知れば差がつくレイアップシュートの真実
体育の授業程度でもバスケットボールに触れた事のある人ならば、レイアップシュートはご存知かと思います。
聖書スラムダンクでは、ダンクシュートよりも地味である事から、主人公である桜木花道に「庶民シュート」などと呼ばれました。スラムダンク世代のおっさんたちにとっては、「庶民シュート」は何の説明もなく通じる共通語と言ってもよいほどのミームと化しています。
が、実はこういった知名度の高さこそが、バスケットボールの上達を阻む固定観念を生んでいる部分もあったりします。
特に何の説明もなく「レイアップシュート」と言うと、多くの人は「ドリブルしてゴールへ走り込んで、ボールを両手で持ってから一歩、二歩とゴールへ踏み込み、ジャンプして片手で下手投げするシュート」を想像するはずです。体育の授業で説明されるレイアップシュートも、聖書スラムダンクで言う「庶民シュート」もこの形です。
ですがこれは厳密に言えば、「アンダーハンド・ドライビングレイアップ」です。もっとも基本的なレイアップの形ではありますが、これだけをレイアップと呼ぶわけではありません。
実のところ、レイアップに分類されるシュートは驚くほど多彩です。
ドリブルせずに、パスを受け取ってすぐに一歩、二歩と踏み込んで片手でシュートするのもレイアップです。
ゴールの真下を通り抜けて後ろ向きに撃つシュートは見たことのある人も多いのではないでしょうか。リバースレイアップというやつです。
一歩、二歩と踏み込んで、上手投げでシュートするのもレイアップの一種です。日本だと下手投げができない初心者の所業と見られる傾向がありますが、これはオーバーハンドレイアップと呼ばれ、近年の欧米ではむしろこちらの方が初心者向きとされています。
日本では「ゴール下シュート」と呼ばれているシュートすら、本場アメリカではスタンディングレイアップと呼ばれ、レイアップの一種と認識されています。
かくのごとく、本来(広義の)レイアップシュートとは、「ジャンプシュートするまでもない近距離からのシュートのうち、ダンクではないもの」全般を指す言葉です。
日本だとアンダーハンドだけがレイアップだという認識が未だに根強く、上手投げで撃つと怒られたりする事もあったりしますが、これは時代遅れな風潮であると言えましょう。欧米では初心者でも投げやすいオーバーハンドから教え、成長に合わせてアンダーハンドを教えるのが主流となっています。つまりシュートを成功させやすい方法で撃とう、という事です。
シュートを成功させて点を取る事に主眼を置く以上、「成功させやすい撃ち方をしよう」は合理的な考え方です。逆に「アンダーハンド以外は認めない」は固定観念に捕らわれた考え方と言えます。
本項ではアンダーハンドとオーバーハンド、二種類のレイアップの一長一短を説明しようと思います。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて使い分けるのが賢いプレイヤーです。
まずは「庶民シュート」ことアンダーハンドレイアップから見ていきましょう。日本で長らく「正しいレイアップ」とされてきただけあって明確な長所があります。
アンダーハンドレイアップは、ゴールへと走り込んだ勢いのまま跳び上がり、前方にあるゴールへとまっすぐボールを掲げ上げ、そして掲げ上げた勢いのまま下手投げでリリースします。つまり力の流れが脚(走行→ジャンプ)→腕→手→ボールと一直線です。
体にブレーキをかけて姿勢を整える必要がないため、アンダーハンドレイアップはスピードが出ます。またスピードがある分だけジャンプも高く跳べるため、よりゴールに近い位置からボールをリリースできます。近距離からリリースした方が確実性の高いシュートになる事は言うまでもありません。
一方でディフェンスの妨害に弱いシュートでもあります。ボールを胸あたりの高さから頭上へと掲げ上げ、自身の前方に晒す形でのシュートなので、シュートを撃つ手元が無防備になりがちで非常にブロックされやすいシュートです。またゴールに向かって全身で跳び上がろうとするシュートなので、ディフェンスが密集している中では撃ちづらいという難点もあります。
つまり総括すると、アンダーハンドレイアップは、「ディフェンスをきれいに抜ききって撃つ、または速攻において無人のゴールへ誰よりも速く走り込んで撃つのに適したレイアップ」だと言えます。
一方でオーバーハンドレイアップは、前述した点においてアンダーハンドと逆の性質を持ちます。
まずシュートの動作としては、ゴールへ走り込み、ややスピードを落として真上気味に跳び上がり、ボールを上手投げの構えで頭上に持ち上げ、そして投げます。
力の流れに着目すると、まず走り込んで来た勢いにブレーキをかけて真上気味に跳び上がり、ボールを頭上でいったん構えてから撃つという流れになります。ジャンプの直前のブレーキのところとボールを構えるところで勢いが途切れる事がわかります。
つまりオーバーハンドレイアップは、ゴールへと突き進むスピードが出ません。
しかしアンダーハンドレイアップではボールを前方に晒す撃ち方なのに対し、オーバーハンドレイアップではジャンプシュートのように頭上にボールを構えて撃ちます。これはつまり至近距離にディフェンスがいた場合、シュートのリリース位置がディフェンスから遠いため、ブロックされにくいという利点があります。
また跳び上がり方も、アンダーハンドレイアップの場合は全身でゴールに向かって跳び上がるのに対し、オーバーハンドレイアップはやや真上気味に跳び上がります。そのため選手が密集している狭いスペースの中でも比較的撃ちやすく、また姿勢も垂直に近い状態になるため、ディフェンスと接触しても体勢を崩しにくいのも強みだと言えます。
さらに上手投げであるという事は、手首の力を使える分、下手投げに比べて有効射程が長いという特性にも繋がっています。この特性が「ゴールへ向かって全身で突っ込まずとも撃てるレイアップ」としての長所を明確なものにしています。
然るにオーバーハンドレイアップは、「ディフェンスに絡まれながらでも、またはスペースが狭くゴール下まで突っ込めない状況でも比較的撃ちやすいレイアップ」だと言えます。
このように、何種類もあるレイアップのうちもっともポピュラーな存在である、一般的なアンダーハンドレイアップとオーバーハンドレイアップでさえこれだけの違いがあります。
他にもディフェンスと接触しながら両足同時に踏み切って跳ぶパワーレイアップといったシュートもありますし、より広義にはフローターシュートやフックシュートもレイアップの一種であると言えます。
レイアップに絶対の正解はありません。繰り返しになりますが、状況に応じて適切なレイアップを選択する事こそが肝要です。
何にせよ、日本ではオーバーハンドレイアップがもっと認知されてほしい。
そんな事を思う筆者はオーバーハンドレイアップ多用派です。
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