第一章〈6〉広瀬 怜
五月七日
五月の陽気と青空。
スカートがなびくといいな、肩の上で髪が
──幸せは、セーラー服を着た
風が吹いていました。
柔らかくて、温かい、くすぐるような
──
音が聞こえました。
低い風の音。私は
顔を上げると、〝
──ふと、言葉が
見とれるほど白く
「見た?」
とても
美少女の隣を歩いていたお友達(と
「見たの?」
「見てません、何にも見てません」
私は目の焦点が定まらないまま、しかしハッキリと言いました。
「本当に?」
なぜでしょう、お友達の方がよほどご立腹のようです。
「すみません……見ました」
私はつい白状してしまいます。虚勢を張り通せるほど甘い相手ではありませんでした。
「見たそうです」お友達が美少女に耳打ちします。「殺しますか?」
はっきりそう聞こえました。
冗談かと思いきや二人
「すみません、すみません! 柄なんて覚えてませんし、
私としたことが、うっかり口を滑らせてしまいました。
恐る恐る見上げると、そこにあったのはキョトンとした顔で見つめ合う二人の姿でした。
「パンツ? ああ、パンツのこと?」
何を
スカートの中にチェック柄パンツより見られたくないものでもあるのでしょうか?
学校へ向かって再び歩き出します。
「あんたさ、もしかして……」
言いかけて、美少女は思い直したようにかぶりを振りました。
「なんでもないっ」
「あの……」
「カワイイね、あんた」
「何年生?」
「……二年です」私は
「モテるでしょ?」
「いえ、そんな……」
「童顔だしさ」
「よく言われます……」
背も小さい私はこの
そしてどうやら、相手に敵意はなさそうでした。お友達は
「わたしは
「
私は答えながら、『
「こっちは
私より頭二つ大きくベリーショートのせいかより小顔に見えます。髪の毛はトリートメントを
これは恋心? いいえ、ビビってるだけです。
「
「それ……どうしたんですか?」
私は
〝ラインカー〟を押して歩いていたら、誰だって。
「わたしにピッタリでしょ?」
猛犬のような
「わたしを支えてくれる、頼もしいパートナーなんだっ」
グラウンドに白線を引く二輪式のオーソドックスなラインカーです。自己主張するように真っ赤なボディを輝かせています。
「
対抗心を示すように
「〝
「呼び捨てには出来ません。もし言ってしまったら……舌を
「
これはラインカー=グラウンド=スポーツを連想した安直な
本当はもっと突っ込んだ質問をしたかったのですが、
「わたしは元陸上部だよ。走り
「元……ですか?」
「
あっ!
私はその頂点に君臨するお姫様の生パンツを拝見したということになります。
「最初は
確かに
「大勢の人前で踊りを披露するなんて、想像しただけで脚がすくんじゃいます」
坂を踏みしめる私の両脚はすっかり
「まあ言うほど大したもんじゃないよ、姫なんて」
元よりサバサバした性格らしく、美女にお約束の高慢さやナルシシズムとも無縁のようです。そうでなければ、私はとっくに坂を転げ落ちているかカバン持ちのどちらかだったでしょう。
「同じ女としてあたしは
まあ言いたいことは分かります。
「たかが書類審査と面接だよ? 歌って踊れるアイドルの方がよっぽど
「
フォローすると
「そんなのないよ、普通の女子高生だって」
「でも、こういうことは客観的に見ないと分からないものですし……」
私はそう言って
「
「
名前で呼ばれたのが
「私は本が好きで、小学生の頃はよく木陰に座って風がページをめくってくれるのを待つ変わった子供でした。そのせいか友達は少なかったんです」
気にすることないよ。
「わたしも陸上部では煙たがられてたよ。協調性がないとか、先輩に
気付くと校門前でした。いつもは苦でしかない登り坂も今日ばかりはあっという間です。〝
「
「……はい、
「わたしたちと出かけない? ちょっと付き合ってほしいんだ」
私の
もちろん、それが
極めつけは
「構いませんよ……」
「面白そうですし」
私は歯切れ良く言い切りました。
「
「
ぴしゃりと返す
「連絡先教えてくれる? 後で
「一体どこへ出かけるんですか?」
「病院」
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