-詩菟- 鐵弓の吟遊詩人 第一章一節 冒険者のお姉さん

グランデリル大公街の城門の入り口まであと少し

ヨタヨタと歩く駝鳥馬に僕とアデーレは揺られている。

彼女はご機嫌けど僕は不機嫌だ。


アデーレの言う朝の儀式を回避するための交換条件が原因で結果的に

麻生袋に収まることもなく指定席の荷台でもなく駝鳥馬の鞍、

つまり僕の後ろに座り

肩越しに「良い匂いですこと。若い雄の匂いですわよ。若旦那。クク」と

嬉しそうに微笑んでいる。


まったく困ったなぁ。

雄としての朝の体は正直なんだもの。

それに目を付けたアデーレはほくそ笑みながら紅い舌を伸ばし

「さ!若旦那様。朝ですよ。朝。ほらもうお体は正直ですね」と

迫って来たんだ。

夜伽の一件と同じようにすったもんだの言い合いの末。アデーレは僕の後ろに

座る権利を獲得したと言う訳だ。僕の体の馬鹿。大馬鹿野郎・・・。


しかし、この災難から身を守る方法を僕は思いついた。


アデーレを売ればいい。

正確にはアデーレを小さい金に換金すれば良いんだ。

これで僕はこの災難から身を守ることが出来る。

昨日から一緒にいるアデーレには悪いけども。

僕はアデーレの世話とか欲求を満たす事なんか絶対無理だ。

そういうことがちゃんと出来る人の側にいた方がきっと彼女も幸せに違いない

少しだけ心が痛むけど僕は彼女の側にはいられない。


雑踏がひしめくグランデリル大公街の中で大きめの隷属宿を探して入る。

新しい通貨を手に入れたら一度は訪れるべき所だ。

前の持ち主が通貨の手入れとかを怠っていた場合、

一度此処で通貨としてのハルキズ族を休ませて手入れをするべきだからだ。


店の主人にアデーレを引き渡すとき彼女は寂しそうに長い舌で

僕の頬を暫く舐めていた。少し罪悪感が胸の中に渦巻いてしまう。


「随分好かれているようですな。若いお方。」と壮年の背が高い主人が

声を掛けてきた。

「そうなんですか?僕はこう言うの初めてでよく分からないですよね」

「なるほど。それでもああやって持ち主の頬を舐めると言うのは大きい金のほうも

かなり気に入ってるということですな。所でどうなさいますか?

このまま直ぐ換金しても当店は構いませんが・・少し手入れをしたほうが価値があまりますよ?」


最初はこのまま此処で換金してアデーレとはお別れするつもりだった。

そのほうが正直楽だし彼女の為になるだろう。

少しは寂しいかもしれないけど直ぐに新しい持ち主が見つかるだろうし

そうなれば僕の事なんか忘れるだろう。

それでも少し心が痛んだ。


「あ・・あの。じゃあ 手入れもお願いします。意外な言葉が口から出ていた。

「解りました。三日ほど時間を頂く事になりますね。手入れの料金は・・・。」

主人が提示した金額は少し大きかった。それでも僕の手は勝手に動いて

金貨2枚を主人に手渡していた。


さて、これで路銀が危なくなった。少し後悔したけども何とかなるとも思う。

それに少なくても今日でアデーレともお別れと言う訳でもなく

あと一度くらいは顔を見ることが出来るはずだし。

何となくこれが魔性の蛇通貨の魅力なんだろうかと思っていたら

ドンと衝撃があった。誰かとぶつかってしまったらしい


慌てて

「すいません。ごめんなさい。僕・・」

「すいません。ごめんなさい。私・・」

とぶつかったもの同士で同時に謝る。

「あれ?」

「クス。ごめんなさいな 私急いでいるので・・」

そう言って少女は身を翻し歩き出してしまう。

白法衣をきてるところをみると旅の治療士かもしれない。

急いでいるという割には妙にゆっくりな足取りだった。

何かに気に掛かることでもあるかのように治療混を地面に打ち付けながら

ゆっくりと歩いていく少女の姿は僕の心に何かを刻み込んだ


「かわいい子だったなぁ〜。」とほくそ笑んだ途端に

背中にゾクッと戦慄が走る。アデーレの長い舌が背中で蠢いた感じさえする。

「浮気は許しませんよ。若旦那様」そんな声が確かに聞こえた。

恐るべし舌蛇族。どこかで僕を見張っているのかしら?

