裏社会の名門一家の俺が何故か風紀委員になった件

ハープ

プロローグ 珍しい母

1999年7月


 あの有名なノストラダムスの大予言によって、世界が滅びるなどと騒がれた年。


 この世界は、滅びなかったが……。


 世界中に不思議な黒い穴が現れた。


 摩訶不思議な魔法でしか対抗できな生物が現れ、奇怪な色彩を持つ子供たちが生まれた。


 まぁ私には、関係ないだろう。東京都内では、そのようなこと起っていないのだから。 


2010年7月


 摩訶不思議生物を、幻影獣ファントムビースト

 

 奇怪な色彩を持つ子供たちを、魔法使い《ウィザード》。


 と呼ぶと、国連によって決定された。


 世界中が、平等権を掲げる国でさえ、魔法使いたちを特権階級へと位置付けた。

 

 国民の大反対にあいつつも、彼らがいないと幻影獣に対抗できない。苦肉の策。


 幻影獣が現れて、壊滅した小国もある。仕方がなかったのだ。



2018年


 魔法四家というものが制定された。


 一の家 牡丹  二の家 柳緑  三の家 杜若  四の家 河骨


 人工的な菱形の島、魔法島とい物も作られた。


 そこには、五つの学院を置いて魔法使いを育成するらしい。


 

 それよりも、幻影獣の影響で人間の住める場所が少なくなった。土地の高騰によって増えたスラム街を何とかしてほしい。



2020年


 今、世界はめちゃくちゃだ。


 幻影獣のせいで、世界各国に様々な影響が出ている。


 特に、我が国日本の幻影獣は強いらしい。


 そのせいで、私の故郷。九州南部が、人の住めない土地となってしまった。


 あぁ、故郷へと帰りたいものだ。桜島大根が食べたい。あの、灰が飛ぶ街が恋しい。

 なぜ、もっと里帰りしなかったのだろう。後悔しても、もう遅いのだろう……。



2030年

 

 孫ができた。


 薄いピンク色の髪をして、淡い紫色の目をしている。魔法使いだ。


 娘夫婦は、孫を魔法学院へとやると今から張り切っていた。


 

 「自分の娘を、幻影獣と戦わせる気なのか?」


 と聞くと、


 「当たり前だ。_________」


 ________。_____________。_________________。


 これもすべて、幻影獣のせいなのだ。



この後は白紙。


ある男の手記により。





 蓮夜は今年、魔法島へ入学する。蓮夜の母、美織が出発前に差し出したのがこの手記だ。

 蓮夜が生まれた日に亡くなったという曾祖父が、書いたものらしい。驚くほど達筆なのだが、なぜかメモのようなものだった。それに、ほとんど十年おきに書かれている。

 曾祖父は、蓮夜同様に三日坊主だったのかもしれない。


「これが曾おじいちゃんの日記よ、蓮夜。曾おじいちゃんは、幻影獣のせいでひどい目にあったの。曾おじいちゃんの仇を取ってあげてね」


「わかっております、母上」


 蓮夜は緋色の瞳で、母の目をじっと見つめた。

 いくつになっても美しく、衰えを感じさせない母。久しぶりに会ったが、やはり何も変わっていない。

 切れ長の緋色の目。しわやたるみのない白い卵型の顔。もう四十だというのに、白髪一つ枝毛一つない紅色の髪。黒いマニキュアを塗った形の良い爪。パリッと着こなした高級ブランドのスーツのサイズは、学生時代から変わっていないと聞いたことがある。

 不思議なのは、この母が蓮夜を見送りに来たことだ。子供のころからにこりとも笑いかけられたことがなく、屋敷内で顔を合わせても無視。母親らしいことなど何もしない母が、見送り。

 珍しいこともあるものだ。


「北学院で頑張ってね。牡丹夏花会長によろしくね」


 蓮夜が魔法島に行くのは、仕事だ。

 牡丹家次女の夏花嬢の護衛。それが蓮夜の今回の仕事だ。決して遊びに行くのではない。

 母は、その事を忘れさせないために見送りに来たのではないのだろうか?


「心得ております」


「本当に宜しくね。夏花会長は気まぐれで、蓮夜で六人目の護衛なのよ。いくら紅殺でも、これ以上いい人材となるとね……」


 自由奔放で、傲岸不遜。仕事はできるが、問題行動が多い。気に入らないものはすぐに首にする。とんでもない命令をしてくる。

 蓮夜に渡された調査書に書かれていた、夏花の評価だ。こんな奴の護衛なんぞしたくはないが、仕事なので仕方がないと半ばあきらめていた。


「精進します」


 そういわれても、6人も辞めさせられている護衛なんてすぐに首になるだろうが……。心の中ではそう思っていたが、口には出さないようにした。

 母も、きっとそう思っているだろう。


「本当にお願いね。

 それに、蓮夜にとってはよい話があるの」


「よい話ですか?」


「えぇ。現南学院生徒会長は、杜若紫ちゃんなのよ」


「え、えぇ」


 紫。その名前に思わず胸が高鳴った。

 夜明けの色の長い髪、アメジストの瞳の杜若の姫。蓮夜の大事な大事な幼馴染だ。

 三年前。紫が南学院に通うため、魔法島に立ったあの日から一度もあっていない。お互いの予定が妙にかみ合わず、入れ違いになるのだ。作為的なものを感じてしまうが、これからはいくらでも会えるだろう。

 今からでも、ニヤニヤしてしまうが、母の前。気を引き締めなくてはならない。



「それよりも、がんばってね。御三家紅殺家次男として、恥じない日々を過ごすのよ」


 真っ赤なルージュが塗られた口が、白い顔でぐにゃりうねった。

 人工的な色の唇が、別の生き物のように母の口うねるのは、とある前触れだ。

 うねった唇が引き締まり、少し柔らかな表情が、能面でもつけたように固くなる。この表情になった母は、好きではない。

 なぜなら、その答えが言葉を発する前に決められているからだ。


「わかってます、母上」


 これ以外の言葉は、この家では許されていない。

 少しは親子らしいやり取りができたと思ったのに……。

 薬のように苦い思いが、胸の中を走り抜けた。

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