ミリオタとソルジャー

土人

第1話「少女の時間旅行」

プロローグ

19XX年

私は今、死んでいる。正確には体は人形として動いているのに等しく、私の自我は死んでしまっているように感じる。いつからだろうか、戦場に立って怖いと感じなくなったのは。私は髪を切るのに失敗してパッツンになっている前髪をヘアピンで横に流して止めると約120メートル先で身を潜めている的に銃口を向けて構える。季節は秋頃のはずなのにとても冷たい鉄の温度が指から脳に伝わる。撃つことに躊躇っていた時期もあったが、今ではこうして的に向かって銃を向けることに何も感情を抱かない。本当に私はただの兵隊人形なんだと思い知らされる。最後に暖かいと思ったのはいつだっただろうか。的が私にようやく気づき銃を構える。しかし既に遅かった。私は容赦なく冷たい引き金を引いた。少し先で悲痛な叫び声と共に火薬の臭いが私の鼻を刺激した。

「…次。」

私は次の的を撃つために深い暗い森の中の移動を開始した。



プロローグ


2018年


俺は今、死にかけている。

「…暑い。」

目が覚めると同時に感じる熱気に俺は苦痛な笑みを浮かべると起き上がり、汗で蒸れている部屋着を脱いだ。今日は8月2日。大学生になってから初めての夏休みの真っ盛りだ。と言っても講習をわざわざ暑い中大学に行き受ける子も入れば、7月前半から夏休みに入って毎日Twitterやインスタに〇〇ビーチ最高!とか言って夏を満喫している人もいる。俺はどちらかと言うと後者の方に当たる。夏休みは2日前から始まったが、毎日俺がすることと言ったら、ネットで知り合ったサバイバルゲーム(通称サバゲー)仲間と毎日会場に行き、丸1日銃を乱射して遊んでいる。そう、俺はれっきとしたミリオタなのだ。銃が好きすぎて普段の友達は銃の話を俺が話し始めるとすぐさまに話題を変えてくる。まぁ、興味無いことを聞いても楽しくはないだろう。そして、俺は今日も仲間達と東京から山梨まで移動してサバゲーを行う。この最近は都心内にある会場ばかりでみんなが飽き飽きしていたので俺が提案したところ、みんなはすぐに賛成してくれた。俺は、いつも通り7時半に起きるとすぐさまシャワーを浴びて身だしなみを整える。朝ごはんのサンドイッチをタッパーに詰めこみ、バックに放り込む。食材などが入ったクーラーボックスやバーベキューセット。そして、相棒のハンドガンであるデザートイーグルを車に乗せると家の戸締りをした。外はとても晴れていて暑いものの絶好のサバゲー日和だった。電柱に止まって大きな鳴き声でミンミンと鳴くセミが少々鬱陶しいと感じたがこれから行く場所を想像するとこれの数倍はうるさいと予想がつく。至る所でセミが鳴いていることだろう。俺は直射日光の影響で中が外よりも暑くなっている車にエンジンをかけるとエアコンをガンガンに効かせて山梨へ向かって車を走らせた。


プロローグ2

19XX年


先程から降り始めた雨が冷たく私の頬を滴り落ちていく。私が移動している最中に大きな爆発が2回あった。1回は敵による手榴弾か何かだろう。2人のうめき声が聞こえたということは、差し詰め道連れと言ったところだろうか。もう一回は恐らく新兵器。今まで聞いたことのない爆発音だった。離れたところでの爆発だったからよかったものの、近くにいたら即死も有り得ると思われる。新型兵器について考えていると1本の無線が入った。