思わずきょろきょろと当たりを見回してしまった。


吟遊詩人が大きな街で詠う時は事前に許可を得る必要がある

吟遊詩人が商売として観客の前で詠いお駄賃を得る以上それは商売となり

縄張り争いとかの無用なもめ事を避けるためだ

それらの許可は大抵の場合詩人組合か冒険者ギルドの扱い事となっている。


僕は比較的大きな冒険者ギルドを選んだ。

特に大きな理由があったと言うのではない

偶々目に入ったギルドの看板の印が何故かかっこいい物に見えたからだ。

しかし、あとから考えてみるとこの選択は大きな間違いだったと思う

小さな体を持つ詩菟族の若者はうかつに冒険者ギルドなんかに入るべきでは

んだ。僕は後に大きく後悔する事になる。


冒険者ギルドの中は雑踏とした雰囲気の中に殺気さえ入り交じっていた。

なんか妙に騒がしい感じがする。何かもめ事の際中みたいな騒ぎだ。

奥にある受付カウンターへ辿り付くまでには喧々諤々に騒ぎ立てる

冒険者達の間を縫って通り過ぎて行かなければならない。

僕はなるべく目立たないように

背を丸め猫脚でそろそろと人にぶつからないように歩いていく。

出来る事なら変な騒ぎに巻き込まれたくはないし

なにせ、小柄で華奢な可愛い詩菟族ですから。


詩人専用受付カウンターまで半分までの大きな太柱の所までくると

行き成り首根っこのフードを掴まれ体が宙に浮いた。


「ちょっと。この子が良いんじゃない?ちょうど良いかも」

見ると亜人の中でも一際大きな女性が僕の体を片手でがっしり掴んで

空中に持ち上げてる。

「アワワ。何ですか行き成り。お、下ろしてくださいよぉ〜」と僕

その様子を楽しそうな笑顔でじっと見つめる屈強な戦士風の女性

多分、大鹿熊族だろう。一度彼等の腕に捕まったら逃げられない。

「うんうん。やっぱりちょうど良いわね。」と彼女は自分一人で納得しつつ

掴んだ手を少し揺らす。それにともない僕の体は激しく揺れる


「アワワ・・目が回る。止めてくださいよぉ〜」

「うむ。大きさもちょうど良いし。可愛い子ね・・そそるわね」

と大熊族の女性は掴んだ腕を少し下げて僕の顔を覗きこむ

褐色の肌に戦士らしい凜とした顔立ち、しかしその中にも

大人の女性の雰囲気がある

顔を近づけられて覗きこまれると僕の顔は真っ赤に染まった。


「きゃ。可愛いじゃん。カ・ワ・イ・イ」と取り巻きの妖精種の女性が言う。

「おいおい。カワイイとか言う事じゃないだろ。問題は大きさだしよ」

今度は半分怒ったような声で盗賊風の男が言い放つ。

「可愛いと言うのは私も同意しますが。それ以上にちょうどいい体の

大きさであるのも事実だと激しく同意します。」と涼やかな声で

別の女性が宣言する

「オイオイ、またそれかよ。これだから女共は・・」盗賊がぼやく。

その間僕の体は大鹿熊族のお姉さんに首根っこをがっしり掴まれ

空中で小さな体をぶらぶらと揺らしていた。

まるで人間に捕まってしまい耳を掴まれて身動き出来ない菟その物だった。


「おい。お坊。暇だろ?」と大鹿熊の女性が問う

「いえ。暇と言う訳でもありませんです。ハイ」

「暇だよね。暇よね。僕ぅ」と妖精種の女性が僕のお腹を突く

「いや。だからですね。僕は吟遊詩人でして、決して冒険者では・・・・」

「こんな時間にギルドに来るなんて暇で時間を持て余してると言う事ですね

確かに吟遊詩人のようですが。背に抱えてるのは弓琴です。

戦う事もいとわない。つまりは冒険業もこなすとそれが証明しておりますね」

と涼しげで凜とした声の女性が割り込んで来てしまい。

僕の言葉はかき消された。

「つまり。決定事項だな」と盗賊の一言に

うむ。このお坊がいい。可愛いしね。オッケー。適任で御座いましょう

と三人の女性が激しく首を縦に振り、僕は大鹿熊族のお姉さんに抱えられて

彼らの冒険馬車に詰め込まれた。。


こうして約三日間、そして何回も僕は悲鳴を上げる事になる洞窟調査の仕事に

