第20話 キラキラ輝いているわ

宮笥みやけ先生は、パリキィ氏がもたらしている技術についてどう思っているのでしょうかな?」


 そう聞いたのは祖谷そたに氏。嫌味はなく、単純な興味で聞いている。我々は単純な興味で質問するが、一般人にはそう思ってもらえないことも多いのが難点だ。


 いつも元気な宮笥みやけ先生が少し、暗いトーンで話し始めた。


「いい気はしてないわ。パリキィがやっていることは、人類が自ら発明した風を装ってはいるけど、私から見ればパリキィの本棚を覗いてしまっていることにほかならない。むしろ、本人の自覚なしに操られてるんだからもっと悪質」


 自分が発見したと思っていたものが、実は宇宙人が自分を操って発見させていたものだと知ったら確かに良い気はしないだろう。


「それは、パリキィが地球の生物由来の知的生命体であったならどうなるんだ?」


「それは、困るんだよねー。私としても。ほら、人類の技術って、人類だけで作り上げたわけではないでしょ? 地球があって、地球上の他の生命体があってこその人類の技術なわけで、パリキィが地球の生物なら、どうなんだろうって。私ずっともやもやしてるの。祖谷そたにさんこそ、直接的にもっと新しい技術を教えてもらえると思ってたから、残念なんじゃないの?」


「まぁそれはありますな。人類の技術力が数段階底上げされると期待されていたけど、今の状態は、少し加速したかなってところでしょう。正直なところ、少し期待はずれではありますが、まだこれからだとも思います。まだ二年ですからな、こういうのは徐々に加速していくものでしょう」


「だといいね」


 パリキィ氏の考察を話し合いながら、発掘を進める。古代文明の発見が目的だ。パリキィ氏が地球の知的生物が作ったと考えたときの最大の問題点をどう解決するか。


 という点を。


 超知性を作り得るだけの技術を持った文明の痕跡を、我々はまだ発見できていない。だからこそ我々はまだ、パリキィ氏が地球産だと信じることができないのだ。


 人類ですら作り得なかった物。そんな物を作ることができる生命だ、高度な文明を持って地球に君臨していたはずだ。我々は考古学を通じて、38億年前まで生命の痕跡を遡ることができている。


 その中に、文明の痕跡を匂わすものは見つかっていない。最新の研究によれば、人類は700万年前に生まれたとされる。生物の多様性が爆発的に増えたカンブリア爆発が5億4200万年前だ。


 カンブリア爆発から現代までに、700万年は約80回収まることができる。人類と同様の知的生命体が生まれていてもおかしくはないが、痕跡が残らなくていいのだろうか。



 この点に関しては、様ざなま仮説が議論された。まずは人類ほどに世界的に繁栄していなかった可能性だ。人類は幸運にも地球上のほとんどの地域に適応できる。


 一方で、生物よっては限られた地域でしか生命活動のできない種族も居る。もし、そのような生命体が知能を持った場合、全世界に散らばらずに、文明を発達させた可能性もある。


 だとすれば、我々がまだ発見できてないだけだという可能性だ。そもそも考古学で我々が見ているのは、その時代に存在していたもののほんの一部分に過ぎないのだから。

 


 次に、意図的に痕跡を消した場合だ。パリキィ氏に文明の再興を託して滅んだとすると、彼らは他の文明が地上に起こることを恐れたはずだ。


 他の文明が彼らの文明の痕跡を発見して、更に文明が発達するようなことがあれば、彼らの再興が遠のいてしまう。だからこそ、文明の痕跡を徹底的に消した可能性だ。


 もし人類が同じ状況に陥った場合、このようなことをするだろうか。わからない、するような気もするし、しないような気もする。

 

 戦争では、撤退する時、自らの情報を相手に知らせないためにすべてを焼き払うという。だとすれば、我々が今ここで土を掘ったとしても何も出てこない可能性もある。



 パリキィ氏が置かれていた場所を中心として、1メートルほど掘り進めたところで休憩を取ることになった。私は普段から発掘をやっているので慣れているが、二人は慣れない仕事なので疲れが見えている。今の所、何も出土していないことも疲れを加速させる原因となっていた。


「疲れたー、田辺先生毎日こんなことやってるの? しかもあっつい外で」


「ええ、やってますよ。まとまった研究時間が取れるのって長期休暇中ぐらいですからねー」


「うへぇ、私無理。でも痩せそうでいいかも」


「あー、ダイエットにはなるかもしれませんね。今度ご一緒にどうですか?」


「来ていく服が無いのでやめておきます」

「今日の服でもいいと思いますよ」


 今日はセーラー服風のワンピースを着ている。スコップを持っている姿がなんとも似合わない。


「い、いけたら行くわ」


 休憩が終わると、作業に戻る。学生の手が借りれないのは辛いところだ、しかしこんなことに巻き込むわけにもいくまい。


 結局、20時まで掘り進めたが何も発見できなかった。夜は流石にやめてほしいとお願いされたので、事務所まで戻ることにする。近くのホテルにチェックインし、食事を済ませて倒れるように眠る。明日は6時に集合して発掘を再開するのだから。


 翌朝6時半に、事務所からクルーザーで鬼ヶ島に向かう。今日何も出なかったら、一旦東京に戻り、作戦会議を行うことになっていた。今日こそは何か見つけなければ。


 泥を掘り進めている宮笥みやけ先生が不思議そう泥を眺めている。


「やけにキラキラしている気がするの」


「キラキラですか? ん――、そんなもののような気もするのですが、確かにキラキラしているような気もします」


「これって、文明の痕跡なんじゃない?」


「はい?」


「パリキィはいろんな生命体を作ることができるかもしれないんでしょ? だったら文明の痕跡を分解するような生命体を作ることだってできたんじゃない?」


「もしかしたら、縄文人はその手伝いをさせられていたのかも。となりの部屋に居た縄文人に手伝わせて、この部屋に文明の痕跡を集めさせて、分解する。分解しても金属元素自体は消えたりしないから、ここに沈殿している。それがキラキラ見えているんじゃない?」


 確かに、隣の部屋の泥にはここまでキラキラしているものは見えなかったようなきもするが、光源の違いとも思える。


「縄文人が手伝わされていた、か。縄文人というのはそんなに簡単にいうことを聞くのか? しかも、複雑な指示を問題なくこなせるだけの能力があるのか?」


「縄文人と言っても、知能レベルは我々と全く変わらないと考えてください。確かに栄養状態などは今より遥かに劣るので、いまと全く同じかと言われれば難しいですが。教育する側が高度な知能を持っていれば、指示されたものを持ってくるぐらいは余裕ですよ。ってゆーか、この時代より遥かに前ですよ、ピラミッドが作られたのは」


「ピラミッドか、なるほど、それなら物を持ってくることぐらい簡単だろうね」


「しかし縄文人が使役されていたというのはたしかに合点が行きますね。もともと、パリキィ氏の文明の痕跡はたくさん残されていたが、縄文人の存在を見て、敵対する可能性のある知的生命体の存在を知った。だからこそ、パリキィの文明の痕跡を消し去ろうとした」


「しかしどうやって調べるね?」


「大丈夫、岡山には知り合いがたくさんいるから。元素分析なんてお手の物よ」


 そう言うと、宮笥みやけ先生は土のサンプルを採取して大学に向かっていった。時刻は9時。昼過ぎぐらいには結果が出るそうだ。



「その後、手伝わされた縄文人は殺されたということか?」


「その可能性が高そうですね。隣の部屋にいた縄文人ですが、埋葬されたものではなかったんですよ」

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