タンタン鳥とその時代

@ibasym

・タリタスと、その親。食事風景。

無数の落下傘のようなあれが

ゆらゆらと遠くの赤い空の中を降りてゆく、

赤く小さなクラゲのようなものや、

透けた黒いビニールシートが漂っているようなもの

薄く黄色味を帯びた鳥の羽根のようなものなど、

あれは風でゆっくりと飛んでいく可能性のある

およそすべての形状のものを含んでいるのだろう。

どうでもいいことだ。

ゆっくりと夕方は進行してゆく。

明日のために寝る。


狩る、刈る、借る、

いずれでもいいが捕食とは一方的なものだ。


稜線が白くなる頃、

あれはまた落下傘のように向こうで落ちてゆく

急ぐことはない。

いつもと同じだ。

タリタスを見やる。

タリタスもこちらを見る。

タリタスは中空に敷かれた線路でもなぞるように

空に向かってゆっくりと発射してゆく。

細長いチューブのようなタリタスを見送ると

あの落下傘を目指して


私も発射してゆく。


無数の落下傘のようなあれらにみるみる近づいてゆく

それらに近づくとまずは

水中の機雷でもよけるようにして

それらの隙間を縫ってそれらを視認していく

数十は同時に捕捉できる。

四百から五百ほどの

それらの落下傘のバリエーションを確認すると

一つ一つ確実にそれらを捕食してゆく。

味はない。

満腹感もない。

捕食してゆく。

海蛇が泳ぐように、または竜がうねりながら天を昇るように

空中に、螺旋を、直線を、放物線を、時には鋭角を描きながら

それらを捕食してゆく。


タリタスの方を見やる。

赤や黄、緑やピンク、途切れることなくさまざまな色の

それらを捕食して、

タリタスの体は虹色に発光している。

透明なチューブに次々とマーブルチョコを入れていくように

タリタスの体にそれらは入ってゆく。軽快に。


頃合いだ。

タリタスは帰ってゆく。

私も帰ってゆく。

タリタスは帰るときに一度だけ私の方を見た

タリタスからは私の体も虹色になっていることが分かっただろう。

味はなかった。

満腹感もなかった。

ただあれらを捕食しているだけだ。

そのようにして私は発光しているし

タリタスも発光している。

朝は進行してゆく。

昼になる前に帰ろう。

もう死は近い。

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