第16話 決着

 シストとルビーは再び元の位置に戻ってきてしまった。ニコルを守るように背中合わせになって、クラウスとエルダに対峙する。その二人は勝利を確信しているのか、なかなか攻撃を仕掛けてこようとしない。



「ちょっと、てこずっているみたいじゃない。大丈夫なの?」


「大丈夫です。と言いたいところですけど、なかなか厳しいですね。そちらこそ、決め手に欠けているようですが」


「なんてことはないわよ。でも、代わってほしいのなら、代わってあげるけど?」


「そうですね。ぜひともお願いしたいものです。ですので……」



 シストとルビーはアイコンタクトを取り合った。視線が交差し、意思が交わる。旅を続け、シストとルビーは言葉を交わさなくとも相手の考えがわかるほどの信頼関係を築いていた。


 シストとルビーが同時に頷く。



「全力で突撃するわ!」


「全力で突撃します!」



 シストはクラウスに、ルビーはエルダに再び突進していった。先ほどまでと何も変わらない。作戦など微塵も感じられない行動だった。



「馬鹿ね」


「馬鹿が」



 エルダは再び火の玉を放った。さすがに今度はルビーもわかっているらしく、火の玉を弾くのではなく、身をひねって回避した。左右に飛び跳ねながら、エルダに近づいていく。そして、ルビーの剣がエルダに届く距離まで接近した。



「今度こそ!」


「残念、無駄よ。【賢者の盾】」



 エルダは魔法の盾を出現させ、ルビーの剣を防いだ。ルビーの短剣は魔法の盾に突き刺さったが、破ることはできなかった。渾身の一撃も、エルダの盾を破壊するには至らなかったのだ。


 そのころ、シストもクラウスと戦闘していた。しかし、こちらは防戦一方だ。クラウスが繰り出す乱撃を、何とかかわしているにすぎない。



「どうした。攻撃をしてこなければ、俺は倒せないぞ。それとも、もうあきらめたか」


「とっくにあきらめていますよ。僕では、あなたを倒せません」


「ほう。なかなか物分かりがいいじゃないか。では、降参するのだな?」


「降参は、しませんよ」


「何?」



 次の瞬間、シストは突如としてクラウスから背を向けて走り出した。同時に、ルビーもエルダから逃げるように走り出す。



「逃げる気!?」


「逃げる気か!」



 エルダは魔法の盾の横から火の玉を発射した。その火の玉はルビーに迫ったが、寸前のところで弾かれた。弾いたのは、シストのグローブであった。


 白い毒の粉がまき散らされる。しかし、シストは息を止めて弾いたらしく、問題はなかった。解毒魔法も自身にかけていたらしく、対策は万全だろう。



「選手交代かしら?」


「その通りです」



 シストはエルダに接近する。だが、その前にはルビーですら破れなかった魔法の盾が行く手を阻んだ。まだルビーの短剣は魔法の盾に刺さったままだ。



「剣ですら無理だったのよ。その拳で、この魔法の盾が破れるかしら?」


「……破る必要は、ありませんよ」



 シストは魔法の盾に突き刺さったままのルビーの短剣に足をかけた。その瞬間、エルダの表情が一変する。



「まさか!」



 エルダは咄嗟に魔法の盾を消そうとしたが、遅かった。魔法の盾が消え、ルビーの短剣が地面に落ちたときには、すでにシストは高く飛び上がり、エルダの後方に着地していたのだ。シストは完全にエルダの虚を突いた。



「くっ。【賢者の……】」


「させません!」



 シストの拳がエルダの鳩尾を貫く。エルダは悶絶し、顎を突き出すように前かがみになった。そこに、シストの拳が加わる。


 シストの拳はエルダの顎を砕き、脳を揺さぶった。エルダの意識は一瞬で刈り取られ、地に伏した。


 魔術師エルダは、もう起き上がれないだろう。



「エルダ!」



 それを見ていたクラウスはすぐに駆け寄ろうとした。しかし、その前には長剣一本を構えて突進してくるルビーがいた。狭い通路。無視するわけにもいかない。



「あんたの相手は、この私よ」


「邪魔だ、小娘!」



 クラウスの剣がルビーの首筋に迫った。しかし、ルビーはその剣を金色の前髪に触らせただけで回避し、その回避行動の延長でクラウスの側面を奪う。


 ルビーの顔が、憤怒の表情に変わった。



「小娘って、言うなぁぁぁ!」



 ルビーの剣が跳ね上がった。甲冑を裂き、内側にあった鉄の防具も破った。そして、クラウスの右腕が宙を舞う。傷口からは滝のように血があふれ出した。



「ぐわぁぁぁ」



 クラウスはあまりの激痛に意識を失う。その場に倒れ伏し、大きな血だまりを作っていった。



「クラウス様とエルダ様がやられた。ここはもうダメだ、みんな逃げろぉぉぉ」



 幹部二人がやられたのを見て、周りで見ていた部下たちは我先にと逃げ出した。あの二人が敵わなかったのだ。自分たちが敵うわけがない。そう思っても仕方がないだろう。


 こうして、クラウスとエルダの率いる革命組織『ウォルティ』のアジトは壊滅したのだった。

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