卒業アルバムが見られない

 卒業アルバムをめくるのが、怖い。卒業アルバムが怖いわけではない。別に怖がるものでもない。

 じゃあ何が怖いって、その中にある写真のその一部が怖い。非常に残念ながら、残念なぼくには敵が多い。ぼくに悪意を向けたその顔を見ると悔しいことに動悸息切れ目眩が起きる。手が不自然に冷たくなる。震える指。あんなものに負けたとは思いたくないけれど、負けたとも思っていないけれど、この反応は事実なのだ。紛れもなく。


 覚えておいて欲しいのは、高校の卒業式はちゃんと楽しかったこと。アルバムの最後の白いページが、今までになく埋まったこと。それにいたく感動したこと。決して悪いことばかりなんかじゃなかった。

 だけどやっぱり、見られない。それは消えない。記憶は算数じゃないのだ。正負打ち消し合わず、+がいくつと−がいくつ、がどうしようもなくいつまでも残り続ける。


 楽しい記憶を楽しいだけで思い出す、当然の権利を奪われたと思うとやりきれないような気分になる。気にするなとかじゃない。そんなの出来たら苦労しない。くだらないことに悩まされるなんてぼくが一番いやだ。そんなの分かりきったことじゃないか。でも出来ないのだ。ぼくは卒業アルバムを多分一生、普通みたいに見られない。

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うろうろの虚 のん/禾森 硝子 @Pacema-Peco

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