狙い撃て! ジャンプシュート

 バスケットボールにおけるジャンプシュートは、極めて基本的な技術でありながら、他のスポーツにはない独特の動作です。

 サッカーやハンドボールのシュートと比べてみるとその違いは歴然としています。305cmもの高さにあり、かつ直径にしてボール2個分のサイズもない小さなゴールを精密に狙わなくてはいけません。

 運動慣れしている人でも、バスケをやるとここでつまずく人は少なくありません。今回はこのジャンプシュートについて語ろうと思います。


 まずバスケにおけるジャンプシュートは、中・長距離からのもっとも一般的な得点方法です。そしてサッカーやハンドボールのミドルまたはロングシュートと比べると、特性に大きな違いがあります。

 サッカーやハンドボールでの中・長距離のシュートは、シューターとゴールを結ぶ直線上のどこかに誰か一人でもディフェンスがいるだけで容易に防がれます。またゴールキーパーというポジションの存在も、シュートしたボールが弾かれて防がれる事の多さに繋がっています。

 しかしバスケでは、ゴールが305cmの高さにあり、しかもシュートに際してはそのゴールよりも高い弧を描くシュートを撃たなければならない都合上、シューターから離れた位置にいる選手がボールを弾く事はできません。またゴールテンディングというルールがあるため、ゴールキーパー的に待ち構えて、シュートされたボールをゴールする寸前で弾く事もできません。

 まとめると、「ジャンプシュートは、シューターの目の前でブロックする事でしか防げない」のです。

 オフェンス側の視点で言うと、「下がって待ち構えているディフェンスを無力化できるシュート」だとも言えます。

 それゆえ、体格・フィジカル・瞬発力で劣る選手であるほど、ゴール下のディフェンスと真っ向勝負せずに撃てるこのジャンプシュートという武器を活用する事が求められる傾向があります。


 とは申せど、ジャンプシュートは難しい。前述の通りゴールがまず高い位置にあり、ゴールのサイズ自体もボール2個分もないほどの小ささです。ここに正確にボールを投擲する事は簡単ではありません。

 この決して簡単ではないシュートを高確率で決めるためには、正しいシュートフォームを身につけないといけない――というのが、かなり頻繁に見られる誤解です。

 結論から言ってしまうと、「綺麗なシュートフォーム」というものはあっても、「正しいシュートフォーム」というものに絶対の正解はありません。

 バスケの神ことマイケル・ジョーダン、史上最高のシューターことステフィン・カリー、そして歴代の得点王たち……誰もがシュートフォームに個性があり、全く同じフォームで撃つ選手は誰一人としていません。

 ですがシュートの上手い選手は、シュートフォームに共通した特徴があります。フォームそれ自体には一人一人違いがあれど、上手い人は誰もが本質をしっかりと捉えているとも言えます。


 さて本質とは具体的に何なのか。

 ジャンプシュートを成功させるのに必要な要素は、リングまでボールを届かせる「飛距離」と、正確にリングの内側にボールを投げ入れる「精密性」に分解できます。

 これは通常、同時に実現させるのが難しいものです。遠い目標にボールを届かせるために力一杯投げようとすれば、加減がきかなくなり精密性が失われるのは自然な事だと言えます。

 ゆえに、「飛距離」と「精密性」を担当する体の部位を分けてしまいましょう。

 飛距離を稼ぐための力は下半身から生み出し、上半身の使い方によって精密にリングへとボールを投擲する。これがジャンプシュートの本質的な要点です。


 まず下半身から見て行きましょう。

 例えば聖書スラムダンクでは、桜木花道のシュート特訓以降、ジャンプシュート時の下半身の使い方として、ジャンプを「ヒザから」行うという表現をよく使っています。

 これは間違ってはいないのですが、誤解を招く表現でもあります。

 よっしゃヒザ曲げてジャンプすればええんやな! と解釈すると、脚が「く」の字を描くようにただヒザだけを曲げる格好になりがちです。

 この体勢はジャンプするための力を上手く生み出せないばかりか、重心が前方に傾いていてバランスを崩しやすく、しかもヒザに全体重の負荷が集中するためヒザを痛めてしまいやすいという、何一ついい事のない下半身の使い方です。合理的な下半身の使い方をするには、「ヒザから」という意識は捨てた方がよいでしょう。

