リバウンドを制してもゲームを制せない現代バスケ

「リバウンドを制する者は試合ゲームを制す」。

 聖書スラムダンクのありがたい名言です。

 しかし悲しいかな、現代バスケにおいてはこれは必ずしも正しいとは言い切れなくなってきました。バスケットボール戦術は日進月歩で進化しており、近年はスラムダンク世代の頃と比べてリバウンドの重要性が低下してきている傾向にあります。


 そもそもなぜ「リバウンドを制する者は試合ゲームを制す」のか?

 答えは明快で、リバウンドをたくさん取れれば攻撃の機会をたくさん得られるからです。

 ただし、そこに至るまでの因果関係として、まずシュートが外れなければリバウンドは発生しません。「リバウンドを制する者は試合ゲームを制す」は、シュートがある程度の割合で外れてくれる事を前提とした理論だと言えます。

 言い換えると、高い確率でシュートが決まってしまうならば、「リバウンドを制する者は試合ゲームを制す」という格言は成立しないわけです。


 さて、ここで前項を振り返ってみましょう。

 現代バスケットボール戦術においては、得点期待値の高いシュートを撃つことがもっとも肝要であると説明しました。

 言い換えると、いかに確率の高いシュートを撃つかという事がオフェンス戦術の根底になってきています。

 つまり、「リバウンドを制する者は試合ゲームを制す」という理論に真っ向から対立する戦術理論こそが現代バスケットでの流行なのです。


 これは試合の内容にも如実に表れています。スラムダンク時代の試合では常にデカくてゴツいCセンターがゴール下を守っており、それゆえにゴール下を容易に攻める事はできず、だからこそゴール下でそのようなCセンターを打ち負かして得点しようとする、激しいぶつかり合いや華麗な空中戦こそがバスケットボールの華でした。

 現代では、ディフェンスに優れたCセンターをゴール下からおびき出すなどして無力化し、ゴール下でイージーシュートを撃つ事がベストなオフェンスとされています。

 また、スラムダンク時代は3Pシュートの概念が誕生してから十数年ほどしか経過していなかったため、3Pシュートに優れた選手の絶対数が少なく、3Pシュートを活用する戦術も充分に研究されてはいませんでした。現代ではこれらも進化してきており、スラムダンク時代よりも遥かに高い確率で3Pシュートが決まるようになってきています。

 このため、「そもそもCセンターにゴール下を守らせない」「ゴール下の守りが固い相手には3Pシュートを有効活用する」といった形で、確率の高いシュート、得点期待値の高いシュートを撃つのが現代バスケの傾向として明確に存在します。


 つまり、「ある程度はお互いシュートが外れるだろうから、リバウンド力が勝負を決める」という時代から、「リバウンドはシュートが外れた時の事後処理であり、まず何よりもどれだけ高い確率でシュートを決められるかが勝負を決める」という時代になってきているわけです。

 また、リバウンドというものは通常、ディフェンス側が有利です。もともとオフェンス側とゴールの間に立ち塞がって守るのがディフェンスであり、オフェンス側よりゴールに近い位置にいるのだから当然と言えます。近年ではここに、高さとパワーよりも機動力を重視した編成が流行してきている事や、攻めやすいスペースをゴール下に作る目的でオフェンス側が大きく散開する事が増えたりといった事情から、オフェンス側がリバウンドを取れる確率はますます下がってきています。

 結果的に、通常、相手にシュートをたくさん外させた方がリバウンドを多く取ります。しかしそうして順調に勝利したとしても、それは「リバウンドを取り勝った」のではなく、「シュートを相手よりも高い確率で決めた結果、相手がディフェンスリバウンドを取る機会が少なかった」のです。

 こういった事からも、シュートの得点期待値こそが本質となっている現代バスケ事情、そしてスラムダンク時代からの競技性の変遷を垣間見る事ができるのでした。

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