従事させられる事になる。道中吟遊詩人ですから冒険者じゃないんですと

涙目で訴えてもそれは許してもらえなかった。


無理矢理洞窟探検の仕事に投げ込まれた哀れな詩菟だというのに

あまり多くのことは説明してくれなかった。

冒険馬車の中は質素な作りで狭い。大鹿熊の女性はクルミナと名乗り

何処か悲痛な陰りを顔に張り付かせたまま馬車壁に背を持たれ

腕を組み両脚を投げだしてる。その対面で僕は膝を抱えて身を丸めてる

駝鳥馬をむち打つのは盗賊の男と妖精種の女性

ダムリンとモランダ。絶えず軽口を言い合い笑いが絶えない。


「まったくこんな時だって言うのに」苦言を漏らすクルミナに

もう一人の女性も頷く

「ええ。そうですね。彼らは状況の把握に無頓着過ぎるのです。

容認出来ることではありませんね。正直少しご遠慮願いたいかと」と

首を振り同意する。

彼女は馬車に乗ってからずっど胡座をかいて座り膝の上に手を置いてる

時折、手を動かし印を組んでは又膝の上に置く。瞳をずっととしているし

一種の瞑想らしい。

暫く横目で観察している内に彼女の種族は輪廻種だろうと推測出来る。


輪廻種はハンギス族と同じように独特の思想をもつ種族だ。

独自の宗教を信じ、その布教のために女性は僧として世界を旅する

禁欲を常とするが種としての生存のために繁殖期のみそれを行う

但し普段の禁欲が祟り行為は激しく何日も続く事もあるらしい。

女性が僧として布教の度に出る代わりに男性は里や街で家事・料理などの世話を

一切に引き受ける。特に彼らが作り出す料理は一品で貴族などの美食家達に

とって御用達の物となっているらしい。

蛇肉の塊さえも優雅な柔菓子と姿を変えると言われている。


特徴的なのはその思想原理だ。

生き物は全て死を経て巡りいずれは天に帰る。

しかしその後再び新しい命と体の前に

一度輪廻種の仮命を授かりその一生の間に何を見て失い得るのか

その得た物失った物見た物を糧として新しいよりよい心と体を得る為に

仮命としての輪廻種として生きている。

と言うのが彼らの考え方となる。彼らの宗教では人生とは一度きりではなく

止めどなく繋がり巡る命の旅ということらしい。

正直僕にとっては難しいし今は自分が置かれた状況に甘んじるしかないのが

少し悔しかった。


「それはそうと シュルリラ?一応、お坊にも話しておいた方がいいんじゃないのかい?」とぼそっとクルミナが言い放つ。


「これは失礼しました。お若い詩菟族の御人様。

我らは冒険業を営んでいるのですが

先日の探索の時に無様にも罠に掛かりましてね。

仲間を置き去りにせざる終えなかったのです

我らもそれなりに傷を負う事になり一度戻って体制を立て直す必要が

あったのです

しかし洞窟内には別の問題もありまして。無理を言うのは重々承知で

御座いますが御人様の力を少し我らにお貸し下さい。」と深々と頭をさげる

そういうことなら解りました。と答える。覚悟をきめるのは良いけど

たかが詩菟一匹に本格的な冒険でなにが出来るのだろうとも思う。


冒険者ギルド内での雑踏としたやり取りが嘘に思えるほど冒険馬車の中は静まりかえっている

それは思った以上に自体が深刻な事を示していた。

シュルリラが言った仲間を置き去りしてしまったと言うのは実は

それだけではなかった。

勿論シュルリラの一党の仲間。つまりリーダー格の一人もその中にいるが

その他にもいるらしい。大きな怪物を退治しようとして何組かの一党で挑んだものの返り討ちにあい分断されてしまったと言う。

リーダーを含む片方が怪物を引きつけてる間にシュルリラ達は何とか逃げ切り


体勢を立て直して残った冒険者の救出に向かうと言う事だ。


第一の試練

それはクルミナ達に連れられて洞窟を半日進んだところで僕に降りかかってきた。

「お坊。出番だよ」とクルミナ姉さんが僕の方を見る。

「えっと?出番って・・。」と小首を傾げると。

