第一章〈7〉広瀬 怜
五月十二日
よく晴れた休日の午後でした。
私たちは約束の時間に
「意外とかわいい服着るんだね、あんた」
「この中で一番女子力が高そうだし」
なるほど、身なりに関しては私の方が
「
そう言って道路側を歩く
「
聞くと、
「通り
「ボディーガードですね」
「
「
なんと頼もしい。
「でも、
彼女の体はジャージ越しでも分かるほど細く引き締まっています。背が高く脚も長い。私が持ってるティーン雑誌のどのモデルにも引けをとりません。
「あたしは引き立て役なんです。
「それは女としてのプライドを捨てる口実にはならないよ」
その言葉には、わたしのことはいいから女らしくしろ、という
「男に
「ただ、これが〝自分らしさ〟ってことなら、ジャージを着たあたしも悪くないなと思った次第です」
「そんな自分を認めてほしい、ってことですよね?」
「今日は……その……誰かのお見舞いにでも行くんですか?」
休日の晴れた昼下がりになぜ病院へ行くのか、私はまだ理由を知りませんでした。本来、病院は休診のはずで、
「言ってなかったっけ? パワーを
「パワー……?」
「解釈なんて人それぞれだけどね、わたしにとっては活力なんだ。神社でお参りするみたいにさ、願掛けするんだよ。そういうの、分かるでしょ?」
「ええ、まあ……」
どうやら病院に何かあるようですが、実体が見えてきません。
「
「かわいい方ですか?」
「かわいくないやつ」
出てきたのはつがいになった
「これって女子の間で人気のぬいぐるみですよね、こんなシリーズありましたっけ?」
「春の新作『だらしない怪獣』シリーズだよ」
「今朝、父がちょうどこんな感じでした」
私は
「みんな持ってるじゃん」
その
再び歩き出しながら、
「わたしはわたしだから」
川沿いにある
リハビリセンターが
休日の病院を訪れるのは初めてでした。
待合席に患者はおらず、見舞い客と
「行こっか」
私たちは見舞い客に混じって廊下を進みました。廊下は窓が多くとても明るい造りになっていて、植木や花壇のある中庭を広く見渡すことができます。
こっちこっち、と
ドアを開けると五月の陽気が全身を包みました。太陽が芝や花々を照らし、風が
花壇に囲まれてイチョウの木が植わっています。樹齢数十年ほどでしょうか、さほど大きくはありませんが、まとった青葉が五月の空に
根元に置かれたコンクリートの物干し台に旗が刺さっています。二メートルほどある白い大きな旗です。布地には
「訳があってね、今日はこれを引き取りにきたんだ」
『パワーを
その言葉が意味するものを、この旗と、そして
彼女の決然たる表情に
「ジュース、買ってきましたよ」
「この旗、何なんですか?」
「愛だよ、愛」
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「決めた!」
突然でした。
「悩むのは終わり!
「……やるんですか?」
「やる、決めた」
「あの……一体何を……?」
「ドロボウ」
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聞き間違いでしょうか。訳が分からず、笑顔の
しかし、もっと説明してほしいとせがむ私の意思とは
「ドロボウ……ですか?」
「誤解しないで」
「私利私欲のためじゃない。
「分かってます……でも……」
「巣食う迷いや
ほんの少し、
『わたしはわたしだから』
そう言葉にする
ロビーへ引き返すと、旗を
「あんたたち、なんてツラしてんのよ」
「急にドロボウなんて言い出すから……」私が肩をすくめます。
それもそっか、
「情に
「どういうことですか?」
私が
「このやり方が〝わたしらしい〟ってことだよ」
スカートのなかのひみつ。 宮入裕昂/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko
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