第7章 真実との邂逅 紀元80年 2月
1 ゲルマニアへの旅路
ゲルマニアへ向けてローマを出立した俺達は、まずフラミニア街道を北上し、次にエミーリア街道を通って、
ローマ街道は帝国中に網の目のように走っており、アルペスを越えてガリアとイタリアを結ぶ街道だけでも四本もある。
俺達は、相談の結果、アオスタから北回りに、アルペスを越える進路を選んだ。ガリアの中央部を抜けずに、レヌス河の上流を目指す道である。
一部の隙なく舗装された街道を通ってさえ、真冬のアルペス越えは、苦労と危険に満ちていた。
今年は天候が荒れる日が多いらしい。吹雪のせいで、
半月近くを掛け、アルペスを越えた頃には、真冬だというのに、俺は
抜けるように肌の白いコレティアは、焼けても赤くなるだけで、すぐに元の白さに戻る。
まともな人間なら、真冬にゲルマニアを旅しようだなんて
寒いし、天気は
その内、尻の皮がズル剥けそうだ。
俺もコレティアも、不平や不満を口に出さず、ゲルマニアの旅を続けていた。
だが、さすがにみぞれ混じりの雨が降る日は、宿に籠もって寝台の中で温かいムルスムでも飲んで、ごろ寝したくなる。
アルペス越えの時のように、吹雪で視界が白く閉ざされれば、出立を諦めて、宿に留まる決意も簡単につくのだが。
アルペスを越えた俺達は、計画通り、レヌス河に沿って、街道を北上していた。
レヌス河防衛線である軍団基地は、全てレヌス河に沿って建設されている。南から順に
四つの軍団基地が睨みを利かすレヌス河の東岸には、ローマの支配を拒む多くのゲルマン人部族が住む、広大な自由ゲルマニアが広がっている。
昼なお暗い深い森の中のどこで、キウィリスに扇動されたゲルマン人達が、ローマへの反乱を企てているのかは、西岸からは
十年前の内乱の後、所在不明になったキウィリスの潜伏場所については、様々な噂が流れていた。
何せ、ガリア帝国を打ち建て、レヌス河防衛線を無に帰させた有名人だ。
酔っ払いの戯言も同然の与太話から、まるで見てきたように真実味のある話まで、噂は幾らでもあった。
ゲルマニアは広大だ。全部の噂を確かめていては、何年かかるかわからない。
「大したもんだな。カリグラやネロみたいだ」
コレティアと
近衛軍団の兵士に殺されたカリグラや、自殺したネロには、実は死なずに生き延びているという噂が絶えない。
何年かに一度、ローマ帝国の東方では、思い出したかのようにカリグラやネロを名乗る人物が現れる。
「私が真実かもしれないと睨んでいる噂は、二つあるの」
俺の軽口を無視して、コレティアが口を開く。
「一つは、キウィリスの縁者が暮らす
アグリッピネンシウムは、正式名称をコローニア・クラウディア・アラ・アグリッピネンシウムという。
ノウィエシウムとボンナの軍団基地の間にあるレヌス河沿いの町で、ゲルマン人の一部族、ウビイ族の居住地であり、低地ゲルマニア属州の州都でもある。
十年前の反乱では、アグリッピネンシウムの市民は、ローマの味方のままでいるか、キウィリス側へ寝返るかで揺れていた。
結論が出ないまま、
キウィリスの妻子や妹等、縁者が暮らしていたのも、焼き討ちを免れた理由の一つらしい。
占領したアグリッピネンシウムで、キウィリスは、各ゲルマン人部族の代表を招いて会合を開き、ガリア帝国の創設を宣言した。
「確かに、キウィリスに関係の深い町なら、潜伏している可能性は高いだろうな」
俺は、コレティアの言葉に頷いた。
「なら、まずはアグリッピネンシウムからね」
レヌス河の下流へと向かっている俺達にとっては、当然ながら、上流のアグリッピネンシウムから調べて行くのが合理的だ。
コレティアが馬の腹をかかとで蹴り、走らせる。俺も遅れまいと後に続いた。
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