「本部より第五部隊に告ぐ。本作戦は成功されたし。繰り返す、本作戦は成功されたし。速やかに帰還せよ」

そう言って無線は切れた。

私は一呼吸すると、すぐに本部に向かって移動した。結局あの爆発音はなんだったのだろうか。

彼女の後ろではついさっき胸を弾丸で骨まで貫かれた兵隊が灰色の雨に打たれながら無残に転がっていた。

薄暗い森を抜けると人工的な光が差し込む。既に何人かは帰還しているようだ。

「おかえりなさい」

そう言って私を出迎えてくれるのは私の先輩であり私の部隊の隊長である雨野すずさん。普通なら挨拶ぐらいはするだろう。だが、私にとってここはおかえりを言う場所ではない。だから私はおかえりとは言わなかった。

「…。」

すずさんがちょっと悲しい顔をした気がした。

普段はこのあとは夕食の時間だが今日は何故か食べる気になれなかった。体を癒すのには睡眠が1番効果的だ。私は自分の部屋にさっさと入ると部屋着に着替えてマットが硬いベッドに倒れるように転がった。

こんな生活がいつまで続くのだろうか…。

そっと目を閉じて睡眠の体勢を取った。ゆっくりと薄れていく意識の中でふと思った。


私は…誰だろう。


プロローグ2

2018年

俺は今日の分のサバゲーを満喫して家に帰るために車を走らせていた。後ろにはお昼に使ったバーベキューセットがあり、道路で僅かな段差にぶつかる度にガタガタと揺れる。

ナビの画面の時計を見ると既に時間は21時を回っていた。なんだかんだで山梨から東京はそこまで距離はなく、道路も混んでいなかったことから10時前には自分の家に帰ることが出来た。家に帰るやいなや、予めコンビニで買っておいた夜ご飯をレンジで温めた。やっぱりコンビニ弁当は何か足りない気がする。それをなんというのかは分からない。だが、その何かが欠けている気がする。俺はコンビニ弁当を食べ終わるとシャワーを浴びで汗を流した。体を拭き、ドライヤーで髪を軽く乾かすと俺はすぐに眠りについた。明日も朝から山梨に向かうからだ。

うちのアパートは比較的どこの団地にもありそうな貧相なアパートだ。それを大家さんに言ったら怒られるので普段は絶対に口には出さない。それでも車は1台止められるし風呂、トイレ付きで6万5000円の1LDKはなかなか上的なのではと俺自身思っている。俺がゆっくりと眠りにつこうとした時にやけに窓が明るいことに気づいた。今日はスーパームーンでもないのにこんなに明るいのはなぜなんだろうか。いや、スーパームーンでもあまり明るくなるわけでは無いが。不思議に思いながら俺はカーテンを開けて外を見た。

するとそこには、迷彩柄の服を着用した18~19歳の女の子が俺の車の上にゆっくりと降りていくのが見えた。あの子は飛行石か何かを持っているのだろうか…。とりあえず俺は急いで着替えると外に出てその子を一旦中に入れようとした。俺が自分の車に向かうと案の定、車の上で意識を失っている女の子がいた。流石に不自然には思ったが、夏とはいえさすがに夜は冷えるので俺は彼女を背負うと自分の家に連れて帰った。

その声は静かに細々とした声で聞こえた

「私は誰…」

「えっ?」

思わず聞き返したが向こうからの返事はなかった。俺はできる限り彼女が楽な体制になるように運び、自分の家に入れた。とりあえず自分のベッドにそっと寝かせると薄い生地の毛布をかけてあげた。透き通ったセミロングの黒髪、整った顔、柔らかそうな肌。見れば見るほど彼女は可愛いと思った。詳しいことは明日聞いてみよう。突然空からふわりふわりと俺の車に舞い降りた少女は私は誰と言った。俺にはその意味はさっぱり分からないが空から降りてくるくらいだからきっとなにか事情があったんだろう。いろいろ凄すぎて逆に冷静になるあの状態が今まさに俺に起こっている。彼女が寝ているベッドの上に掛かっている掛け時計に目をやると25時を回っていた。明日も早いことを思い出した俺は反対においてある一人用のソファに座るとすぐさま目を閉じてゆっくりと自らの意識の中へと入って行った。

今日は遠くで輝く星がよく見えた。

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