第14話 関係性を学んで

 まみ。何の用だ。

「話があるの」

 とりあえず入って。部屋に入れた。まみはどこかに言った帰りなのか、綺麗な服に香水をつけていた。

「数学頑張っているらしいわね。なり君が教えてくれたわよ。自信満々に大学決めていたって。」

 あいつ言っていたのか。なりは口固いと思ったんだが……。多分まみが上手に聞き出したんだろう。

「私見直しちゃった。まこと君も取り柄ができたね。」

 ありがとう。照れ隠しに、頭の後ろに手をやった。いつもそんな仕草はしないので、まみはクスッと笑ってみせた。

「数学を勉強するとき、何を考えているの?」

 何を考えている?えーと、何を言ったらいいのか……。少しすると、自然と言葉が声になって聞こえた。――関係。――最初の話だからよく覚えている。

「関係、かな。数学やっていて、代数学の話になったんだ。そこで最初に関係の話が出てくるんだ。教授は言っていた。どんな関係も、必ず意味があるって」

「私との関係も?」

「いつもちぐはぐだけど、話しないで一人で学校行っていたら、憂鬱だったろうなあと思うなあ。なんだかんだ言って、学校に行けていたのは、君のおかげだよ」

「私も今、同じこと思っていた。」

 君との関係があったから、いや、ちょっと違うか。「君がいたから、僕は高校生でいられたんだ」

 関係の話は間違っていた。彼女自体が大事だから。でも関係は、役に立ってから消えたんだ。僕はそう思った。

 僕はいつの間にか、笑顔になっていたらしい。それにつられたのか、にっこりして、まみが見つめる。

「私ね、何かに夢中になれる男の子が好きだったの。だからあなたのこと、あまり好きじゃなかった。でも今は違う。あなた本当に頑張ってるもの。」

「なんで夢中な人が好きなの?」そう聞いた。なんとなくだけど、そう聞くべきだと思ったから。まみは答えてくれた。

「昔天体観測を友達とやっていて、その男の子が格好良かったの。星のことなんか教えてくれて。教えているときの瞳に映える光が、私は一番好きだったの。ある時に別れの時がきて。彼は私にこう言ってくれたの。僕みたいな人を見たら、君の耳で助けてあげてほしい。君のその澄んだ聴覚と相槌でって。私その時わかったの。助けることが、私の生きがいになるんだって。つい最近まで忘れていたんだけどね。」

 あ、そうだ。僕は今頃自分のことをなぜか思い出した。そのまま声に出す。

「そういえば、僕は昔数学をやっていたんだった。ある時に、数学ってなんの役に立つのって聞かれて答えられなくて、悩んだ挙句やめることにした。うちの財政難もあって塾もやめた。それ以来も新しい物事を始めようとすると、生きるためだけか、それとも役に立たないことかで、どっちにしろやめていた。僕はわかってなかった。生きるってのは、わかることじゃない。決めることなんだって」

 またにっこり笑って、まみは僕を見つめた。そして、ぽんと手で膝を叩いて、こう言った。大したことないセリフだ。

「じゃ、私も決めた。」

 何?その大したことないセリフに、僕は真剣になった。いつものまみの一緒に行くと続くセリフとは思ってはいなかった。

「私、まことを応援する。大学別々だけど、私はいいところ行って、仕事する。まことは数学とりあえずやって。後のことは任せて。」

 それは。つまり、そう言う意味だよな。うん。

 唐揚げのことが頭に浮かんだ。まみ……。ありがとう。頑張ってみるよ。

 ガチャリ。

「まみちゃん。家から電話よ。帰っておいでって。」

 母だった。母はもう彼女の母でもあるんじゃないだろうか。そんな考えが頭をよぎった。口には出さなかったけど。

「じゃ、もう行くね。あ、そうだ。Qリング見せて。」

 ……え?

 今なんて言った?

 なんでお前がQリング知っているんだ?

「私も持ってたから。」

 互いに見せ合うQリング。

 光り輝いて、「関係の解消は達成しました。それでは。」と言って、消えた。

「もう助けてもらえないわよ。大丈夫?」

 あ、ああ。多分。突然の解放に驚いて、どもってしまった。いや、いなくなって本当に良かった……んだよな?

「大丈夫。私がいるから。明日から数学猛特訓するからね。覚悟しといてよ。」

 ……はい。まみは勉強得意だったな……。解放されたんだかされてないんだかわからない。けど、不思議と今日はいつもの嫌な気持ちはなかった。

 黄昏が、日の出に似てる気がした。

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ぼくるい〜僕の類体論〜 @horloge144

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