ディフェンスを抜け! ドリブルドライブ

 まずもって筆者は、脚が遅く、反射神経なども控えめに言って良い方ではなく、ドリブルそれ自体もあまり得意ではありません。

 本項はそのような人の視点から書かれていることを先に宣言しておきます。


 さて、ドリブルでディフェンスを抜くプレイはとても華々しく、バスケにおいて得点に直結するプレイの中でもひときわ格好いいというイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。

 ドリブルでディフェンスを抜く行為はスピード感があり、さらにそこから流れるように華麗なレイアップや急停止プルアップジャンプシュートなどへと繋げて点を取る。いかにもスピードと技が合わさった、華のあるプレイという印象があります。

 ゆえに、スピードのない人にはできない事なのではないかという印象もあるでしょう。

 断言しますが、そんな事はありません。

 そして同時に、スピードさえあればできるというものでもありません(あった方が有利には違いないですが)。

 筆者のような運動音痴マンでもディフェンスを抜くことは可能です。今回はこのあたりを語っていきます。


 最初に言葉の定義を。

 本項では「ドリブル」と「ドライブ」という2つの言葉が出てきます。

 「ドリブル」は、ボールをダムダムと連続的に床に対してつく行為です。読者の方々もご存知でしょうが、ボールを保持している者が自由に移動できるのは、これを行っている間だけというのがバスケの基本的なルールのひとつです。

 対して「ドライブ」は、ドリブルしながらゴールへ突き進み、原則的にはそのままシュートを狙いに行こうとするプレイを指します。拙作「ファイトオーバー!」では突破ドライブと表現しています。


 さて、それではまず聞くまでもないレベルの愚問をあえて行います。

 バスケにおいて、ドライブを仕掛けてディフェンスを抜く事で、得点にして何点得られるでしょうか?


 答えは明快です。

 0点です。


 ディフェンスを抜く行為は得点にして何の価値もありません。ディフェンスを抜こうとするのは「成功しやすいシュートを撃つための準備行動」であり、シュートが決まらなければ得点にはなりません。

 ストリートで1on1とかやってる人とかなのか何なのか、このあたりを時々勘違いしている人がいます。スピードがある、ドリブルテクニックが上手い、だから目の前のディフェンスとの1対1勝負ではドライブを仕掛ければ抜ける。でもヘルプディフェンスに入られて思うようにシュートが決められない。結果として決まらないシュートばかり撃つし、こういう人に限ってパスを回さない。俺がフリーだっつってんだろ(私怨)。


 かように、ドライブで得点するには、目の前のディフェンスだけを抜けばいいというものではありません。

 バスケは5人で行うスポーツですので、当然ながらディフェンス側は5人全員、何とかして失点を防ごうとします。目の前のディフェンスを抜いてゴールへと猛進してくる選手など、最優先で止められるものです。

 言い換えると、「どうやって相手チームのディフェンスをかいくぐってシュートまでもっていくか」のビジョンが必要です。

 レイアップを踏み切れる位置までのコースが空いているか、もしくは目の前のディフェンスを抜いた先にジャンプシュートを撃てるだけのスペースがあるか。その状況判断がないまま目の前のディフェンスだけを遮二無二抜いたところで、良いシュートには繋がらないのです。


 では、例えばゴール下に大きくスペースが空いていて、目の前のディフェンスを抜きさえすればイージーなレイアップが撃てそうだと判断し、いざドライブで抜こうとする段になったとしましょう。

 スピードのない人やドリブルの苦手な人はここで躊躇うかもしれません。と言うか筆者がつい最近まで躊躇っていました。自分はスピードが遅いから抜けない、と。

 抜けるんです。

 コツさえ押さえていれば。


 そもそも「抜く」とはどういう状態か。

 恐らく多くの人が想像するのは、ドリブルしながらディフェンスの横を通り抜けて、完全にディフェンスを置き去りにした状態ではないでしょうか。

 かなり乱暴な言い方ですが、まずはそのイメージを捨ててください。

 前述の通り、そもそもドライブは「成功しやすいシュートを撃つための準備行動」です。良いシュートに繋がらないドライブに意味はありません。

 言い換えると、良いシュートに繋がりさえすれば、ディフェンスを完全に置き去りにしている必要などないのです。

 良いシュートに繋がるのはどういう状態かと言えば、ドライブする選手に対して、ディフェンスが正面を防げない状態です。

 つまり、ディフェンスの"横を取った"状態です。具体的にはディフェンスのすぐ横へと踏み出して、自分の体をディフェンスの横へ持っていく事です。これができたなら、ディフェンス側は後ろへ下がるか、横から接触してファウルする事しかできません。

 これが"抜いた"という状態です。

 あとは彼我の身体能力とスキルの差にもよりますが、そのままイージーなレイアップに持ち込めればそれでよし。ディフェンスが後退する反応が早いか、横の取り方が浅いなどの理由により容易にレイアップに持ち込めないならば、フェイントを使ってディフェンスを無駄なブロックに跳ばせたり、急停止から距離短めのジャンプシュートを撃つなどの判断をし、実行します。


