第2話 疑惑


下校時、シェーンが靴箱を開けると、大量のヤモリが中から飛び出した。


(今日はヤモリか……)


シェーンはヤモリが全てどこかへ行った後、「レキ」と唱え、靴と靴箱を綺麗にすると、何事もなかったかのようにぴかぴかの靴を履き歩き出した。

昨日はムカデ、一昨日はドクロ型のグミが飛び出してきていた。

8年間毎日ずっと何かが靴箱から飛び出してきているのだ。動揺するはずがない。


(よし、今日も上手くいったわね)


ニーナは物陰からその様子を見ていた。

今日も靴箱にかけた魔法は大成功である。


(……好き……)


最初は悪戯したときの彼の反応が見たかっただけであったが、好きな人にこっそり悪戯するというドキドキな感情に刺激を受けたニーナは、すっかり下校時の”靴箱イタズラ”が日課になってしまっていたのだ。


ニーナは長いブロンドの美しい髪の乱れを両手で直すと、メガネを右手でかちゃりと上げてからシェーンの後を追った。


ーその一部始終を見ていた女がいる。

ニーナと同じクラスの、マセリ・シガレットという女だ。


彼女は二年前からシェーンに恋心を抱いている。

マセリはいわゆる『可愛い系』。ニーナのように美人ではないが、クラスの男子からは庶民派アイドルのように高い人気があった。

栗色のゆるふわボブに大きくくりっとした瞳、ピンク色の薄い唇。色白で小さく華奢な体系。コンプレックスがあるとすれば、A(+)程度の胸ぐらいであった。


マセリは、前々から薄々、シェーンの身に起こる不思議な出来事の数々は、あの女がしていることなのではないかと疑っていた。

ニーナ・フローレス。

シェーンの身に何かが起こる時、彼女は何食わぬ顔をしているが、普段ニーナはシェーンの事を見ている。ずっと見つめている!そしてシェーンの居る場所の側には必ず彼女の影があるのだ!


しかし、万が一彼女がシェーンを好きだとしても、シェーンの身に起こる出来事は大概”不運”な出来事であって、とても好きな人へ贈る出来事ではない。

マセリは頭を悩ませていた。

『好き』なのではなく、『嫌い』もしくは『怨んでいる』のではないだろうか。

そうであれば辻褄が合うのだ。


悩み始めたマセリは、ニーナの後をつけるようになっていた。

しかしますます疑問は深まる一方だった。


ニーナがシェーンを見つめている時は、頬を薔薇色に染めたり、興奮したように体をねじったり、息遣いが荒くなったり、近くの木を抱きしめたりしているのである。まるで発情した雌猫のようになっているのである!


そして今まさに、ニーナが下駄箱の中にヤモリが出る魔法を仕込んだ決定的瞬間を目撃したマセリはますます混乱し、更に悩みの渦の中へ飲み込まれていった。


マセリは、ニーナというミステリーを解くまで彼女への尾行は止めない。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛の魔法を、あなたにぶっかけたい 美シ @apotter33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