「なんとなく書いてみた短編」
その1 わたしの かわいい とくべつな かれ
休日の彼はとてもルーズ。
この私がわざわざ起こしに行ってあげないと絶対に起きてこないの。
そろり、と寝室に滑り込む。
ねえ、起きて。
と、最初はそっと彼のかわいい寝顔を撫でてあげる。
無反応。
ちょっと女心が傷つく。そう、ちょっとばかり。
少しだけわざと体重をかけてやる。ベッドが微かに軋む音。
彼の「うぅん」という声。やだ。かわいい。
もう少しで起きてくれるかな。
思わず笑みがこぼれてしまう。
私は、つい彼にのしかかるような体勢になって、優しくキスをする。
ついばむような、バードキス。
彼が眉根を寄せて、薄く目を開いた。
ああ、だか、うう、だか変な声を出したあと、
「おはよう、姫」
寝ぼけた声で朝の挨拶。よくできましたのキスをしてあげる。
私はこの声が二番目に好き。一番は、内緒。
私の名前は姫子。
だけど彼は、私のことを姫と呼んでくれるし、私も、それを受け入れている。
この呼び方は彼から私へだけのもの。とくべつなもの。
彼は私のとくべつだから。
「姫、重いよ」
は!?
なんてデリカシーのない!
起こしにきてあげた彼女になんて言い草。
ぷりぷり起こって暴れていると、彼は私を無理矢理に抱きしめた。ぎゅっと。
ずるい。
こんなのずるい。許すしかないじゃないの。
私の喉のあたりに顔を埋めてくるのはもっとずるい。
私は抵抗もできず、くったりと力を抜いた。
いつからこんなにちょろい女になったのかしら。
しばらくの間そうしていた彼は、私をうまく抱きかかえなおし、起き上がった。
「メシにしよっか」
その時には、私の機嫌はすっかり直っていた。
彼は今日はどこにも出かけないみたい。
私もそれでいい。それがいい。
1DKの狭い部屋で。ずっと一緒。ゆったりと時間を過ごす。
二人掛けのソファに並んで座り、見るともなしにテレビでたまたまやっていた洋画を眺める。臨時ニュースが入って、中央塔がどうのこうの、と私にはわからない話をやっていたけれど、私と彼の、ふたりだけの甘やかな時間は淡々と過ぎていく。
彼はいつの間にか眠っていた。
テレビがつまらなかったのか、仕事の疲れがたまっていたのかも。
早起きさせすぎたのかも。ちょっと反省。
そっと彼の体に身を寄せると、温かい気持ちになれた。
彼も同じだとしたら、とても嬉しい。
幸せな気持ちを感じながら、私もうとうとしはじめた。
ピンポーン、と玄関の呼び鈴がなった。
彼と私、ほぼ同時にびくっ、と飛び起きるはめになった。
「はーい」
と、玄関に向かう彼の後を私もついていく。
彼が玄関のドアを開けると、
「来たよー!」
両手にパンパンのビニール袋を提げた女が化粧臭い顔で媚びた笑みを浮かべていた。猫を被ってるのが見え見えよ。気持ち悪い。
私は全身の毛を逆立て、尻尾を膨らませて、全力で威嚇する。
「あれー? 姫ちゃん今日もご機嫌斜めかなー?」
猫撫で声で、その名前で呼ばないで!
その名前で呼んでいいのは彼だけなんだから。
私のとくべつを汚さないで。
この人は、あんたなんかには猫に小判よ! 帰って! 帰りなさい!!
「姫、落ち着けってば」
彼もそんな風に女の肩を持った。悲しい。とても悲しい。悲しくて鳴いた。
だけど絶対に負けないのだ。
私は休みの都度、彼のところにやってくる泥棒猫に対して、フシャー! と声を上げるのだった。
相方がXXXなもんで 江田・K @kouda-kei
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