S級依頼、北の大地へレッツGO!
「うむ……君達からは並々ならぬ力の波動を、特に君からは神のそれを感じる。マリンに任せたのは正解だったようだな……なに、詮索はしないさ。私も命は惜しいのでね。ただ君達のその圧倒的な力を見込んで頼みがあるのだ」
「その頼みとは?」
ふかふかのソファに座っていた赤毛の凛々しい美女は、姿勢を正してその剣呑な瞳でこちらをすっと見据え──口を開く。
「単刀直入に言う。北の大地、スピカリゲル帝国に大使として行って欲しい」
「……それは」
「勿論、死にに行けと言っているようなものだとは分かっている。だが、あちらの国が本当に闇に支配された国なのか……王国の説明には矛盾が多い。様々な書物を調べあげたその証拠と私の勘が、こちらの国が嘘をついていると警告しているのだ……。もし本当にそうならば、此方から撤退してギルドの拠点をあちらに移したいと思ってな」
「……なるほど」
実際、彼女のその分析は当たっている。ホルデガルス王国には確実に上層部に悪辣な者がいるし、北の大地も決して闇などではない。
それに、俺達の目的自体が北の大地に行くことだ。大使として大腕振って歩けるのならむしろ大歓迎とさえ言える。
「いいですよ、受けます。……ですが、行くのは俺一人です。そんな危なっかしい事に女子は巻き込めない」
「……君がそれを言うのか?」
「アイリス様、実はこちらのカスミ様、何と殿方でらっしゃいます……」
「……流石に嘘だろう、騙されんぞマリン」
「嘘じゃない! なんで皆してそんな反応ばっかするんだよ!?」
「……本当なのか?」
「なんなら胸触ってみます? しっかり絶壁ですよ」
「沙奈ぁ!?」
「ねぇねぇ霞、今凄いこと思いついちゃったわ……」
「ん?」
「《霞が男である》事象を無効化したらガチモンの霞ちゃんが見れるのよ! これは世紀の大発見だわ!!」
「誰がやるかぁあ!」
誰がなんと言おうと、俺は……俺は男なんだぁあああっ!!
■ ■ ■
わざわざキザったらしい事を言って俺が一人で大使になったのは、二人の自由行動時間を増やすためだ。
服装は大使に相応しく、しかし動きやすいという謎の燕尾服。
因みにこの燕尾服、ステータスを見たら
何円……いや何リトスするんだ、これ。
そう、リトスと言えば貨幣の為替もやってもらった。
今更だが、リトスというのはこの王国内部でのみ通用する貨幣だ。
険しい山を超えた向こう、北の大地ではベガという貨幣が使われている。
リトスでは1リトス銅貨、100リトス銀貨、一万リトス金貨、十万リトス白金貨で数えるのに対し、リペルでは1ベガ貨幣、10ベガ貨幣、50ベガ貨幣、100ベガ貨幣、1000ベガ紙幣、10000ベガ紙幣、100000ベガ貨幣と、日本に似た貨幣制度を取っているためむしろ馴染み深い。
因みにレートは1リトス10ベガが基準なのだが、ホルデガルスは半ば鎖国に近い体裁を取っているためそれを知る者はほとんど居ないらしい。
金貨を扱っている王国庶民からすれば紙に価値が付くのは理解できないようで、ギルドマスターのアイリスも慣れるのに難儀したそうだ。
……さて、北の大地へ本格的に入ることになるのだが、そのためにはあの山脈を越えねばならない。
そこで俺は楽をする為に、《飛翔》スキルを習得することにした。
勿論、《自分が《飛翔》を使えない》事象を無効化して、だが。
ずるいと嘆いた二人にも同じようにして与えておいた。
そんな訳で現在、ノストリル山脈上空を三人で飛行中だ。
やはりというか何というか、魔物の量が異常に多い。
幸いにして人型のものはいないので、迷いなく《生きる》ことの無効化で葬り去っている。
……空中を突き進む俺達に群がる魔物がバタバタと倒れていくのは、ある種のシュールさがあった。
そんなこんなで山頂付近、俺はある違和感に気づいた。
「──?」
ある一点だけ、妙に魔力が濃いのだ。《魔力感知》を持つ沙奈も違和感に気づいたのか、その場所をじっと見すえている。
《飛翔》を切って躊躇うことなく足を踏み入れると、赤黒い邪悪さが滲みだした嫌なオーラと共に魔法陣が起動した。
「転移魔法陣っ!?」
《鑑定》で素早く察知した沙奈が驚愕に喘ぐが、実を言えばこれに抵抗するのは実に容易い。
だが、素直に転移された所でそうそう問題も無い。むしろどこに通じているのかが気になるので、俺は抵抗すること無く邪悪な燐光に身を任せた。
■ ■ ■
あれから、実に百八十年。