その隙にシュルリラさんが少し大きめの盾を僕の背中に取り付けてる

「えっと僕、盾とか使った事ないですけど」

「大丈夫。別に戦うわけじゃない。開くまでも安全確保の為だよ」とクルミナが笑う。

「まぁ、何とかなるだろうよ。ほれ。目的の場所はアレだ。小僧」盗賊のダムリンが

指さした場所は道の少し先にある岩壁だ。どうやら洞窟から逃げ出すときに

思わぬ崩落が起きて先をふさいでしまったらしい。よく見ると少し高い所に

穴がある。なるほど僕くらいの小さな体の物なら入り込めそうだ。

「風音がしますのでね。あの穴はちゃんと向こう側に通じてるのは

確認済みですよ」

盾を背中に付けたあともなにがゴソゴソしてるシュルリラさんが言う。


「まぁ。何とか頑張っておくれよ。お坊。」と他人事のようにクルミナ姉さんが言ったかと思うと僕の体をひょいと持ち上げてお尻を押して穴に押し込む

「ひゃっ。何処触ってるですか・・ちょっと。困りますってば。

クルミナさんってばぁ」

役得とばかりにニコニコと笑いつつもお構いなくサワサワと

僕のお尻を触ってくる

「クルミナ。ちょっと触りすぎですよ。羨ましいですね。」と物欲しそうに

僕のお尻に熱い目線を送るシュルリラさん。

「ちょっとぉ。このセクハラ冒険者軍団めぇ」僕の文句さえ酒のつまみに

しそうな冒険者の高笑い聞きながらも何とか穴を抜ける事が出来た。

ひょいと飛び降りて壁の反対側の向こうの冒険者に声をかける。


「それで次はどうすれば良いんですかぁ〜〜皆さぁ〜〜ん?」

「次はぁ〜盾の裏側に包みがあるだろぉ?それを適当な穴に詰めておくれぇ〜」

とクルミナ姉さんの大きな声が帰ってくる。

確かに盾の裏側には幾つか四角い包みがあった。その包みにはなんか紙紐が

グルグルとまいてあった。何気に紙紐をほどきつつ岩穴に詰めていく

数分後詰め終わる頃にまた声が飛んでくる


「お坊。それが終わったらさぁ〜〜包みから出てる紙紐があるだろ?

それを束ねて一本にするんだよぉ」クルミナ姉さんの声は良く通る。

なるほど。包みから出てる紙紐をこよりみたいして一本にするっと

元々何かを作ると言うのは好きな方だ。

剣や短剣を振り回すのよりよっぽど楽しい

機会があったら精霊人形の工房でも覗いてみたいな。

そんな事を考えているとまた声が飛んでくる。


「お坊?終わったかい?それが済んだら纏めた紙紐のに火を付けるんだ。

それとさっきの盾にちゃんと隠れてから火をつけるんだよぉぉ」


「え?火を付ける?」そこで僕の手はピタっと止まった。

盾に身を隠してから紐に火を付ける?あれ?あれ?これってもしかして・・

「こ・・これって。も。もしかして火薬包箱じゃないですか!!」

「そうだよぉ〜〜準備出来たらちゃちゃっとやっとくれぇ」


さっきからクルミナ姉さんのしか帰ってこない訳がやっと分かった。

彼女の声は良く通る。他のみんなはもっと後ろまで距離を取って

避難しているのだ。

よく考えてみると状況はこうなる。洞窟の通り道に崩落があり

思いもしない所に岩壁が出来てしまった。その穴を抜けられるのは

小柄の体を持つ詩菟くらいだ。つまり僕一人

目の前にはそれとは知らずも自分で穴に詰め込んだ火薬包箱。

その導火線を束にしたものを握りしめてる。


ウハつ。これは騙されたかも・・・。と思ったけどこちら側には

僕一人しかいないし逃げられるとか誰かが変わってくれると言う事もない。

ましてやおそらくは一刻も争う事態のはずだ。

グズグズとしても文句を言っても状況は変わらない。

となればやるしかない。僕は覚悟を決めるしかなかった。


クルミナ姉さんの馬鹿。意地悪。今度なんか悪戯してやる

呪詛のように悪口を繰り替えしながらも盾の後ろに隠れる

そこにはご丁寧な事に火付け棒まで貼り付けてあった。


「お坊?なんか言ったかい?文句は男らしく堂々と相手の前でいうものだよぉ?

