゃまたあとでね~」といって足早に帰っていった。


「そんじゃ、俺も準備しようかな」

「おー、そういや今日の用事って何なんだ?」

「ん?あ、言ってなかったか?今日の仕事ってのは五十嵐キザハシの講演会だ。そういう事だからお暇するぞ~」


 そういって俺は部屋を出る。


「ん?これって恭の講演会の記事だよな。これってさ…」


______________________

「なんでお前がいるんだ…」

「あら、恭じゃない。ハロー」


 な、何故ここに琴音がいるんだ?


「お、キザハシと茅野みなみ先生!もういらっしゃったんですね」

「なぁ、武田さん。聞いてないんですけど。なんで琴音がいるんですか」

「そりゃお前さん、このこと言ったら絶対講演会やらないだろ」


 くそっ。なんも言い返せねぇ。


「ってか、キザハシは茅野先生と知り合いだったのか」

「ああ、高校が同じだ」

「おお、それはそれは。そんな偶然もあるんだな~。いやぁ、これは全く」


 俺と武田さんは手を合わせ互いに力を込める。


「ま、まぁ、ほら!もうすぐ打ち合わせの時間だろ。ちゃんとしとかねぇと今後の仕事に響くぞ」


 俺は舌打ちするとネクタイを締めなおす。


「仲いいんだね。編集さんと」

「んー。仲いいというかなんというか。まぁ、いろいろあるんだよ」


 ほんっといろいろね。


「ふーん。まあ何でもいいか」


 うん。やっぱりこういうさっぱりしてる琴音はありがたいな。


「じゃあ、控え室行くか」

「そうだね」



 


 














 





 



 


 



 



















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