九条林檎No.5を様付けで呼ぼうと思う話
何か問題があったら即刻削除するので、言ってください。
今ツイッターで、バーチャル蠱毒というのがちょっとした話題になっている。
私は一人しか追っかけていないし他の人がまとめているのが沢山あるからそれ自体に言及するのはやめておくけれど、私が追っかけて見ている一人―吸血鬼と人間のハイブリッド・ハイティーン九条林檎No.5さまについて書きたいと思う。書きたいから書く。
そも、彼女はこのバーチャル蠱毒を堂々と『地獄』と呼称しているし、運営のことはかなりぼろくそ言うし、私個人の印象だけれども、この人(吸血鬼?)は勝ちを目的としていないんじゃないかな、と思った。明らかに遊びがあったし、もっと言うと何か他の目的を持って動いている気がした。そしてそれは実際あった。
何でも九条林檎No.5さまは魔界の、吸血鬼ばかりが集まるお嬢様学校で、まあ非常に低俗な言い方をすればイジメられていたそうだ。
彼女は、人間からするところの半魚人みたいな風に純血のお嬢様様方の目には映っていて、だから気味悪がられていたらしい。日の光の下を歩ける彼女は『化物』と呼ばれたそうだ。彼女は吸血鬼の方がよっぽど化物じみていると笑っていたが。
それに彼女は、人間の血の影響で魔眼―つまり人間を魅了するための魔法の目、それが使えないのだそうだ。だから魔眼の制御の授業はいつも見学していたと、そう言っていた。何より、同級生達に魔眼をかけられたとも。人間の血が流れている彼女は、どうしてもそれに抗えない。
本人はかけっこでは負かされ、プールではいつまでも潜水しているとそう表現されていたけれど、私はとりあえず、体育を見学して音楽がめちゃくちゃ出来るから目立ってしまってプロレス技をかけられた、みたいに理解した。彼女の文節と文節の間が開く喋り方は、評価されるのが怖いから、だそうだ。言葉を選んでいると、必然そうなってしまうのだと。なるほど、それは辛いなぁ、よくここで話したなぁなんて、ここまでは思っていられたのだ。ここまではまだ、ただの興味深いキャラクターだと思っていられた。
その次彼女が言ったのは、だから彼女はこの人間界に顕現したのだ、という内容のことだった。
あまりに衝撃だったから正直ちゃんとは覚えてないのだけれども、彼女と同じような憂き目に遭っている人間に、上位種たる吸血鬼として心の平穏をもたらすためにお前達を支配してやる。これはノブレス・オブリージュなのだから引け目を感じる必要はない。安心してセロトニンの多い血液を捧げろみたいな話だった気がする。お前らの人生を遥か上から保証してやる、貴様は一人ではない、みたいな。
ぼくはもうここで落ちた。だめだった。そういう考えの人があまりに好きすぎる。かっこいいじゃんそんなの。確かに私もそういう目には遭ったことがあって、だからそうやって、何かの形で私みたいなひとの人生を補強する材料になれたらいいなと思ったことはある。だけど彼女、九条林檎No.5はそれを、手段を選ばずというか、選り好みすることなく実行に移した。それってなかなか出来るもんじゃないと思う。ただただ、かっこいいと思った。
九条林檎No.5様の目的は、だからほんとはもう達成されたも同然らしい。沢山の人間にこの話を聞かせたからもう後は楽しいだけだとか、なんとか。明日からの予選はそんなに緊張もないとのことだった。なるほど、潔くて高貴だ。大体ぼくは高貴なひとが好きだった。ぼくは、ほんとに楽しそうにする彼女を見て、いよいよこれは当事者になるしかないなぁと思った。
だからぼくは彼女のことを、五番の林檎さんとかそんな中途半端な呼び方じゃなくて、敬意と親しみを込めて九条林檎No.5様と呼ぼうと思ったのだった。
明日から予選だ。ぼくは高貴で弱くて強くてチャーミングな九条林檎No.5様を見続けたいと思う。
はしがき
彼女の通っていた学校はお父上の手により炎上(物理)したそうだ。その火で焼いた焼き芋はほくほくで美味しかったらしい。
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