第27話 種子島で会いましょう

 私たちは種子島に集合していた。種子島、古来鉄砲が伝わっとされる島。現代では種子島宇宙センター、宇宙の玄関口のある島だ。


 なぜこの位置に宇宙センターがあるのかはいろいろな理由があるらしい。1つは赤道に近いから。赤道に近いほうがロケット打ち上げのエネルギがー少なくなる場合があるそうだ。


 ならなんで沖縄に作らないのと聞いたら歴史の勉強をしましょうねと怒られてしまった。なるほど、種子島宇宙センターを作った当時は、沖縄は日本が自由に使っていい場所では無かったのですか。不勉強で申し訳ない。


「さぁて、しっかり役割を果たしましょう」


 今日はしっかり眠ることができた。やっぱり発表は万全の体調で行わないとね。


 私たちの目線の先には、H-X5ロケットがそびえ立っていた。全高65メートル、直径5.5メートル、総重量1200トン。3機の補助ロケットを備え、静止トランスファ軌道に最大35トンを打ち上げることができるらしい。らしい。


 私にはよく凄さが分からなかったが、これまでの日本の一番大きいロケットが6.5トンしか打ち上げられなかったらしいので。すごいんだろうなぁと思う。



 設計はJAXAが行ったことになっている。実際は、既存のロケットを元に、パリキィが行っている。歌影うたかげ先生によれば、完璧だよ。


 こんなものをものの数日で設計なさるなんて。やはり、規格外ですな。とのことだ。通常この規模のロケットなら、開発開始から打ち上げまで5年以上はかかるはずだそうだ。


 それを2年でやってのけたのは、大量の人員を投入したことと、AIを使った開発の効率化などの成果ということにしているが、実際はパリキィが陰ながら手伝っていたことによるところが大きい。まぁ確かにAIを使った開発の効率化には違いない。


「国会議事堂と同じ高さですな」


 海良かいら先生はつぶやく。


「その例え、全然わかんないんだけど」


 みんな笑う。リラックスは大事だ。


 この2年で、私達を取り巻く環境は全くと行っていいほど変わってしまった。もう2年前に戻れと言われても無理だろう。潤沢な研究費、平和に舵を取る世界。すべてがいい方向に進んでいるように思えてしまう。だが、美味しい話には裏があるのかもしれない。


「私、不謹慎なこと言います」


 私に皆が注目する。


「この2年間、すごく充実してました。なんていうかその、生きててよかったって。大袈裟かもしれませんが。正直、パリキィには感謝してます。だからこそ、このまま終わらせてはいけない。そう思います」


 歌影うたかげ先生は言う。


「私もね、若手が楽しそうに新しいロケットについて語っている姿を見るね。思うところがないわけではないのです。もちろん、これまでのしがらみにとらわれない、全く新しい発想も大切でしょう」


「しかし私は、あのロケットが成功することをやはり素直に喜べません。あれは確かに、人間が組み立てて、人間が飛ばします。ですがね、操り人形がおもちゃのロケットで遊んでいるようにしか見えないのです」


 続けて、海良かいら先生。


「楽しかったか、そう言われると楽しかったな。新しい友達もたくさんできた。今までの人生で一番充実してたと言っていい。私は人を信用できなかった。でも、人以外の敵が出てきたからこそ、人を信用できるようになったのかもしれない。だからこそ、阻止しないとな」


「かわいいお嫁さんももらえましたしね」


 照れてやがる。こういうのを間近で見せつけられると、羨ましい。


「私も、幸せでした。多くの人に笑顔を取り戻すことができました、諦めていた人にすら。私は感謝しています。パリキィに。でも、これから先、ウイルスで苦しむ人が増えるというのなら、私は許しません」



「なんちゅーかな、ここ最近、頭の回りが早よなった気がするんよな。気のせいかもしれへんけどな。でもまだまだこれからや、まだ全然、人類は次のステージに進んどらん。ここで止めたらえらいこっちゃ」



