スマホに閉じ込められた男

ちびまるフォイ

狭い監獄と広い監獄

ガラスの向こうには外の世界が見えた。


「うそだろ……俺、スマホの中に入ってる!?」


目が覚めると、俺の体は使い慣れていたスマホの中に閉じ込められていた。

ガラスの向こうには見覚えのある天井が見える。


なんとかして脱出しようと、内側からディスプレイを叩くがヒビすら入らない。


「ダメだ、とても割れそうにない……」


スマホの中にあるメッセージアプリを立ち上げると、

すぐに友達にSOS連絡をした。


>スマホに閉じ込められた? 冗談にしては3流だな


「疑ってくれていいから、とにかく俺の部屋に来てくれ!」


>嫌だよ、気持ち悪い。それにこれから用事あるし


「えええ……」


こんなトンデモ設定な状況を理解できる人はいない。

画像を送れば説得力も出るはずだが、あいにくカメラは外向きだ。

スクショを撮ろうにもボタンは外にあるから押せない。


スマホ内部の機能にはアクセスできるので、

インターネットを開いて今の自分の状況を伝えて助けを求める。



ベストアンサー:病院へ行きましょう。



「ちくしょう! 誰も相手にしてくれない!」


友達すら半信半疑なのに、ネットにいる見ず知らずの人が助けるはずもない。

バッテリーが尽きてしまえば、もうどうすることもできなくなる。


早くなんとかしなければ……。


「そうだ! 電話だ! 電話なら外につながって脱出できるかも!」


誰かに電話をかければ、その電波にのって外に出られるかも知れない。

スマホにある電話帳からさっきの友達の連絡先を見つけて電話をかける。


「もしもし?」


つながった!

スマホ内部には向こうへの電話をつなぐ光の回線が広がる。


「よし、ここを抜ければ!」


相手が無言電話を切る前に回線に飛び込む。

通路を抜けた先には、ふたたびスマホの内部に到着した。


「あ、あれ……!? 戻っちゃった?」


周りを見渡してみると、似ているようでアプリの配置などが異なる。

自分が電話に乗ってただ別のスマホに移動しただけだった。


「くそ……通話で外に出られると思ったのに」


現在位置を確かめようと、ガラスの向こうに広がる世界を確かめる。

清潔感があり他にもたくさんのスマホが並んでいる。ここは……。


「ケータイショップかよ!?」


用事があるってまさか機種変だったのか。

ガラスの向こうで手続きを進めている友達に必死に訴えかけるが

スマホそのものの音量がゼロにされているので気づかない。


「まずい、まずいぞ……機種変されたらスマホは廃棄される。

 そうなったら、このスマホが俺の棺桶になってしまう!」


嫌な汗がじっとりと流れてくる。

内蔵マイクに耳をくっつけてなんとか外の音を拾おうとする。


『機種変更ですね、かしこまりました。

 使っていた昔のスマホはいかがしますか?』


『廃棄で』

『かしこまりました、廃棄しておきます』


「ひえええ! やばい! 完全に機種変される流れだ!」


『アプリの引き継ぎなどは行いますか?』

『あ、忘れてました』


『こちらで行いますか?』

『いえ、自分でやっておきます』


友達は自分のスマホを手にとった。ここしかチャンスはない。

必死にアピールしようと思ったが電源つけるなり、液晶にはゲーム画面が表示される。


表面にゲーム画面が映し出されるので、内部の俺は見えなくなってしまった。


「おおーーい! ここだ!! ここにいるよーー!!」


必死に声を出しても反応はない。

各アプリの引き継ぎが終わったら、廃棄まっしぐら。


追い詰められた脳裏にアイデアが浮かんだ。


「あ、アンインストールされれば、出られるかもしれない……」


これは賭けだった。

スマホから外に出る手段はアンインストールしか思いつかない。

でも、アンインストールされれば俺そのものが消えるかもしれない。


しかし、いずれにせよモタモタしていれば廃棄されてしまう。


「こうなったら、なんとしてでもアンインストールさせてやる!」


わざとアプリを立ち上げまくって、負荷を高くする。

バッテリーをちぎって口に放り込みバッテリー残量を食い減らしていく。


みるみる減っていくバッテリーを見て友達は焦ったのか

設定画面を開いたことが内部からもわかる。


ここで手を緩めるわけにはいかない。


すぐに消したくなるように大量のプッシュ通知を送りまくる。


「さぁ、早く俺をアンインストールするんだ!」


画面の向こうに見える友達の指がついにアプリ一覧へと動いた。

わざとアプリの順序を変えるなどして、消しやすくさせる。


「なんだこれ? ウイルスか?」


「かかった!!!」


友達の指はついにアプリ一覧の俺の部分で止まった。


アンインストールがタップされると体が足先から透明になっていく。


「お願いです! スマホから脱出させてください」


その日初めて神様をアテにした。


 ・

 ・

 ・


目を覚ますとそこはもうスマホの中から脱出したあとだった。


「やった! やったぞ! ついにスマホから脱出できたんだ!」


アンインストールされたことでスマホからは排除されていた。

スマホ脱出作戦は成功していた。


「あれ……?」


周りを見回すと、見覚えのある景色が広がっていた。

そして再び出ることができなくなっていた。



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アプリ:俺


無料:APP課金がありません。


評価とレビュー:1/5


★☆☆☆☆

なにこれ byタコ助

インストール拒否されるし何だこのゲーム。


★☆☆☆☆

意味不明 byナッツ

アプリのアイコンが動いた気がします。

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