かの英雄王に敗北して以来、彼は自力で何かを為すことをしなくなった。
全てを切り裂くその剣もただの飾りとなって久しい。
彼は英雄王に負けた。が、それは決して彼が英雄王に劣った訳では無い。
むしろその逆、彼は英雄王との一騎打ちなら負けるはずが無いほどの実力をその身に宿していた。
だが、負けた。それはひとえに数の力だった。
故に、彼は己自身の力を過信することをやめ、慎重になった。
どうでもいい事を思い出した、と盲目したその時。
山頂に設置していた転移魔法陣が起動した。
あれは、相当の力が対象に無ければ発動しないようになっている。
英雄王か、またはそれに並ぶ実力を持つ者か。
どちらにせよ久しぶりに腕が鳴る、と──。
『暴虐王』ヴァルツァコールは肩を鳴らし、哄笑を上げた。
■ ■ ■
転移光が止むと同時に、その如何にもラスボス部屋な一室に、一つの哄笑が響き渡った。
「……女?だが強いな。名をなんという、強き者よ」
その男は何というか、デカかった。身長は少なくとも地球のギネスを更新するレベルで、ゴツく黒光りする鎧にその身を包んでいた。
響いたテノールには王者特有のオーラが色濃く乗っており、絶対の自信を感じさせる。
……ここで、こいつに「女じゃねえよ死ね」、と念じれば終わる話だが、しかし彼のその自信、突き刺すようなプレッシャーが俺にそうさせなかった。
俺は、彼と『この世界の力で対等に』戦うべきだと強く感じたのだ。
「俺はカスミ・ハザキリ、一応勇者をやってる。……《沙奈を転移前地点に転移》」
驚きに膠着したままの沙奈を元の場所へと戻し、その強者へ問う。
「そういうお前は何者だ」
「なるほど勇者か。……我は『暴虐王』ヴァルツァコール。全ての『魔』を従えし王なり!」
「魔王ってことかよ」
「──昔はそう呼ぶものもいた。さぁ勇者カスミよ、 これ以上言葉は要らぬだろう」
「そうだな。交えるべきは剣と拳だ!」
俺は、文字化けスキルを使わなくとも戦えるように既に幾つかスキルを習得している。
それは、こいつみたいな奴が現れた時の対策だ。
文字化けスキルはその便利さ、チートさ故にある種の罪悪感を伴う。
その辺の雑魚魔物なら良心が痛むことも無いのだが、こういう強者にはチートをするべきではないと思っている。
勿論俺のステータスは文字化けスキルありきで成長したものである為、間接的にはチートをしている事になるが、まぁそれは別に良いだろう。仕方が無い。
そもそもが全て曖昧な俺の倫理観に基づいている非合理的な行動である。
さて、話が逸れた。
俺が現在使える攻撃系のスキルはLv99まで均一に上げておいた全属性魔法と全属性付加、Lv80の剣術、そして同じくLv80の体術だ。
まずは創造魔法で剣を構築し、構える。更に火と光の二属性を
見た目と魔王であることを踏まえて光に弱そうだとした、余りにもお粗末な読みだが、果たしてどうだろうか。
「はァッ!」
スキル《剣術》により半ば自動的に体が動く。お互いの剣が交差し、キンと鋭く澄んだ音が響いた。
俺の剣は本来ならば土台不可能な挙動で更に弧を描いて鎧を穿ち、慣性に従ってそのまま剣を突き刺す。
剣を掴んだ片手を重心に宙返りし、勢いをつけてドロップキック。
……が、此方は篭手で防がれた。
どういう反応速度してるんだよ!、と内心で毒づく。
「むぅ……単騎でこの実力……気に入ったぞ勇者カスミ。我も本気で行くとしようッ!」
湧き上がるどす黒いオーラに慌てて《鑑定》を使うと、とんでもないステータスが表示された。
◇◆◇
カテゴリ:スキル
ネーム:《暴虐》
《暴虐王》の称号によって追加されるスキルの一つ。
自身の全能力を自身のLv%アップし、【
◇◆◇
◇◆◇
ヴァルツァコール・マスキート:普人族:206歳:Lv1224
称号:《暴虐王》
スキル:《闇属性耐性Lv99》《闇属性魔法Lv99》《剣術Lv99》《闇属性付加Lv99》《物理法則無視Lv99》《限界突破》《不老》《暴虐》
◆◇◆
「……はぁあ!?」
チートの代名詞であるリョータと並ぶそのステータスに、今度こそ俺は驚いた。
……さっきの攻防が、ただの余興であった事を意味するからだ。
目の前の圧倒的なオーラに、俺は冷や汗が流れるのを感じた。
文字化けスキルの異世界無双~クラス転移したら俺だけ超絶チートだった件~ カシェラ @cachela824
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