それよりはやくやっておくれぇ〜。みんな待ってるんだよぉぉ〜」

「なんでもないでぇす。いきまっすよぉぉ」クルミナ姉さんの地獄耳に驚き

女性の悪口は言うものじゃないなと思いつつ導火線に火を付ける。


思いの外導火線が短いの気になってシュウシュウと音を立てて燃えていく

導火線から出来るだけ離れて岩肌に身を押しつけて盾の後ろに身を

丸めて隠れる。それから一瞬遅れて


ドッカァ〜ンと轟音が響き。

その音で僕は気絶した。


随分と時間が経ってから僕は気が付いた。

けれど頭はガンガンと痛い。周りの状況も良くは解らなかった。

「だけど。このお坊なかなかやるじゃないか。ちっちゃいくせに

やっぱり男って事だね」

「対した事じゃないだろ?こんなの誰でも出来るさ。俺だって穴に入る事さえ

出来てればさっくりとこなせるぜ。こんな仕事」ダムリンが面倒くさそうに言う

「そもそも穴に体がはいらないのですから。爆破出来る出来ないの前に役立たずと言う事になりますよ?

この御人様は、突然巻き込まれたにも関わらず、きちんと仕事を

こなしてくれました。勇気と行動力に我々は深く感謝するべきですよ。」

そんな会話が何となく漏れ聞こえて来たけど今だ頭は痛いままだった。


柔らかく軽くウェーブが掛かった髪先が鼻先をくすぐる。

「うにゅ。くっ。クシュン」甘い香りで目が覚めた。

「お坊。目を覚ましたか。元気で何よりだな。

で?シュルリラの背の乗り心地はどうだ?

シュルリラはこう見えても中々豊満な体をしているんだぞっ」と

クルミナ姉さんが僕の顔をのぞき込む。

「えっ。え?」言われた言葉に驚いて周りを見ると、何と僕はシュルリラさんにしっかりとおんぶされていた。「アワワ。お、下ります。じ、自分で歩きます。

シュルリラさん」

慌ててもがいたが直ぐに両脚を腕でがっしり挟まれて身動きが取れなくなる

「まずは回復したご様子。良きことですね。しかしそう簡単には下ろして

上げませんよ御人様。なにせ私達の恩人で御座います。これ位のご褒美はあって

当然で御座いましょう」

そんな事より気絶して目が覚めたら女性におんぶして貰ってるなんて

超恥ずかしいんですけど

「お、お坊。顔だ真っ赤だぞ。ん?どうした。

色々と元気になってるじゃないか?」

とクルミナ姉さんが僕の頭を掴んでワシャワシャしてくる。

「そんな事ないです!って何処が色々元気になるですかぁ〜?」

「知ってるくせにぃ〜〜。このむっつりスケベ。」と妖精種の少女がからかう。

もう、恥ずかしくて直ぐに下りたかったけども輪廻種のお姉さんは

腕でがっちりと僕の脚を固定してるために僕はシュルリラさんの背の上で

揺られているしかなかった。彼女の綺麗な髪にちょっと惹かれているのは

黙っておくべきだろうなぁと頭の中で思う。


ダムリンは不機嫌だった。

あの小僧ムカつく。

事が事だけに思い通りには行かないのはわかる。

リーダーをおいてきてしまったのは自分の責任だろう。状況はどうあれ

怖くなってしまい。一番先に逃げ出してしまったのは自分だ。

しかも逃げた先にちょうど宝箱があったんだ。それでつい中身を

あさってもいた。

案の情中身は結構いい品物が入っていた。これを売れば良い金にもなる。

しかしこれは御法度もんだ。一党で動くときは得た利益は均等に分ける決まりになっている。

当然ダムリンは黙っているつもりだ。ばれなきゃいいんだよ。こんなもん

それにしてもあの小僧。嫌な野郎だ。軽々しくシュルリラの背に乗りやがって。

この一党の男性はダムリンだけだった。長く一緒に戦いもすれば情も沸くと

ダムリンは知っていた。今は妖精種の小娘を手込めにしてるが

本当の狙いはシュルリラだ。あの女の体はそそる。お堅い思想とやらに

染まっているが・・いずれは・・。

それにしても気にくわない。直ぐに機会を見つけて締めてやる。


第二の試練

シュルリラさんの背中で何とか理性を保っていると彼女の手が緩んだ

それが合図なんだなと思い。するっと抜け出すと意外にも彼女は黙って

それを許すしかし直ぐその理由が分かった。

「あれって・・・・。」

「ふむ。お坊。出番だな。」

「へ?」

進むべき道のその目の前に穴がある。

いやそれは溝といってもいい。亀裂というのだろうか?