 合理的な下半身の使い方をするには、パワーポジションと呼ばれる姿勢を意識する必要があります。初心者向けの手順としては、下記のようになります。

 ①尻を後ろに突き出す

 ②腿が水平になる少し手前ぐらいまで腰を落とす

 ③気持ちかかと側に体重を乗せる

 これを正しく行うと、ヒザがつま先の真上ぐらいに来て、力強く踏ん張れる姿勢になります。そしてこれは同時に、全身の力を総動員してジャンプできる姿勢でもあり、ジャンプ中にボールを投げるに際しても、大きな慣性の力をボールに与える事ができます。

 この姿勢でジャンプしつつ、ジャンプ中にボールを頭上へと持ち上げ、そしてジャンプの頂点でリリースするのが理想的です。最もロスなくボールに力を加え、充分な飛距離を出せるシュートになります。


 続いては上半身のお話です。前述の通り、ジャンプシュートにおいては上半身は投擲の精密性を担う部位になります。

 上半身のフォームは人によって大きく違いが出るところです。まずもって片手撃ちと両手撃ちの二種類があり、さらにボールを構える高さや腋の締め方、肘の向きなど、十人十色だと言えます。

 しかし下半身の使い方のコツと同様、良いシューターに共通する要点はあります。それは「指先で撃つ」という感覚です。

 そもそも人間の体の中でもっとも器用な部位は指先です。ごく小さな物体を投げるならまだしも、直径24cm、重量700gほどの球状の物体を投げるともなれば、指先でリリースする方が精密にコントロールできる事は自明の理です。

 ジャンプシュートが上手くない人の手の使い方を見ると、多くの場合、腕で押すような格好で掌から撃っていたり、手首がしっかりと返っていなかったりします。これでは指先による方向づけをして投げる事ができないため、精密にコントロールなどできようはずもありません。

 まず大切なのは、掌をボールにべったりつける持ち方をしない事です。五指だけで(両手撃ちの場合は左右両手の五指で)ボールを持ち、掌とボールの間には隙間を開ける形にしましょう。こうすると自然と掌撃ちを予防する事ができます。

 そしてリリースの瞬間にはしっかりと手首を返します。フォロースルーとも言いますが、これをしっかりと行う事によって、余すことなくボールに力を伝える事ができるだけでなく、自然と指の一番外側――つまり指先でリリースできるようになります。これにより狙い通りにボールの飛ぶ方向をコントロールできるようになります。

 また副次的な効果として、フォロースルーをしっかりと行う事でボールに回転をかける事ができます。回転がかかっていると、ボールが何かに衝突した時の衝撃が回転によって和らげられます。つまりシュートがわずかに狙いを外してリングに当たった時、ボールが大きく跳ねるのを防いでくれます。言い換えると、跳ねたボールが運良くリングの内側に落ちてくれる確率をわずかながら高めてくれます。


 上半身と言うか腕の使い方について、もう一点追記します。ディップについて。

 ジャンプする直前、ボールを持った手をいったん胸より下に下げることをディップと呼びます。

 通常、ジャンプシュートを撃つ際には、ジャンプしながらボールを頭上へと持ち上げて構えます。その一連の動きの直前にボールをいったん下げる事で反動をつけ、より勢いよくボールを持ち上げる事ができるようになる動作です。

 普通にジャンプシュートを撃とうとするとどうも手前側に外れやすい、またはシュートの高さが出ないという人は、意識的にディップする事で飛距離や高さを稼ぐ事ができます。また余裕をもってシュートをゴールに届かせられるようになるため、リリースの瞬間、腕から指先までをボールコントロールの正確さだけに集中させられるという効果もあります。


 ここで語った内容はジャンプシュートの本質的な要点ではありますが、最終的に正確なジャンプシュートを手に入れるには反復練習しかありません。

 シュートフォームが人それぞれ違うのは冒頭でお話しした通りですし、それは反復練習の中で自分に合ったフォームが身についていくものです。

 とは言え、要点を捉えないまま反復練習だけを繰り返すと、合理的でないフォームに体が慣れてしまい、悪い習慣が身につく結果となってしまいます。

 撃つならば、良いシュートを撃ちましょう。

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