4 真冬の歓迎
北へ北へと進むに連れ、日照時間は、それとわかるほどに短くなっていった。当然ながら、街道に明かりは一切ない。闇に閉ざされた見知らぬ道を馬で走るのは自殺行為だ。
早く前へと進みたい俺とコレティアの気持ちとは裏腹に、レヌス河口の町ノウィオマグスへの道のりは、なかなか縮まらなかった。
河口に近づくにつれて、辺りの景色は穏やかな丘陵地や平野から、湿地や沼地へと変わってきていた。まるで、街道だけが固い地面であり、ローマ文化を伝えるよすがのようだ。
レヌス河の東岸、自由ゲルマニアの側には、民家はほとんど見えなかった。
元々、ゲルマン人は集団で暮らす部族ではない。ゲルマン人が密集して住居を作るのを好まないのは、よく知られた事実だ。
商取引も、物々交換が主流だったらしいが、ローマの文化が伝わるに連れ、貨幣も使用されるようになった。
ローマ側の町で市が立つ日には、レヌス河を渡って毛皮等を売りに来る者もいる。逆に、現地の行商人が東岸に渡って、葡萄酒やガラス製品や青銅器を商う場合もあった。
バタウィ族の本拠地のノウィオマグスは、反乱の前までは、バタウォドルムと呼ばれていた。反乱鎮圧後に、故ウェスパシアヌス帝によって、バタウィ族の町を示す名前から、改名されたのである。
バタウィ族の族長であったキウィリスにとっては、自分の庭のような土地だ。
ノウィオマグスがようやく俺とコレティアの前に姿を現したのは、二月も半ばを過ぎた頃の夕暮れだった。
ノウィオマグスの歓迎は、最初から熱烈だった。
街道の向こうへ町並みが見え始めたところで、頭上で不穏なほど低く垂れ込めていた濃灰色の雲から、雨が降り出してきた。霙混じりの刃のように冷たい雨だ。俺とコレティアは馬の腹を蹴り、急がせた。
あっという間に激しさを増した雨は、俺達の行く手を阻むかのように、水の幕の向こうへとノウィオマグスの町並みを隠した。
頭へ被ったパエヌラのフードに当たる雨が、耳元でうるさい音を立てる。鼻に届くのは冷ややかな水の匂いだけだ。口から吐く白い息さえ、雨に打たれてすぐに消えていく。
激しい雨の中で馬を走らせていると、まるで、世界がこのまま水の中へ沈んでいくような錯覚を覚える。反乱後にウェスパシアヌス帝が建てた砦が、雨の幕の向こう側にちらりと視界に入ったが、薄暗がりの中では、影法師のように
ノウィオマグスの町並みが雨の向こうへ薄ぼんやりと見える頃には、雨はますます激しく降りしきっていた。北国の早い日暮れには、まだ少し間があるはずだが、辺りは既に、かなり暗い。
ローマ街道の有難い点は、必ず、町の中央を通っているところだ。よほどの間抜けか、目隠しでもしていない限り、町を通り過ぎてしまうドジな真似はしない。
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