第15話 革命の騎士
ルビーがエルダと戦っていたころ、シストは革命組織ウォルティの幹部であるクラウスと対峙していた。鉄鋼を仕込んだグローブを装備し、いつでも戦闘行動ができるように体勢を維持している。
「あなたのその恰好、騎士のようですが、シャムス王国の騎士団とは何か関係があるのですか?」
「ん、これか?」
クラウスは自身の恰好を見せびらかせるように大仰に両手を広げてみせた。やや薄汚れているが、その白銀の鎧は見れば見るほどシャムス王国の騎士そのものである。
「俺はもともとシャムス王国の騎士だったのさ。だがな、今の騎士団、シャムス王国のやり方が気に入らない。だからこそ、俺は騎士団を抜け、同志を募って革命を起こそうとウォルティを作り上げた。簡単だったぜ。今のシャムス王国に不満を持っているやつは多い。愚者を肥えさせ、弱者を痛めつける。それが王国のやり方だとしたら、誰がそんな王国についていこうと思うかよ」
シストもシャムス王国の噂は聞いていた。確かにいい噂は聞かない。だからと言って、騎士をやめてこんな盗賊のような革命組織を作るクラウスのやり方には賛成できなかった。
「あなたが義憤を感じているというならば、このような形ではなく、もっと別の形でその正義を表すべきでしたね。このようなことをしても、世の中は変わりませんよ」
「変わるさ。俺たちのような活動は増え続けている。もうシャムス王国も長くはない。強者が威張らない。弱者が虐げられない世界を俺たちが造る。そのためには、何だってやるつもりさ」
シストは黙した。確かにクラウスの言っていることは正論に聞こえる。しかし、クラウスのやっていることは強盗や人さらいなどの犯罪行為だ。そんな人物が大義名分を掲げたとしても、どれほどの説得力があるものだろうか。
「革命を行うために近隣の村を襲うことが正義ですか? ルビーさんをさらったのも正義ですか?」
「きれいごとだけでは革命は起こせないのでね。多少の犠牲は仕方がない」
「それこそ、弱者を痛めつけていることにはなりませんか?」
「王国のやっていることに比べれば些細なことだ。お前にも聞こえるだろう。弱者の悲しみの声が! 怨嗟の声が!」
シストは数秒間考えるように黙した。しかし、クラウスを見るその目は冷ややかなほど厳しかった。
「聞こえません。誰かを勝手に弱者にして、それを守るという言い訳で悪事を働く。あなたたちこそ、真に倒すべき悪人です」
クラウスはこれ以上の議論は無駄だと思ったのか、鼻で笑った。
「言ってもわからないか。ここまで来た勇気をたたえ、せっかくお前たちも俺たちの仲間に加えてやろうと思ったんだがな」
「お断りします。他人が示した正義など、本当の自分の正義にはなりえませんので」
「そうか、ならば……」
クラウスはゆっくりと腰に携えていた剣を鞘から抜いた。すらりとした長剣が姿を現す。
「ここで、お前を殺すだけだ!」
「受けて立ちます!」
シストとクラウスは同時に地を蹴った。両者ともに肉薄する。互いが接近戦を得意とすることもあって、距離などあってないようなものだった。
「食らえぇぇぇ」
クラウスの剣が振り下ろされる。その剣を、シストはグローブの甲の部分で弾き流した。鉄鋼が仕込んである部分だ。
「ちっ」
クラウスは剣が流れるのに身を任せて立ち位置を変えようとした。しかし、そこをシストが追撃する。あっという間にシストはクラウスの懐に入り込んだのだ。
(人体の急所は二十カ所以上。ですが、甲冑で身を包んだこの人の状態では、ほとんどの急所が守られています。表に出ている急所は、三つ。顎、脇の下、手首。しかし、この人の長身を考えると狙うべき急所は一つ。手首です!)
シストは鉄鋼を仕込んだグローブを利用して手刀を繰り出した。力強い一撃が剣を握っているクラウスの右手首に決まる。だが……。
「ぐっ」
ダメージを負ったのはシストのほうだった。シストの手刀は何か硬いものに弾かれ、叩いた手のほうが痛かったのだ。
シストは一度距離をとって体勢を立て直す。その様子を、クラウスはにやにやと笑いながら見ていた。
「惜しかったな。確かにただの騎士なら今の攻撃で剣を落としていたことだろうよ。だが、俺は用心深くてね。急所になりうるところには見えないように鉄の防具を仕込んでいるのさ。動きは鈍るが、お前のような拳法家にはかなり有効なんだぜ」
「なるほど。それは読めませんでした」
シストは憎らし気にクラウスを見た。手首がダメだとすると、きっと脇の下への攻撃も無駄だろう。残る急所は、顎しかなかった。顎は顔の一部でもあるため、しっかりと露出している。鉄の防具でガードされていることはない。
(ですが、この身長差です。顎を攻撃するには一度あの男の姿勢を低くしないといけません。普通ならば他の急所を狙って跪かせたりするのですが、その他の急所がこれでは……)
クラウスが一歩前進すると、シストは一歩後退した。じりじりと追い詰められていく。今のシストに、打つ手はなかった。
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