「確かに技術は格段に進歩した。でもまだまだだ、私が死ぬまでに見れそうな技術の半分も、10分の1も出てきてないぞ。ここで縄文時代に戻るなんてまっぴらだ」



「一度縄文まで戻るのもありかもね。でもかわいいお洋服が作れないのは困るわ。不本意だけど、この2年は確かに魅力的だった。この2年で発見されたもののうちどれだけにあいつの息がかかってるのかわからないけど、勢いに乗って、人間の手で生み出せたものだってたくさんあると信じているわ。だからこそ、ここで終わりにはできないわね」


 私達は、それぞれの思いを抱えて、最後の戦いに赴く。戦いと言っても、私たちの領分は研究だ。だからこそ、パリキィに、発表しに行くのだ。私たちの研究の成果を。



 今回は、歌影うたかげ先生のおかげで、特別に打ち上げ時にもかかわらず、施設への入場を許可された。発射場の対面にある、ロケット組み立て棟にある会議室を押さえてもらっていた。ここで、パリキィとの会話を試みる。時刻は午前10時、打ち上げまであと5時間だ。



 部屋に向かいながら、CTの話を思い出していた。色んな角度から測定し、論理的な解として画像を得る。私たちの見ている世界は、あまりにも複雑だ。一面だけを見ていては、足をすくわれてばかりだ。


 様々な角度から、時には中に入り込んで、よく考えなければならない。でもそんな時間があることなんて無いことのほうが多い。今は誰もが、時間に追われている。そんな中でも、ベストを尽くさなければならない。1人でだめなら、みんなで。


 部屋はあのとき、皆と初めて会った部屋と同じような広さだった。純ちゃんは居ないけど。窓はなく、用意されたスクリーンには打ち上げ管制室の様子が映し出されている。



「さて、どうしますかな。向こうからコンタクトを取ってくれるのをお弁当でも食べながら待ちますかな?」



 なぜ私たちが、ここに集合したかと言えば、純ちゃんにお願いしたからだ。最後に、パリキィと話したいと、私たちには話す権利があるのではないかと。


 私たちは、疑っていると。私たちに残された時間は少なかった。パリキィが地球産である可能性に気がついて1週間。私たちはできる限りのことをやったが、つかめた情報は少ない。

 

 海良かいら先生は、ロケットの打ち上げを延期するべきだと主張した。今ある情報だけでも、打ち上げを延期させるぐらいはできるだろうと。



 打ち上げを延期させた場合、パリキィは強硬手段に出るだろうか? それ以前に、打ち上げを延期させようとしている私たちを消しに来るのではないか。そんな議論まで出た。


 どちらにしろ、ここ1週間の私たちの行動は、パリキィにとってはバレバレの行動だったはずだ。今のところ、だれも危ない思いはしていなかった。それでも、延期策まで実行しようとした時のことは予測できなかった。それに、延期させるという行為は、私たちの領分を超えているのではないかという話にもなった。



 私たちが選んだ道は「対話」だ。もちろん、勝算が無いわけではない。それに、もう一度話してみたいというのは、私たちの好奇心から来るところでもある。


 私たちはあれ以来、パリキィと話す機会がなかった。もちろん私は、昔話を直接聞くことはできていない。そこは結構不満であったけど、研究費のおかげで研究はすこぶる進んだので良しとしていた。


 どちらにしろ、私たちはもう一度話してみたかった。前回は突然のことで、聞きたい話の100分の1も聞けなかった。今度は準備は万全とは言えないけど、もっと落ち着いて話せると思う。まぁ、「その質問にはお答えできません」って言われちゃうのかもしれないんだけどね。


「待ちましょう、お弁当美味しそうでしたよね。黒豚黒豚」


 ――と、また、また来た。

 驚きと、困惑が同時に私の全身を震えさせる。


 私のスマホが鳴っている。あのときと同じだ。全員に緊張が走った。また、【通話】をタッチする前に、声が聞こえてきた。


『みなさん、お久しぶりですね』

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