14 友達の言うことが信用できないの?
「ルパスはどこ? とうに陽が昇っているのに、まだ寝ているの? いつからそんな
よく通るコレティアの声が壁越しに聞こえて、俺は寝台から跳ね起きた。
頭が重い。昨夜、ポピディウスと深酒をしたせいだ。女を諦めろという話など、何時間も
ポピディウスの家の中は騒がしい。
とうに日の出が過ぎて、奴隷達が慌ただしく働いているのだろう。
コレティアに強襲される前に、寝間着代わりの着古したテュニカを脱ぎ、洗濯されたテュニカを被った。
帯を締めているところで、戸口に人の気配を感じる。
「ルパス! 遅いわよ!」
振り返ると、足を大股に開いたコレティアが、憤然と立っていた。
「朝は、迎えに行くまで屋敷で大人しくしておく契約だったはずだぞ」
コレティアの後ろに、昨日ウルビアの店まで案内を担当した若い奴隷が従っているのを確認すると、コレティアに背を向けて、きっちりと帯を締め直す。
どうせフラウィアが無理やりつけたのだろう。とはいえ、お供の奴隷をつき従えているのは有難い。朝っぱらから文句を言い立てないで済む。
俺の言葉を、コレティアは綺麗に無視した。
「早く荷造りをしなさい!」
新兵を叱咤する百人隊長のように、居丈高に告げる。なぜ荷造りを、と問い返す前に、別の声が割り込んだ。
「コレティア! ああ、美しいコレティア! 君も、グレースムに会ったんだよね? 君の花のような唇で、グレースムが素晴らしい女性だと証明しておくれ!」
ばたばたと戸口に姿を見せたのは、ポピディウスだった。
コレティアの来訪を奴隷に告げられて慌てて来たのだろう。一応、着替えてはいたが、急いで締めた帯がねじれていた。髪にも寝癖が残っている。
ポピディウスはコレティアの
「コレティア、ルパスったら
ポピディウスの言葉を聞いている内に、昨夜の記憶が蘇ってきた。
昨夜、ポピディウスに、コレティアを尾けてきた男とのやり取りを話し、グレースムの正体について説明した。だが、ポピディウスは全く信じようとしなかった。
俺は言葉を尽くして翻意を促したが、恋に落ちたポピディウスが、すんなり説得に応じるはずがない。
やがて、お互い酒が入り、
足元に伏して、すがりつかんばかりのポピディウスに、コレティアは冷たく尋ねた。
「友達の言うことが、信じられないの?」
「そ、そう言われると、困るけど……」
ポピディウスは視線をさまよわせる。コレティアは俺を見ると、皮肉げに唇を歪めた。
「信用がないのね。日頃の行いのせいかしら?」
「あんたほどじゃない」
俺は顔をしかめて言い返した。
「ルパスはきっと、何か誤解しているんだよ。グレースムが金持ちの客を食い物にしているなんて、そんなの嘘だ! 彼女の占いはよく当たるから、金持ちの客が多いだけだよ。もし、もし、万が一だよ、グレースムが悪いことをしていたとしたら、絶対に背後に、彼女を誑かしている、悪い奴がいるんだ! でなければ、彼女が悪事を行うはずがないよ!」
目をきらきらさせたポピディウスは、拳を握り締めて力説する。
グレースムに心酔していて、
だが、お人好しのポピディウスだ。このまま放っておいたら、グレースムに金も心もいいように
余計なお世話かもしれないが、友人として、ポピディウスがみすみす不幸になるのは見過ごせない。
俺だけじゃなく、コレティアにもグレースムがインチキ占い師だと言われたら、ポピディスだって少しは信じるかもしれない。
なんといっても、コレティアはグレースムにも負けない美貌の持ち主だ。ポピディウスが耳を傾ける可能性は、かなりある。
俺は期待を込めてコレティアを見た。
俺の眼差しを受け止めて、コレティアが小さく頷く。ポピディウスの肩にそっと手を置くと、優しく微笑んだ。
「グレースムがインチキ占い師だという、ルパスの言葉が信じられないのね? そうね。自分の目で確かめたわけじゃないのだもの。それなら、あなたが自分でグレースムのことを調べて、潔白を証明したら?」
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