地面に大きな亀裂があった。それは対岸までの結構な距離もあった。

弓で射って縄を掛けるにも対岸も岩壁だ。杭を先端に付けても

刺さりはしないかもしれない。それが抜けたら意味もない。

危険だ。菟耳がピンと立って危険を教えてくる。


どうやって此処を進むんだろうとおもってると

シュルリラさんが肘を突き腕をあげろと促す。

次いでに肩に鞄をかけさせられる。それが終わるとやたら長いロープの先を

足首にしっかりと結ばれた。

「準備出来ましたよ。クルミナ。何時でもいいです。」

足首のロープを確認しながらシュルリラさんが言う。


「え?準備ってなんですか?また僕ですか? ちょっ。」

最後まで言わせてももらえずクルミナ姉さんが僕の首根っこをむんずと掴んだかとおもうとグイと体を後ろに引き構える。


「うぁっ。投げるの?僕を投げるの?ちょっとそれは大胆すぎます

待って。まってぇ〜〜投げちゃだめぇ〜〜〜」僕の悲鳴なんて完全無視だ

「行ってらしゃいまし。菟の御人様」冷酷に笑うシュルリラさん。


「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」僕の悲鳴が響く

それにも構わずクルミナ姉さんが「フンっ」と唸ると

剛力と剛風が放たれた。


大鹿熊族の腕が一閃。


「あれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「助けてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


詩菟族の可憐な天女の声にも匹敵すると言う可憐な声は

この時ばかりはやたらただ高音の悲鳴でしかなかった。


「ぶつかるぅぅぅぅぅぅ!!ぶつかっちゃうぅぅぅ!!」

大鹿熊族の一閃でさえ、この溝を越えるのには少しだけ力及ばず

僕の体は少し対岸には届かず。代わりにゴツゴツとした岩肌が迫る


「ぷぎゅっ」

ドスンと鈍い音と衝撃が体にぶつかる。

「むぎゅっ」「ぐへっ」立て続けに苦悶の悲鳴があがるが

僕の右手が辛うじて岩のでっばりを掴む

生存への執着だろう。男の子の意地とも言う。

格好は悪いけど何とか岩壁に張り付いてる詩菟一匹。

それを観て対岸では怒濤の歓声が上がる。


ちょ。ちょっといい加減いしてください。

大体、ちょうど良いってこの事だったのね

こんな大きな溝を越えるにはいくらこうするしかないって言ったって

何も生きてる詩菟を投げることないじゃない。グスン。

お姉さん達の馬鹿。意地悪。セクハラ冒険者め。

蛇肉の串焼きを所望します。4本。いや5本はゆずれません!


「お〜〜〜〜〜〜い。お坊。見事な張り付きだったけどぉぉ〜〜

さっさと杭うっておくれぇ〜〜〜。あとで蛇肉の串焼き買って上げるからぁ〜」

「五本ですからね!五本。出なきゃやだもん」

涙目で報酬の催促をする僕に。

かわいい〜〜と現金な奴だとか・・他人事のように答えが返ってくる

そんな事言ったてロープに括り付けられて放り投げられる詩菟の身にもなってください。

グスン。もうイヤ。


体に付いた汚れをパンパンと手で払い

持たされた鞄から組み立て式の杭柱を二本取りだし岩床に打ち込む

それに自分に括り付けられていたロープをきっちりと結ぶ

もう一本の杭には自分で弓琴を放ち対岸に届いたら手元をそれを結び付ける

こうして渡り用と命綱の両方のロープがきちんと張られ安全が確保された


大鹿熊族のお姉さんの詩菟をただ岩肌に投げつけると言う単純な作戦の

おかげで冒険者一行は無事溝を越えることが出来た。

やっと全員が渡り終えた対岸で

僕はお姉さん達にくどくどと文句を言い。

それを可愛い奴だとクルミナ姉さんは意にかえさずも

僕の頭をワシャワシャしていた。

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-詩菟- 鐵弓の吟遊詩人 天鼠蛭姫 @tensohiruhime

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