ポジション論

司令塔! PG(ポイントガード)

 最初に断言してしまいますが、拙作「ファイトオーバー!」の瞳ちゃんのような、クソザコ運動音痴だけど作戦能力とパスセンスだけでチームを勝たせられるようなPGポイントガードは現実には存在しません。


 そもそもバスケットボールは各ポジションの役割があまり厳密ではない傾向にありますが、とりわけこのPGポイントガードというやつは、非常にややこしくわかりにくいポジション名をしています。

 まず"ガード"と言うからには、主に守備的な役割を担うポジションなのだろうと誤解されがちです。実際のところ、ディフェンスに特化したポジションなどではまったくありません。

 バスケットボールは基本的に、5人全員で攻めて5人全員で守るスポーツです。5人全員が均等にオフェンスとディフェンスに参加します。サッカーのFWフォワードDFディフェンダーのように、主に攻撃担当、主に守備担当というような区分けはありません。

 じゃあなんで"ガード"とか紛らわしい名前ついてんだよって感じですが、まあバスケット戦術がまだほとんど研究されていなかった時代のポジション名の名残です。現代では、「(オフェンス時の)後衛にあたるポジション」ぐらいの意味で捉えていただければよいかと思います。

 そして次に"ポイント"の部分です。これもまた紛らわしく、"得点"とかの意味ではありません。ここでは動詞としてのpoint、つまり"指し示す"とか"指示する"とかの意味です。レーザーポインタとかのアレです。

 してみるとPGポイントガードとは、「味方に指示を出す役割の後衛ポジション」となります。やっと意味が繋がりました。


 ここまで長々と名前の由来を解説した通り、PGポイントガードは司令塔役のポジションです。コート上の監督だとかチームの頭脳だとか表現される事もあります。

 通常PGポイントガードは、5人の中でもっともゴールから遠く、かつ敵味方全体を見渡しやすい位置を中心に立ち回る事になります。これは当然ながら、司令塔役として、状況を把握し、全体を俯瞰して味方に指示を出しやすくするためです。

 前項で述べた通り、バスケットボールのオフェンスの本質は「得点期待値の高いシュートを撃つ事」です。PGポイントガードはチームの司令塔として、声で指示を出し、パスで味方を動かし、統一的な意図のもとにメンバーに仕事をさせて、チームの誰かが得点期待値の高いシュートを撃つためのお膳立てを率先して行わなければなりません。これをゲームメイクなどと言ったりします。

 ここでわりとよくある誤解は、「PGポイントガードはゲームメイクをして味方に点を取らせるポジション。自分で点を取りに行くのはダメなPGポイントガード」というものです。

 これは大きな誤解です。

 PGポイントガードが目指すべきは、チームの誰かが得点期待値の高いシュートを撃つ事です。

 PGポイントガード自身もチームの一員なのですから、「自分で撃つのが一番得点期待値が高い」と判断したなら、迷わず自分で点を取りに行く(そのために味方にサポートをさせる)のが好ましいゲームメイクです。

 とは言え前述の通り、PGポイントガードは基本的にはゴールから遠く、かつ全体を見渡しやすい(=角度的にゴール正面)位置にいる事が多いです。

 そのためシュートを自分で撃とうとするとどうしてもロングシュートになりがちですし、ドリブル突破を試みるとゴール正面方向から突っ込む事になるため、目の前の一人を抜いても左右から二人目・三人目が飛び出てくる事が多い。必然的にPGポイントガードのシュート成功率は低くなりがちです。

 ただ、自分で点を取りに行く素振りをまったく見せず、作戦指示とパスだけでチームを勝たせられるPGポイントガードは現実には存在しません。むしろ近年では、積極的に自分で点を取りに行き、それゆえにディフェンスの注意を強烈に引きつけ、自分に注意を集めたところで味方を活用して点を取らせる……というスタイルのPGポイントガードの方が高く評価されている傾向すらあります。

 

 そんなPGポイントガードの、具体的な試合の中での動きを見ていきましょう。

 オフェンスの機会には通常、まず何はなくとも一度ボールを渡されます。そして敵陣へとドリブルしてボールを運んだ後、攻撃を組み立てる最初のアクションを任される事がほとんどです。その最初のアクションがパスなのかドリブル突破なのか、あるいはもういきなりシュートなのかは本人の個性とチーム戦術とその時々の状況によりますが。

 いずれにせよ、PGポイントガードは「ボールを運び、オフェンスの最初の一手を担う」のが第一の仕事です。

 その途中でボールを相手に奪われないよう、正確なドリブルとパスの技術が必要になります。加えて自らのドリブルとパスを、得点期待値の高いシュートに繋げられるだけの作戦能力や状況判断力も必要になってきます。

 また時には頭で作戦を考えるだけでなく、声を出して味方に指示を与えなくてはならない場面もあります。ある種のメンタル的な強さやリーダーシップも求められると言っていいでしょう。このあたりが、「PGポイントガードはバスケでもっとも専門的なポジションである」と言われる所以です。コート上の監督などという表現も大袈裟なものではありません。

 実際、PGポイントガードの選手が話しかけやすい雰囲気を持ち、かつ自分の意見をはっきりと(「強い語調で」という意味ではなく、「みんなに伝わりやすい言い方で」という意味で)主張してくれると、チームの雰囲気も良くなる事が多いです。筆者の経験上。


 そしてPGポイントガードの第二の仕事は、走りです。

 PGポイントガードは通常、オフェンス時には5人の中でもっともゴールから遠い位置を中心に立ち回ります。言い換えると、「自軍ゴールに一番近い」のです。

 そのため攻守交代した直後、相手からの速攻で失点しないよう、真っ先にディフェンスに戻って相手の攻撃を食い止める必要があります。速攻阻止セーフティというやつです。

 逆にディフェンス時には、もっともゴールから遠い位置を守っている事が多いため、「相手ゴールに一番近い」です。そのため攻守交代の直後には隙あらば速攻を狙い、イージーシュートのチャンスを生み出す事ができるとなお良いとされます。

 かように、PGポイントガードには走力も求められます。そしてこれが、PGポイントガードには小柄な選手が多い事とも密接に関係しています。

 一般的に小柄な選手の方が走力には長けていますし、何よりPGポイントガードはゴールから離れた場所での仕事を担当するため、ゴール下で頻繁に行われるような体をぶつけ合う肉弾戦にはあまり参加しません。そのため身長やガタイが、他のポジションほどには求められない傾向があります。

 実際、平均身長が2mを越えるNBAの世界においても、170cm台の選手がわずかながら生き残っているのがこのPGポイントガードというポジションです。


 総括すると、PGポイントガードとは、

 ・チームを動かす司令塔であり

 ・得点期待値の高いシュートに繋がるようにボールを移動させるスペシャリストであり

 ・速攻や速攻阻止のために誰よりも走る選手であり

 ・その代わり身長は低くてもいい

 です。


 PGポイントガードであるという事は、ただバスケットボールプレイヤーであるという事よりもワンランク難しい事です。

 元プロ選手で、かつ引退後もプロの世界でバスケットボールコーチをしている人について調べてみると、たいていのコーチは「現役時代はPGポイントガードだった」と出てきます。そのあたりも、このポジションの専門性の高さを表していると言えるでしょう。

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