金貨

安良巻祐介

 夜明けの少し前に目が覚めたので、何となく気紛れに庭先へ出てみると、狭い庭の片隅に何やら金色に光るものがある。近づいて拾い上げたそれは、見たこともない文字の書かれたどこかの国の金貨だった。いつの間にこんなものが? この庭は外からは入れないし、もう長い間、家の中へまで招き入れた客もない。ぴかぴかと光を放つ硬貨をつまんでぼんやりしながら、ふと空を見上げると、薄明の青色の中に丸く淡く霞む月のかたちがあった。もしかしたらあそこから落ちてきたのかもしれないな、そう思うと何やら愉快で、金貨を掌の上でしばらく眺めて空想を遊ばせた後、寝床の枕の下へ入れて二度寝して、月の国に遊ぶ夢を見た。

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金貨 安良巻祐介 @aramaki88

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