第1話 愛しいS



素敵素敵素敵素敵素敵……


ニーナ・フローレスは席替えでは常に一番後ろの席をキープしていた。

愛しいS……シェーン・シアーズがどこの席になろうとも、見つめることができるようにだ。彼は今、ニーナの二つ前、そして一つ左の、窓際の席にいる。

シェーンの、太陽の光が当たると青く見える髪の毛を見て、ニーナはうっとりしていた所だった。


恐ろしいサリー先生の授業中に、だ。

サリー先生はもっぱら評判の恐い先生だ。

女子には『ラスボス』と呼ばれ、男子には『おっぱい』と呼ばれていた。バカみたいにデカいからだ。


そんなサリー先生が、


「シェーンくん、それではやってみなさい」


と言った。

授業が始まると共に皆に配られた一枚の葉を、虫や小動物に変えるという呪文を勉強中だったのだ。


サリー先生のその一言によりニーナの耳はぴくりと動き、


「……はい」


と言って、シェーンが杖を構えたその姿を捉えた瞬間、


「べサムマーチョ」

「べサムマーチョ」


シェーンの放った呪文と同時に、ニーナも呪文を放った!


ニーナの呪文は自分の机の上の葉……ではなく、シェーンの机の上の葉に届き、なんと葉っぱがむくむくと姿を変えたと思ったら、体がカエルで顔がハムスターの生き物が出来上がってしまい、それは大きく飛び跳ねて、サリー先生のおっぱいの上に飛び乗ってしまった。


サリー先生は、

「……ひっ!」

と言った後、

「きゃあああぁぁぁ!!!」


と叫んで、黒板にぶつかり、その場に倒れてしまった。


女子は『やった』と思ってクスクス笑ったが、男子は『やっべぇ』と顔を赤くして股間を押さえた。


しかしシェーンは顔色一つ変えずに、一つ小さな溜息をついた。


犯人はわかっているのだ。


後ろの方で、凄い剣幕で自分を睨んでいる女の嫌がらせだと……。


(子供のころメス豚って言ったのを8年も根にもつなんて……)


そう、シェーンは思っていた。

いつものニーナの嫌がらせだということを。

そして、八年間続いたこの嫌がらせは、子供の頃、『愚鈍で愚かなメス豚め』と言ったせいなのだと。


溜息をついたシェーンは、頬杖をついて窓の外を見た。


そしてその時、ニーナは思っていたのだ。


(……またやってしまったわ……あなたの後姿が素敵すぎて、青く透ける髪の毛が美しすぎて、ついついやってしまった……あなたの事だから、美しい蝶やてんとう虫に変えるかと思いきや、ハムスター!ハムスターに変えるなんて!可愛い、なんってかあわいいのおぉぉぉ!!そんな事では女子のファンがますます増えてしまう、そんなの私には耐えられないわ!!だから醜いカエルに変えてあげたのよ……さあ、こんなことした奴は誰だ、そこのメス豚か!って私の方を振り返り、存分に罵りなさいな!!)


シェーンの冷静な心とは裏腹に、今日もニーナは熱くSを愛するのだった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る