 つまり"横を取る"事がドライブの要点です。

 これをより詳細に見ていきましょう。

 コツはいくつかありますが、もっとも大切なのは、ディフェンスの横を取るために脚を踏み出す際、を踏み出す事です。

 例えば自分から見て右側を抜く場合、左脚を踏み出してディフェンスの横を取ります。こうすると、自然とディフェンスに対して自分の背中側を向ける形ですれ違う格好になります。

 これには2つのメリットがあります。

 ひとつはボールの保護です。ディフェンスに対して背中側を向けているならば、よほど不自然なドリブルをしていない限り、自分の体が盾になって、ディフェンスとボールの間を遮断できます。つまり、ボールを取られる危険性が大きく減ります。

 もうひとつは、自身の進行コースの確保です。横を取るために脚を踏み出す際、体勢を低くして、踏み出した脚と同じ側の自分の肩をディフェンスの腰あたりに横から当てる感覚で行きましょう。こうする事で、ディフェンスが自分の進行コース正面に立ち塞がってくるのを防げます。

(この際ディフェンスとの接触が発生しますが、これはオフェンス側のファウルにはなりません。オフェンス側が接触によるファウルを取られるのは、ディフェンス側が脚を止めているところに正面からぶつかった時か、意図的に危険なぶつかり方をした時だけです)


 さて、ここまで"抜く"とは"横を取る"事であるとお伝えしてきました。

 横を取る際には、自分が脚を踏み出すのと、ディフェンスが反応して立ち塞がろうとするのと、どちらが速くコースに入れるかの競争になります。

 なんだよやっぱスピードなんじゃねーかって思われるかもしれません。

 確かにスピードがある方が有利です。ですが、スピードの差を覆す方法というものもあります。

 一般的なバスケットボールのハウツー本やWeb上のコラムなどを見てみると、「フェイントをかける事によって、抜きたい方向と逆側にディフェンスを動かす」とか、「捕球ミートの際に大きく踏み出す事で、ディフェンスと正面で向き合っていない状態から勝負を仕掛ける」などの技が紹介されています。

 それらも有用な技には違いありませんし、むしろ優れた点取り屋の多くが実際にやっている事でもあります。しかし、結局は1対1で勝負を仕掛ける際の技術です。ちょっと前までの筆者のように、「自分はスピードがないからドライブで勝負できない」と気持ちが臆しているプレイヤーや初心者にはなかなかハードルが高い。

 そんな筆者がドライブへの苦手意識を克服した方法をご紹介します。

 それはズバリ、一人で勝負を仕掛けない事です。


 何度も申し上げていますように、バスケットは5対5で行うチームスポーツです。コート上には常に4人の味方がいます。

 それをディフェンスにとっての障害物として活用します。

 つまりどういう事かと言うと、味方の傍をすれ違うようなコースを狙ってドライブします。

 通常、ディフェンス側の選手は、自分のマーク対象がボールを持っている場合、目の前の相手に意識が集中します。

 つまり、横に障害物があっても気づきにくい。

 そのため、ボールマンが味方とすれ違うようなコースでドライブすると、意外なほど簡単に障害物みかたに引っ掛かってくれます。

 モロに引っ掛かってくれたならディフェンスと接触する事すらなく抜けますし、もし障害物がかわされたとしても、かわした分だけディフェンス側は出遅れます。その瞬間を突けば簡単に抜けます。

 この際、味方が気の利くプレイヤーであれば、スクリーンの姿勢を取って、ボールマンのドライブを積極的に援護してくれる事があります。多いに活用しましょう。


 なお、ディフェンス側の選手もやられるばかりではありません。ディフェンスを抜いた直後、障害物の役になってくれた味方をマークしていた選手が、ボールマンに対するヘルプディフェンスに入ってくる事は珍しくありません。

 その時は、障害物の役になってくれた味方の方へと視線を向けましょう。

 本来マークに着いていた選手がヘルプディフェンスに飛び出した事により、彼はフリーになっているはずです。

 そこにパスしてシュートを撃ってもらいましょう。

 拙作「ファイトオーバー!」をご覧の方はもうおわかりでしょう。これがピック&ロールです。

 もしくは、コーナーでフリーになっている味方が視界に入ったなら、そこにパスしてシュートを撃たせるのもアリです。ドライブを仕掛ける前に、コーナーで待機している味方がいるかは確認しておきましょう。


 筆者はこれでオフェンスが楽しくなり、また本職PGポイントガードの人がいない場合にはスローインのボールが回ってくるようにもなりました。

 バスケットのオフェンスは、ディフェンスを抜く事がすべてではなく、抜いたからといってシュートが決まらなければ仕方ないのも事実ではあります。しかし、ドリブルドライブでディフェンスを崩す行為は、オフェンスをクリエイトするという大きな意味があり、例え自分のシュートでオフェンスを終える事ができなかったとしても、攻撃に参加したという確かな実感を与えてくれます。

 だからこそ、ディフェンスを抜きましょう。

 それはとても爽快です。

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