第2話 「少女の夢」

19XX年 夢の中


私は香ばしい匂いで深い眠りから目が覚める。今すぐ飛び起きて朝食に向かいたいが、冬の寒さのせいで体は布団から動こうとしない。きっとそのうちママが、私のことを起こしてくれる。そう信じて再び眠りに…つくことが出来ない。

私は観念して重たい体を無理やり起こして、床に足をつける。冷え切った床が、私の足を冷たく凍らせる。この時期は本当に空気が冷える。小さい頃、それは春を迎えるための準備期間なんだよって、パパが教えてくれた。下の冷たさを我慢しながら1歩2歩と進みクローゼットの前までたどり着いた。クローゼットを開けるとそこには昨日ママが畳んでくれた私の洋服がしっかりと収納されていた。私はお気に入りの空色のワンピースを着た。着替えが終わると、ドアを開けて階段を勢いよく降りた。向かう先はいい匂いがする部屋だ。たどり着いた部屋からはさっきよりも増していい匂いがする。何を作っているのだろうか。私は待ちきれずにドアを開けた。だが、中を覗いても誰もいない。さらに、さっきまでしていた匂いはいつの間にか消えてしまっている。私の部屋よりも床が冷たい。まるで氷の上を歩いているかのように感じた。異常な程の寒さが気になり下を見る。底の見えない闇の中、もがき苦しんでいる家族の姿があった。

「ママ!パパ!」

思わず私は叫んだ。だが声が届いていないのか返事がない。そこでもう一度呼んだ。すると今度は2人が苦しむのをやめて、私のことをじっと見つめる。目には光がなく、顔色も悪い。なんだか不気味に思った。次の瞬間2人は私の足に手をかけた。そして、ズルズルと私を下へと引きずり込んでいく。

「ママ、パパ、止めてよ!離してよ!」

私は必死に叫ぶが2人は手を止めない。下半身はもう埋まってしまっている。何度も、何度も叫ぶが手を止めない。

「やめてよ…」

最後に掠れた声でそういった時に2人が小さな声で細々と、でもはっきりと言った。

「あなたのせいだ」

私は完全に闇の中に落ちた。私の視界はもう何も見えない。



2018年


…苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい。苦しい!

「…!?」

私は跳ね起きた。まだ心臓の鼓動が収まっていない、呼吸が荒い、恐怖か消えない。私は激しくなる心臓を必死に落ち着かせようとした。そうしているうちに少しづつゆっくりとその恐怖は退き、鼓動も収まっていった。またあの悪夢か…。今まで私はこれと全く同じ夢を幾度となく見てきている。その度に今のように発作が起きるのだ。落ち着いたことで周りが見えてくる。だが私が寝ているところは硬いベッドでもなければ床でもない。それに全く部屋の形が違っている。コンクリートの壁でもない。ここは一体…。私が部屋の捜索を始めようとした時に、誰かがドアをノックした。

「さっきドタバタしてたけど大丈夫?何かあったの?」

男の声だ。でも軍の本部の人たちとは全く違う声だ。青年?

「あなたは誰ですか」

私の問いに大して彼はドア越しで答えた。

「あっごめんごめん!自己紹介してなかったよね。俺は須高 煌って言うんだ。よろしくね」

須高 煌…。やっぱり私の知り合いではないようだ。

「君はなんて言う名前なの?」

私は…。

「私に名前はありません」

きっとどこかに私の軍の基地があるはず。そこに行ければこの状況の説明がつくだろう。

「そっか、名前無いのか…。じゃあしょうがないね」

「人質をとって何が目的なんですか」

人質という言葉を聞いて明らかに彼は驚いた様子で答えた。

「人質!?とんでもない。俺はただ外で君が倒れてたから一旦家に運んだだけだよ」

「そうですか、ありがとうございました。では私はこれで失礼します」

「いやいやちょっと待ってよ。行く当てはあるの?」

「鍛えられてますから大丈夫です」

ドアの向こうでため息が聞こえた。

「それ大丈夫じゃないから。…とりあえず家にいなよ。大したもてなしは出来ないけど野宿するよりはマシだと思うよ」

確かにここを仮の拠点にして探すのは悪い案ではない。でも、素性の知れない相手の元にいるのはやはり不安がある。

「もし君が僕のことを警戒してるなら、無理にとは言わないけど」

…この人からは悪意が感じられない。おそらく純粋に私のことが心配なんだろう。

「分かりました。私の拠点が見つかるまではここにいさせてもらいます」

私の返答を聞いて彼の声は明るくなった。

「それがいいと思うよ。ところでさっき君を運ぶ時に見たんだけど、その服ってもしかして…」

私は軍服を着たままのことをすっかり忘れていた。これでは私が何かの軍に所属しているのは一目瞭然。それを分かってて、やはり彼は敵軍の…。

「君も銃とか好きなの?」

…は?

「その軍服かなり年季の入ったものだよね?なかなかこの色の軍服見かけないからなぁ。

結構高かったんでしょ?」

「あの…何か勘違いしてませんか?」

「へ?」

「私は軍人ですが?」

よほど驚いたのか、彼はドアを勢いよく開けて私のことをまじまじと見る。なんだか気味が悪い。そして彼は絶叫した。

「ええええええええええええ!!!!!!」


彼は私が今まで出会った人で1番変わった人だ。


おまけ


主人公の名前は須高 煌(すだか こう)と読みます。由来は全くなくて友達と出かけてる時に思いつきで決めました(笑)


次回予告

ミリオタの青年と出会った少女は自分とは何かを彼に尋ねる。そこで彼はあることを少女にする。次回、ミリオタとソルジャー「名付け親」

…タイトルでバレバレなのはナイショだよ!

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ミリオタとソルジャー 土人 @underchain

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